【コラム】「先進国化」という呪文(下)

 「先進国化」という言葉は、30年前の韓国にはふさわしく、必要な言葉だった。だが今は、どこかおかしな感じがする。世界10位台の経済大国で、「われわれは後進国だ。先進国化を目指すべきだ」と呪文(じゅもん)のように唱えている光景は、果たしていかがなものだろうか。

 問題が多い市民の意識、順法意識、不正腐敗、公私混同、情実主義など、韓国に今も開発途上国的な要素が残っていることは事実だ。さまざまな社会システムも、先進国に見習うべき部分は少なくない。だが今や、韓国も一定の部分については先進国と肩を並べるレベルにあるということは明らかな事実だ。「先進国の白人たちの独壇場」だった冬季五輪のスピードスケートで、韓国の選手が金メダル2個、銀メダル2個を獲得した。その途端、日本のメディアが「韓国を見習え」と言い出した。ほかの国でも、韓国のスポーツを研究しようという動きがあるという。

 「先進国化」という呪文を唱え続けることで、「先進国は良いことだらけ」という錯覚に陥る危険性もある。米国の政府債務は国内総生産(GDP)の90%に迫る。イギリスも似たような水準で、日本は200%を超えている。翻って、政府債務がGDPの30%台の韓国が、この点に関して「先進国化を目指す」というのは、異常としか言いようがない。「世界最高の製造業」といわれてきたトヨタ自動車は、現代自動車について分析し、長所を見習う方針を打ち出した。また、サムスン電子は今や、世界最大の電機メーカーとなった。米国発の世界的な金融危機も、韓国が世界で最も早く克服しようとしている。経済分野でも「韓国を見習おう」という言葉が登場している時代だ。オバマ米大統領は、「韓国の教育を見習うべきだ」と発言し、また原子力政策でも韓国を「見習うべき対象」と指摘している。

 韓国が先進国の仲間入りを果たした、とは言わない。決して自慢することではない。だが今や、「先進国に追い付く」ことが、韓国のあらゆる問題の解決にはなり得ないレベルに達している。

李陳錫(イ・ジンソク)記者(経済部政策班長)

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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