情報の物質化 RFIDタグを利用することによる

狭いインターネット、狭いハードディスク

コンピュータの情報保存領域は、理論的には無尽蔵に拡張可能ではあるけれど、現実にはすごく小さなスペースしか無い。
というのは、多くの人にとって、ネット上の情報とは、現実的にはYahooやGoogleの検索結果上位10件ほどのスペースでしかないし、 パソコンに保存した自分のファイルは、ExplorerやFinderの小さな窓の奥底に押し込まれている。
そしてそれらの最終的な窓口であるPCのディスプレイは、A4サイズ程度の小さな窓だ。

確かにGoogleやYoutubeには膨大な量の文章や映像が保存されているが、本棚には置けない。

しかし、本来情報とは、そのメッセージを受け取る状況も含めた、もっと複雑な体験として感受するものではないだろうか。
その体験が、現状の情報デバイスでは、小さなディスプレイを通しての経験に制限されてしまっている。

ネットワークのインフラ化によって、インターネットに接続されたサーバー上に保存された情報に対しては、どこからでもアクセスできるようになった。
次は、その情報へどのようにアクセスするかが問題となる、

私はこうしたい

人の認識能力は、この二つの同じ色のビー玉を識別することができる。
この二つのビー玉を見分ける手がかりは記号ではない。
ガラスが製造される過程で現れた微妙な色の違い、色ムラ、傷などの表面の状態を見極める、とても繊細で豊かなセンサーを人は持っている。

どんな物でも、膨大な情報が刻み込まれている。と言うよりも、人は物から膨大な情報を見て取る事が出来る。 この物質にデジタルデータを紐付けしてやれば、人の知覚能力を矮小化しない、人の知覚能力を十全に発揮できる、 データの保管、整理、携帯、譲渡、展開の手法を実現できるのではないかと考えた。

ネットワーク上の情報のへアクセスする為のアドレスが記述されたRFIDタグを、実空間に存在する物質に埋め込むことによって、デジタルデータは、実空間の具体的な場所に、個別の形状を伴って存在することになる。
データの再生は、RFIDタグを埋め込まれた物質を、リーダーが埋め込まれたテーブルや音楽/映像プレイヤー、ブックリーダーの上に置くだけで良い。
つまり、(ネットワーク上に保存された)デジタルデータ(へのアクセス手段)を物質として手に持ち、ポケットに入れ、棚に保管し、 人に手渡しする事ができる。

電波が通過する材質であれば、あらゆるオブジェにRFIDタグを埋め込む事が出来る。
子供の成長の記録をキューピーちゃんが、愛犬の写真を犬のフィギュアが、技術資料を真空管が、音楽をビーズやビー玉が、そしてアルバムアートは、何個ものビーズを入れたガラスチューブのコルク栓が、記憶してくれる。しかも、万が一RFIDタグが破損したとしても、オリジナルのデータは傷付かない。

このようにして、人と人が存在する実空間の中に、デジタルデータとのセクシャルな関係が生まれるのではないだろうか。

デジタルコンテンツの配信、アクセス権の販売

たとえば音楽CDや映像ソフト等では、そこに記録されたコンテンツのアイデンティティを表現する為に、パッケージデザインに様々な工夫が凝らされている。 同様のデザイン上の工夫を、このRFIDタグを埋め込んだ物質に施し、流通させれば、デジタルコンテンツのネット配信の新しい可能性が開けるのではないだろうか。
つまり、情報そのものを流通させるのではなく、情報へのアクセス権を、手に取れるかたちで流通させるのである。 例えば、値段の高いコンテンツならば、それに相応しく美しいオブジェにアクセス権を埋め込んで流通させる等、バリエーションを持たせる事ができる。

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