STUDIO VOICE ONLINE スペシャル対談 夏目一人×久保俊哉 〜クリエイティブ×ビジネス〜

クリエイティブとビジネスを結ぶ新たな可能性

久保俊哉さんと夏目一人さん。奇しくも広告代理店勤務を経て、現在創造的な活動を続けているお二人。そんな二人を迎えてのスペシャル対談。お二人の活動やクリエイティブに対する考えなど、貴重な話を伺いました。

SVO編集部(以下SVO):まずはお二人の現在の活動を教えてください。

夏目一人さん(以下夏目):はじめまして。僕は環境を考えた商品をどうクリエイティブに落とし込むかという 活動を行っています。最初に手掛けた商品はビニール傘でした。雨が降って購入したビニール傘は、一たびやむと放置され、ゴミとなり社会問題となっておりました。そこでビニール傘を使い捨てにしないインスタレーションを各都市で行い、商品は世界中へと渡りました。
現在は、フランスのカラークリエイティブを推進するクリエイティブ集団とともに、生産者と販売者が直接取引し、フェアトレードのコットンを使ったアパレルを日本でリリースするプロジェクトなどを手掛けています。
それらと平行して、オーガニック化粧品開発と、最近の話だと緑化対策によるルーフソイルを普及するような、家庭菜園などできる専用プランターを考えていたりしています。  他の活動では、社会文化や道徳を見直す「財団法人 夏目漱石」という組織も立ち上げたりしました。

久保俊哉さん(以下久保):僕は、優れているけど陽の当たらないクリエイターを見てきて、彼等をサポートしたいと強く思っていました。東京で仕事をしていたのですが、今は生まれた場所である北海道(札幌)に戻って、クリエイティブ産業を「札幌の新産業」にするためのプロデュース業務をやっています。

SVO:夏目さんは広告代理店時代には、どのようなことを?

夏目:さまざまな会社のプロジェクトのプランニングや広告制作を手掛けました。その中で、広告代理店の考える戦略とメーカー側が消費者に伝えたい提案というのにブレがあると感じて独立しました。一概には言えないのですが、広告代理店というのは、商品を意図的に格好よく見せようとして様々なクリエイティブツールを作ります。しかし、実はメーカーは一消費者へのアプローチという立場でモノを作っている。そのギャップを感じて、消費者に近い位置でクリエイティブをしたいと思ったのがきっかけです。そこから、実際に自分でもプロダクトを作ったり、フェアトレード製品をプロデュースしたり、消費者に近い目線でいろいろな活動をしています。

久保:今のお話にはすごく共感しますね。僕も代理店時代に、これは受注産業的なところがあって、クリエイティブとある種遠い存在だと思い、作り手であるゲームメーカーに転職しました。僕自身は音楽も写真も映画も好きでしたが、ミュージシャンでも映像クリエイターでもない。でも、ゲームで一からものを作り出すことを経験して、これは一歩引いたところから“総合的に”クリエイティブなことができるかなと思い始めました。

夏目:僕の考える究極のクリエイティブというのは「想像力でものを伝える、形にする」ってことなんです。僕自身も一消費者であり、その立場から考えると持続可能なサスティナブルな社会という考えがキーワードで、それには人の心や、生き方が重要になってくると思いますね。どういう消費生活をしていきたいかという発想が重要だと…。

久保:そうですね。何をもってクリエイティブかというのは非常に難しいんですけど、英国のクリエイティブ企業家であり、デザイン集団トマトを作ったスティーブ・ベイカーさんが「クリエイティブとは、未知の領域に地図を描くこと」とおっしゃっていたのが印象的でした。自分自身もそういう新しい発見とか発明とかがもともと好きでしたし、ある意味、アートや映画や音楽だけでなく、ビジネスをクリエイトすることもできるなと。
私がコーディネーターを務める札幌のクリエイター支援施設「ICC」を例に挙げると、クリエイターはある種の種と例えるなら、その活躍のフィールド(畑)が札幌にはないと。そこで、「札幌国際短編映画祭」という映画祭を主催して、札幌から、世界へ羽ばたくという回路を作ろうと。この時代、札幌から直接世界というのもありだと思いまして。

夏目:若手の映像作家の発表の場になりますね。

久保:そうなんですよね。2006年に始めた時は、国際映画祭ですから世界中から作品を集めるといったら映画関係者から「どうやって作品を集めるのですか?」と問われて「インターネットです」と答えたら怪訝な顔をされました。信じてもらえなかった。実は、映画祭を始めるにあたって、フランスの「クレモンフェラン」という世界最大の短編映画祭やアメリカの映画祭を訪ねて、フィルムメーカーの方と話をしたり、ブースを持ったりという広報活動を行いました。そういった地道な努力もあり、最初の年から70カ国から応募が1700本もあったんです。この3年で、96カ国延べ6600本の作品が集まって、札幌の街を上げて上映をするなど地域とも密着した形で映画祭を運営しています。現在までグランプリはすべて海外からの作品ですが、その中にはアカデミー賞の短編映画賞にノミネートされた作品もあります。

夏目:外国に行くと、クリエイターの積極性に驚きますね。ある意味押しつけがましいくらい(笑)。皆さん誇りを持ってやっている。何を伝えたいかというぶれない軸があるんですね。そのあたりは、日本と違いますね。
日本人は謙虚さがありますね。でも、それもいいところで、日本人の考えるクリエイティブな世界というのをどんどん海外に出して行くことによって、お互いに影響し合えればいいなと。海外と接点を持って思うのは、しっかりと物事を考えて打ち出していくというのは重要だと思います。

久保:まさにそうですね。産業でも、人でも、国でも異質なものが出会うときに新しい概念や発見が起こったり、そこから化学反応でエネルギーが生まれたりすると思います。

夏目:そうですね。企業の方と話をすると、消費者に伝えるには「新しい発想と表現力」が必要だと言われます。その発想が社内にないから、僕たちに仕事が来ると。その発想する力と創造する力、想像力は日本人が考えていくべきことだと思います。

久保:でもなかなか日本では、クリエイティブというのが認められにくいのが現状ですね。たとえば、クリエイターは下請け業者のような弱い立場であったり、社会的な立場が確立していないことが多いです。

夏目:日本人がやらなくてはいけないのは、自分の発想力や表現の場を自分で作っていくことだと。もともと日本人の感受性は高いと思っているのですが、それを伝える発信力に欠けているところがありますね。日本人もどんどん海外に出て行ってほしいですね。

久保:映画祭をやっているのも、まさにそこのところですね。自分を伝えるというのは、とても重要で、自分で自分の価値を上げてセルフプロモーションをしていかないと、クリエイターもきちんとビジネスをしていかないとならない。

SVO: お二人ともクリエイティブとビジネスっていうのを、きちんと自分の立ち位置の中で表現されていると思うんですけども、クリエイティブとビジネスの関係をどう考えていらっしゃいますか?

久保:僕は経営の中にあるべきだっていうふうに考えていて、僕自身はビジネスとクリエイティブを切り離してはいけないというふうに思っています。経営者側の理解が重要であると。クリエイター自身も発注された下請け業者という立場でなく、経営に直結するような人材に育つべきだと強く思いますね。

夏目:僕は、一言で言うと「マーケティング+ブランディング=会社」であると思っています。そういう感覚がまだ日本の企業にはあまり無い。それぞれの会社によってコンテンツが違う、それを伝えるには、それぞれがきちんとした表現の力を発揮するのが必要だと思います。クリエイターが表現を形にするクリエイティブな発想というのは、企業に不可欠だと。積極的に企業とクリエイターとのコラボレーションをして形に残したいものです。

SVO:今日はありがとうございました。

PROFILE

久保俊哉
久保俊哉

1957年小樽市生まれ。メディア・プロデューサー。マーヴェリック・クリエイティブ・ワークス代表。広告代理店、ゲームメーカー、CGプロダクションを経て2002年4月にマーヴェリック・クリエイティブ・ワークスを設立。今年で4回目を迎える「SAPPOROショートフェスト」や「ワンドットゼロ_ニッポン」などコンテンツ分野のフェスティバルをプロデュース。アーティストやデザイナーのマネージメントを務め、キャラクターなどのライセンスビジネスも手掛けている。

夏目一人
夏目一人

1972年東京生まれ。カルチュラル・クリエイティブス代表。曽祖父である夏目漱石の「財団法人夏目漱石」理事長も務める。博報堂に入社後広告クリエイターとして活動。00年独立し、広告クリエイター及びプロデューサーとして活躍。2007年から環境活動に参画し、エコプロジェクトの傘「エバーイオン」を商品化。現在は、国内外の天然素材を基に発案される石鹸・基礎化粧品の開発をはじめ、フランス発のフェアトレードにおるオーガニックコットンを使用したアパレルもリリースしている。

LINK

インデックスページに戻る