先日、シンガポールに住んでいるファンド経営者の友人と話した。彼はライブドアや村上ファンドの事件のあと、日本ではファンド事業はできないと考えて家族ともども移住したのだが、このごろシンガポールに移住したいという問い合わせが増えているという。「ライブドア事件の影響は実に大きかった。あれから日本で起業しようという人々が激減した」と彼は嘆いていた。
けさの日経新聞によると、タイヤ大手のミシュランと燃料電池大手のバラードが日本から撤退するそうだ。すでにCATV大手のリバティ、大型店のカルフール、保険のプルーデンシャル、高級ブランドのヴェルサーチ、事務用品のオフィス・デポが撤退を決めており、国際収支統計によると、昨年の対日直接投資は118億ドルと前年の半分以下になり、GDPのわずか0.2%である。

すでに貿易では新興国との競争に日本は負けているが、これからは資本市場での競争がが激化するだろう。多国籍企業がアジアの拠点を中国に移すケースが増え、新しい企業も日本を飛び越して中国に進出するケースが増えた。その最大の原因は市場の成長が大きいことだろうが、日本の規制が多く、法人税が高いことも「ジャパン・パッシング」の原因になっている。

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問題は外資だけではない。経産省のアンケートによれば、図のように日本の企業も海外移転の動きを進めている。本社機能を移す企業はまだ少ないが、海外の子会社に利益を移転して日本での納税を減らそうとする傾向が強まっている。特に法人税13%のシンガポールとの競合が強まり、一人あたりGDPで日本はシンガポールに抜かれた。人口が10倍の中国にGDPで抜かれるのは当然としても、一人あたりでもアジアでもっとも豊かな国ではなくなったのだ。

その原因が、税制と規制にあることは明らかだ。JBPressでも紹介したように、日本は1980年代以降の租税競争に乗り遅れて、世界的にみて異常に高い法人税が残っており、これが外資や日本の大企業が日本から逃げる大きな原因だ。特に注意を要するのは、このように海外法人を移せるのは大規模な製造業だけで、サービス業は高い税率の国内に残るということだ。このため日本企業の国際競争力は落ち、投資は減り、長期停滞はさらに続く。

国会でも民主党の閣僚が法人税の減税を話題にし始めたが、これは自民党も賛成するだろう。法人減税には財務省が反対し続けてきたが、企業が海外に逃げては結局、課税すべき所得が減って税収は減ってしまう。複雑な租税特別措置をなくして課税ベースを広げ、法人の7割が税金を払っていない状況を改めれば、税収中立にすることは可能だろう。なにより企業の投資を促進することが現在の日本の最大の課題である。