きょうのコラム「時鐘」 2010年3月12日

 大事なトキを死なせてしまって、担当者は胃がキリキリ痛む思いで対策に追われていることだろう。寝静まった夜の不意打ちだった

小動物の襲撃にあっけなく屈する弱い鳥かと思えば、黒部や八尾に飛んでくるたくましさもある。但馬のコウノトリは能登や加賀まで飛んできた。野鳥の習性は、人間の持つ物差しでは測れそうにない。だから、不測の事態や手違いがなくなるとも思えない

冬季五輪のあの「感動」がまだ記憶にある。開会式の聖火点火で、4本の柱のうち1基が舞台に出てこなかった。大失態がテレビ中継されたが、閉会式でもう一度驚いた。道化師が登場し、「お待たせ」とばかりにコンセントをつなぐ芝居をして柱を立て、火がともった

失敗を逆手にとった一幕は、かっさいを浴びた。飛ぶ覚悟をした関係者のクビも無事だったろう。批判の矢を浴びながら、見事な知恵をひねり出した。失敗は成功のもとである

水も漏らさぬ管理ができるまで放鳥は先送り、と報じられる。不測の事態に尻込みし、後ずさりを繰り返すのは私たちの悪い癖。それでは、トキも喜んではくれまい。