【台北=野嶋剛】死刑制度がある台湾で、司法部門のトップ、王清峰・法務部長(法相)が「私が死刑囚にかわって処刑されても構わない」と死刑執行への反対を表明したところ、死刑賛成が世論の主流である台湾社会から厳しい批判を浴びている。
王部長は人権派弁護士出身で、死刑廃止が持論。台湾には現在、44人の死刑囚がいるが、王部長は2008年の就任から一度も執行を認めていない。
部下の次期検察総長が9日に立法院(国会)で「裁判で刑確定後は、死刑は執行されるべきだ」と答弁したのを受け、10日に「理性と寛容」と題した死刑執行停止を求める文書を発表し、さらに法務部内に死刑廃止の検討委員会を作った。
記者団には「死刑が行われても犯罪は存在する。辞任してでも死刑は執行しない。私が死刑囚にかわって処刑されても、地獄に落ちても構わない」と感情的に語った。
これに対し、主要紙「聯合報」は11日朝刊で74%が死刑廃止に反対し、賛成は12%という世論調査を公表。42%が王部長の辞任に賛成した。
一部メディアは「世界の主流は死刑廃止で、勇気ある発言だ」とする識者の擁護論も紹介しているが、与党・国民党の保守系の立法委員(国会議員)や、殺人事件の遺族は「法の執行ができないなら辞任すべきだ」と批判を展開している。
苦しい立場に追い込まれた馬英九(マー・インチウ)政権は11日夕、「法務部は法律に従って執行すべきだが、将来は法の運用で死刑判決の件数を減らすなどの方向を目指す」とする声明を出し、火消しを図った。