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読む政治:子ども手当法案 2万6000円の呪縛、苦悶する長妻氏

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 民主党衆院選マニフェスト(政権公約)の目玉、子ども手当法案が衆院で審議入りした。月額2万6000円(10年度は1万3000円)の根拠をどう説明するか、税収の1割以上、5兆円を超す規模の財源をどう調達するのか--。所管する長妻昭厚生労働相は、日々苦悶(くもん)している。【佐藤丈一】

 ◇「政治的な額」、根拠示せず

 政策決定に際し、合理的な根拠やデータを極めて重視するのが長妻流だ。それが厚労相就任前に党が約束し、本人に裁量の余地がない子ども手当に関しては勝手が違う。24日の衆院厚労委員会では社民党の阿部知子氏から2万6000円の根拠を問われ、「諸外国の事例、いろいろな要素を勘案し、(09年衆院)選挙前に確定させた」と歯切れの悪い答弁に終始した。

 「根拠なしに質疑できない。出さないと予算委員会を止めるぞ」

 2月初め、自民党の加藤勝信厚労部会長は厚労省幹部に電話でそう言い含めた。子ども手当法案の審議を前に、給付水準の根拠を示すよう迫ったのだ。

 報告を受けた長妻氏は、他の政務三役と協議を重ね、官僚にも理論武装を指示した。だが期限には間に合わず、5日、仕方なく加藤氏の事務所に1枚紙をファクスで送った。

 0歳2万2451円▽1~3歳2万1568円▽4~5歳4万230円▽6~8歳1万6928円▽9~11歳1万7631円▽12~14歳3万6732円--。ペーパーには「子どもが育つためにかかる費用」として食費、被服費、基礎的学費を積み上げた月額が並ぶ。0~14歳の平均は2万5433円で、そこから給付額を2万6000円に設定したことを示唆していた。

 これは民主党が野党時代の07年に作った資料の焼き直しだ。基礎的学費に学校教育費を含めながら家庭教育費は除外するなど、恣意(しい)的な印象をぬぐえない。いちべつした加藤氏は「後付けだね」と鼻で笑った。

 制度設計にかかわった党関係者は「いろいろなデータを、2万6000円になるよう当てはめた」。厚労省政務三役の一人も「総合的判断で作られた政治的な額」と認める。

 ◇07年参院選前、小沢氏ツルの一声

 民主党が98年に提唱した子ども手当について、05年、岡田克也代表(当時、現外相)は月額1万6000円とし、05年衆院選マニフェストの上位に置いた。配偶者控除などを廃止し、財源に充てる。控除廃止で浮く金額は中学卒業までの子ども(1900万人)1人当たり約1万6000円。新たな財源は不要で、税の簡素化、世帯より個人という理念に沿った内容だった。長年子育て支援の必要性を説いてきた、同党の小宮山洋子衆院議員らが手がけた。

 「やはり、女性は子どもだね。若い人は自分の子ども、高齢の人は孫の話になると目の色が変わる」

 参院選を1年後に控えた06年夏。民主党の小沢一郎代表(当時、現幹事長)は党本部代表室に小宮山氏を呼び、全国を行脚して得た感触を伝えた。「参院選でも子ども手当をマニフェストの上位に入れてくださいね」。そう求める小宮山氏に、小沢氏は「分かった」とうなずいた。

 そして07年1月、小沢氏は衆院の代表質問で唐突に「6兆円規模の子ども手当を創設する」とぶちあげる。1人月額2万6000円。当時、公明党から「1万6000円なら控除廃止で負担増となる世帯も出る」と攻撃されていた。参院選は半年後に迫っていた。

 それから約3年--。政権交代を経て、トップダウンによる理念なき1万円上積みは、そっくり鳩山政権の政策に納まった。「2万6000円ありき」のつじつま合わせをつぶさに見てきた議員は「あれで財源の話もおかしくなった」と漏らす。

 ◇メド立たぬ財源 「11年度満額」修正へ地ならし発言も

 政権交代直前、危機感を抱いた民主党の政調職員は厚労省幹部を訪ね「子ども手当は問題になる。課題を整理しておいてほしい」と求めた。幹部は「事務方では答えられない。約束したのはあなた方だ」と伝えながらも一枚のメモを渡した。

 「趣旨、法の目的規定」「2・6万円の根拠」「財源構成」「所得制限を行わない理由」……メモには子ども手当に関する懸案が列挙されていた。舛添要一前厚労相は長妻氏に業務を引き継ぐ際に同じ文書を渡した。長妻氏も夜、再三小宮山氏の自宅に電話し「根拠のデータは」「話を聞ける人は」と尋ねた。

 それでも支給額の明快な根拠は見いだせないままだ。財源を巡っては、半額支給の10年度でさえ「全額国庫で」という約束を破り、地方に負担を求めざるを得なかった。11年度は3兆円近い追加を要する。消費税1%分以上にもかかわらず、メドは立っていない。鳩山由紀夫首相は事業仕分けに期待をつなぐものの、枝野幸男行政刷新担当相は16日、「大きな金額(の削減)は想定していない」と予防線を張った。

 結局、厚労省は法案に金額を入れず、1年限りの時限立法にとどめた。せめて付則に「11年度の満額支給」を盛り込めないかと粘ったが、財務省に「財源がない」とはねられた。鳩山首相の発言のぶれも不安に輪をかけ、政府・与党内には11年度の満額支給を危ぶむ声が後を絶たない。

 「未来への投資と位置づけ、厳しい財源の中だが努力する」

 長妻氏は23日、記者団に満額支給への決意を語った。

 しかし、官邸筋からは「真っ先に削るのは、金額の一番大きな子ども手当だ」「2万円に減額しても影響はない」といった、マニフェスト修正への地ならしとみられる発信が相次ぐ。

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 ◆長妻厚労相の最近の言動◆

2月 1日 鳩山由紀夫首相が小中学校の学校給食費の滞納分を子ども手当から天引きできないか検討を求め、長妻氏は給食費以外の滞納分にも拡大する可能性を示唆

   3日 参院本会議で、子ども手当を児童養護施設などの子供にも支給する方針を表明

   8日 所得や社会保障の情報を一元的に管理する番号導入へ向けた、関係閣僚らによる検討会の初会合に出席

  13日 TBSの番組で年金事務費に保険料から約2000億円を流用している問題について、「4年間でゼロにしたい」と述べる

  19日 閣議後会見で、公共的な空間での原則全面禁煙を求める通知を今月中に出す考えを明らかに

  23日 子ども手当法案が自民党欠席の中、衆院で審議入り。財源について「歳出削減や予算の見直しに徹底して切り込む」

毎日新聞 2010年2月28日 東京朝刊

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