「ボク様」卒業への道

2010年3月8日

【25】人妻を離婚させて、結婚しました

侠気溢れる役者、矢崎幸司の場合

<今週のロスジェネ既婚男>
年齢:35歳
結婚年齢:32歳
仕事:建築業、役者
世帯年収:600万円
家族構成:妻

 高校時代の先輩で、黒豹みたいな雰囲気の男がいる。舞台役者をしている矢崎幸司(仮名、35歳)だ。細身だがよく鍛えられた八頭身、ゆっくりだけれどしなやかな歩き方、鋭い眼光。別に殴られた経験があるわけではないのだが、矢崎の前ではなぜか緊張してしまう。

 待ち合わせ場所の新宿・紀伊国屋前に現れた矢崎は、なぜか建設現場の作業員風の格好だった。聞けば10年前から建設会社で働いているのだという。「舞台じゃ稼げねえよ。本業はこっち。今夜は駅工事で夜勤だから1時間ぐらいしか新宿にいられない」という矢崎。急いで大衆寿司屋「栄寿司」に入り、お任せの寿司をつまみながら話を聞こうとすると、矢崎はいきなり僕の近況を聞いてきた。やりにくいなあ…。

大宮(以下、O) とりあえず生ビールでいいですか。
矢崎(以下、Y) 
いや、俺は今から仕事に戻るからウーロン茶で。

O あ、そうでしたね。すみません。さっそく本題ですけど、僕と同世代の既婚男性に結婚生活の実態を伺うという企画なんです。矢崎さんの…。
Y 
そんなことより、冬洋(←僕の名前です)はどうなんだよ。

O ぼ、僕の近況ですか? 実は昨年末に結婚しまして…。
Y 
何で報告しねえんだよ!? 年賀状にもそんなことは何も書いてなかったぞ。

同棲の相手は人妻。そしてその亭主は…

O すみません。何となく気恥ずかしくて親族以外には特に誰にも報告してないんです。ほら、年賀状とかに結婚式のラブラブ写真やわが子のアホ写真を貼り付けてくるヤツがいるじゃないですか。正直、センスを疑います。そういうことは家族の中だけでこっそりやってほしいです。あっ、矢崎さんも写真付きの結婚報告ハガキをくれたんでしたっけ(笑)? なぜか真顔でモノクロだったなあ。
Y 
二人の免許証をスキャンして貼り付けたんだよ。まあ、俺も「ラブラブ写真」は嫌だったから。結婚式もやってねえし。でも、報告はしろよ。水臭えじゃねえか。

O どうもすみませんでした。
Y 
ま、わかってくれればいいよ。乾杯だ。ウーロン茶で悪いな。

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著者プロフィール

大宮 冬洋(おおみや・とうよう)
フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職するがわずか1年で退職。編集プロダクションを経て、2002年よりフリー。『日経ビジネスアソシエ』、『プレジデント』、『きょうの料理ビギナーズ』、『dancyu』などで執筆。バブル経済を謳歌した人々のおバカな思い出話を聞く「バブルに学べ!遊ぶ力」も連載中。著書に、『30代未婚男』、『ダブルキャリア』(ともに共著/NHK出版)がある。最近の課題は「自炊」。食生活ブログをほぼ毎日更新中。

このコラムについて

「ボク様」卒業への道

 「結婚した男には取材してくれないの? 俺だってまだまだ現役だよ…」。結婚6年目の友人(既婚、32歳)が酒の席でつぶやいた。僕が以前にやっていた連載「ロスジェネ世代の叫び!ボク様未婚男のリアル」を毎週読んでいるが、既婚者の話が出てこないので疎外感を覚えるという。知ったことか! お前は20代で同僚の美人一般職と結婚して、目下育児中だろう。何が「現役」だよ。早く帰宅してオムツを換えろ! 嫉妬交じりに罵倒しようと思ったら、友人の目が真剣なことに気がついた。何か鬱屈があるのだろうか。幸せ自慢を聞くのは苦手だが、哀愁を共有するのは嫌いじゃない。いいよ、分かった。今度はお前の話を聞くよ。
 僕の同世代は、大学3、4年生で就職氷河期を経験したことから、ロストジェネレーション(1972年〜82年生まれ)と呼ばれる。経済的な理由などから、「結婚適齢期」にもかかわらず結婚に踏み切らない人が多い。では、この世代で結婚をしている男たちはいったい何を考えているのだろうか。どうして結婚したの? 結婚してよかった? 何が不満なの? キレイゴト抜きの正直な気持ちを聞かせてくれ!

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