2010年03月11日

PTSDで、自殺完遂のリスク10倍。

デンマークで1994−2006年に15−90歳で自殺した全員9,612人と、自殺をせず性別や年齢などを合わせた比較群199,306人の過去の病歴を比較したところ、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)の患者では自殺完遂のリスクが9.8倍と高かった。論文はAmerican Journal of Epidemiology2010年3月15日号に掲載された。

研究は、人口約540万人のデンマーク国民全員を対象とする各種の登録(住民登録、死亡登録、精神科診療登録など)を、国民各人に割り当てられたID番号(国民総背番号)を使ってリンクして行なわれた。PTSDの既往があったのは、自殺群の38人(0.4%)に対して、比較群では95人(0.05%)だった。

自殺群は比較群と比べて、単身者、低所得者、PTSD診断前のうつの既往者の割合が高かった。これらの相違を考慮に入れて分析しても、PTSDによる自殺完遂リスクは5.3倍とやはり高かった。また、PTSDとうつを合併している場合には、どちらの既往もない場合と比べて、リスクが29倍に及んだ。

著者らによると、PTSDによる自殺念慮や自殺企図のリスク上昇を示した先行研究はあったが、一般住民を対象に、PTSDと自殺完遂との関係を調べた研究は今回が初めてという。

著者らは研究の限界として、精神科を受診してPTSDと診断された者だけをPTSDの既往ありとし、精神科以外の病院のみでPTSDと診断された者やPTSDがあっても病院に受診しなかった者は除外されているため、軽度のPTSD症例が除外されている可能性を指摘している。

⇒国民総背番号制を採用しているデンマークのデータを使って、自殺完遂というまれな事象に対するPTSDの影響を明らかにした点が評価できる。しかも、デンマークのデータを使って、米国の研究者がデータ分析を行い論文も書いている点が興味深い。

個人情報保護の問題はもちろんあるが、人権先進国のデンマークが国民総背番号制を敷き、今回のようにセンシティブな情報を、外国の研究者に開放していることには驚かされる(個人を特定できる情報は無論削除しているだろうが)。日本の行政データの研究者への公開の度合いと比べると、別世界の観がある。

論文要旨

ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
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