1953年生まれ。上武大学大学院経営管理研究科教授、SBI大学院大学客員教授。言論プラットフォーム「アゴラ」を主宰。
エコロジーという自民族中心主義
2010年03月10日00時03分 / 提供:池田信夫blog
和歌山県のイルカ漁を撮影した映画"The Cove"がアカデミー賞を受賞した。私はその映画を見ていないが、授賞の言葉で「日本人はイルカを食うべきではない」などと語っているのを見ると、その政治的意図は明らかだ。この種の過激派は、グリーンピースなどよくあるが、アカデミー賞を受けたとなると、その影響は無視できない。
イルカを年2万頭殺すことが残虐なら、年3500万頭の牛を殺すアメリカ人は何なのか。デリダもいうように、高等動物と下等動物の区別には意味がなく、人間と動物の境界も恣意的なものだ。たとえば新生児を殺したら殺人だが、妊娠3ヶ月で中絶するのは犯罪にはならない。逆に、かつては老人を「姥捨て山」に遺棄することは犯罪ではなかった。殺してはならないものの境界を決めるのはそれぞれの時代や地域の文化であり、絶対的な基準はない。
ところがキリスト教文化圏は、すべての人類に普遍的な倫理があると信じる特異な地域だ。さらに人間が神の姿に似せてつくられたという特権意識をもち、すべての動物は人間のために殺されるのが当然だと考える人間中心主義が強い。これが昂じると、「地球を守れ」という倒錯したキャンペーンになる。
冷静に考えればわかるように、人間が自然の中心として「地球を守る」などという主張は、天動説にも等しい。地球上の生物の圧倒的多数はバクテリアであり、人類が死滅しても地球上の生態系にはほとんど影響しない。太古のままの地球を守ることが環境保護だとすれば、そのような意味での自然はすでにほとんど存在しないし、そういう状態を守ること自体に何の意味もない。環境保護は、あくまでも人間の問題なのである。
ホルクハイマー=アドルノも指摘するように、自然を支配の対象と考える啓蒙的な合理主義が自然破壊をもたらしたが、それによって近代社会は歴史上、類のない豊かさを実現した。啓蒙が反自然的だという批判は正しいが、それを否定するなら、自然を搾取する産業社会を捨て、すべての動物の肉を食うのをやめ、化石燃料をやめて山の中で隠遁生活をするしかない。
いいかえれば、無数の生命を虐殺し、自然を破壊することは近代人の原罪であり、この罪から無縁な人間はいないのだ。それを認識しないで、CO2の削減が「文明の転換」だなどという経済学者は、西洋文明への無知をさらしている。欧米人が彼らの自民族中心主義を信じるのは自由だが、そういう偽善を無批判に輸入して「地球のいのちを守れ」と施政方針演説で語る首相は、日本の恥である。
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イルカを年2万頭殺すことが残虐なら、年3500万頭の牛を殺すアメリカ人は何なのか。デリダもいうように、高等動物と下等動物の区別には意味がなく、人間と動物の境界も恣意的なものだ。たとえば新生児を殺したら殺人だが、妊娠3ヶ月で中絶するのは犯罪にはならない。逆に、かつては老人を「姥捨て山」に遺棄することは犯罪ではなかった。殺してはならないものの境界を決めるのはそれぞれの時代や地域の文化であり、絶対的な基準はない。
ところがキリスト教文化圏は、すべての人類に普遍的な倫理があると信じる特異な地域だ。さらに人間が神の姿に似せてつくられたという特権意識をもち、すべての動物は人間のために殺されるのが当然だと考える人間中心主義が強い。これが昂じると、「地球を守れ」という倒錯したキャンペーンになる。
冷静に考えればわかるように、人間が自然の中心として「地球を守る」などという主張は、天動説にも等しい。地球上の生物の圧倒的多数はバクテリアであり、人類が死滅しても地球上の生態系にはほとんど影響しない。太古のままの地球を守ることが環境保護だとすれば、そのような意味での自然はすでにほとんど存在しないし、そういう状態を守ること自体に何の意味もない。環境保護は、あくまでも人間の問題なのである。
ホルクハイマー=アドルノも指摘するように、自然を支配の対象と考える啓蒙的な合理主義が自然破壊をもたらしたが、それによって近代社会は歴史上、類のない豊かさを実現した。啓蒙が反自然的だという批判は正しいが、それを否定するなら、自然を搾取する産業社会を捨て、すべての動物の肉を食うのをやめ、化石燃料をやめて山の中で隠遁生活をするしかない。
いいかえれば、無数の生命を虐殺し、自然を破壊することは近代人の原罪であり、この罪から無縁な人間はいないのだ。それを認識しないで、CO2の削減が「文明の転換」だなどという経済学者は、西洋文明への無知をさらしている。欧米人が彼らの自民族中心主義を信じるのは自由だが、そういう偽善を無批判に輸入して「地球のいのちを守れ」と施政方針演説で語る首相は、日本の恥である。
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