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『1000の風』と『千の風になって』 2

2009.11.12 Thursday

デーブ・スペクターは、ぼくがシカゴに住んでいた頃からの友人なので、もう30年以上の付き合いになる。心優しい、とてもいい人間だ。
ぼくが日本に戻って数年後に、彼もアメリカのTV番組の仕事で日本にやってきた。
四六時中一緒にいたという時期もあった。日曜の朝はレストランで一緒に食事をするという決まりごとも、10年は続いたと思う。
デーブはアメリカの新聞や雑誌をいろいろ購読していたので、ぼくが興味を持ちそうな記事を切り抜いて、日曜の食卓にいつもたくさん持ってきてくれた。

新聞の「アン・ランダースのコラム」の切り抜きを見せてくれたのは、80年代の終わり頃だった。"A THOUSAND WINDS"の詩がそこに紹介されていた。
両親を亡くして間もなかったぼくには、大きな救いになる詩だった。そのときはまだ本にするなんて考えもせず、小さな切り抜きをたいせつにしまった。

デーブも幼い頃にお父さんを亡くしていたので、典型的なお母さんっ子だった。
脚がきれいな女性が好きな男は、子どもの頃にお母さんの脚の間から世界を見ていた子だ、と言う。デーブも脚がきれいな女性が大好きだ。余談だね :-)



写真は80年代の、なかよしグループ。
左から吉見由紀さん、藤原伊織さん、植島啓司さん、そしてぼくとデーブ。
藤原さんはのちに直木賞作家となるが、その頃はまだ「小説も書いている電通マン」だった。同じ電通マンの新井満さんは先に芥川賞作家になっていた。
「新井満さんてほんとに困った人なんだ」
と、あるとき藤原さんがボヤいた。
「最近どんな小説を書いてるのって彼が聞いてきたから、ストーリーを話したら新井さん、そのまんまの小説を自分で書いて、先に発表しちゃったんだよ」
新井満さんはぼくもよく知っている人だったので、驚いた。そんな人だったんだ。

直木賞をとることになる『テロリストのパラソル』が出版されたとき、藤原さんは「あなたに聞いた話を使わせてもらったから」と、そのページに付箋をした本を送ってくれた。たいした話でもなかったのに、律儀な人だと思った。
そんなふうに「物書きとしての良心」をきちんと持っていた藤原伊織さんは、一昨年亡くなってしまった。

                            
 (続く)

コメント

はじめまして。
藤原伊織さんの愛読者です。
検索から、たどりつきました。

“1000の風”からは横道の質問ですが、どうかお許しください。

その、新井満さんが「先に発表しちゃった」という、
「そのまんま」のストーリーの作品、
ご存知でしたら、ぜひタイトルを教えていただけないでしょうか?

ただでさえ、寡作の藤原作品です。
もう1作、あの珠玉の文体でないにせよ、読めることができたなら……!

具体的なタイトルをご存知でなければ、
だいたいの年代だけでも結構です。
どうか、お願いいたします!

こちらへのコメントという形式が不適切でしたら、
お差し支えなければメールさせていただきます。
ご指示いただけますでしょうか。


>「あなたに聞いた話を使わせてもらったから」

わ〜っ!
これは、どんなお話ですか?
南風さんのエピソードが、どんなふうに作品になったのか興味津々です!


 ◆


『シリウスの道』での個人攻撃には、
正直、やや引いていたところもあったのですが、
これでようやくナゾも解けたというか……、そんなことがあったのですね。

恨みもあったと思いますが、
今回、南風さんがはらしてくださったのではないでしょうか?

もう3回忌からも半年たちましたが、思いがけず、
1000の風に姿を変えた、藤原伊織さんの微風にふれたような気がします。

南風さん、ありがとうございました。


 ◆


この森の日記のシリーズを読んで、
ようやく『千の風になって』を手にとってみた次第ですが(苦笑)
後書きには、いちおう/ちゃんと『1000の風』のことが書いてあるのですね。

アマゾンのレビューにも、
『1000の風』のほうがお薦め!という声があったり、
届くところには、ちゃんと『1000の風』のほうが届いていると感じました。

津波のせいで、あやうく“A THOUSAND WINDS”まで嫌いになるところでしたが、
このブログにたどりつけて、よかったです。

あの写真、素敵ですね。
私が死んだら、千の風ではなく、1000の風として吹きぬけたいと思います。


  • kahoru
  • 2009/12/03 1:19 AM
kahoruさん、
>具体的なタイトルをご存知でなければ、だいたいの年代だけでも結構です。

ごめんなさい。新井さんが芥川賞をとったあと、藤原さんが直木賞をとる前くらいのことしか記憶にありません。

>南風さんのエピソードが、どんなふうに作品になったのか興味津々です!

ほんとにたいした話ではありません。でも話しだすと長くなるので、また別の機会にでも :-)

>今回、南風さんがはらしてくださったのではないでしょうか?

実はぼくは『シリウス』を読んでないんです。そんな話が出てくるのでしょうか? 読んでみたいです。

>このブログにたどりつけて、よかったです。

どうもありがとう。
kahoruさんのような読者がいてくれるなんて、藤原さんも幸せです。
  • 2009/12/03 9:51 AM


南風さん、御返事ありがとうございます!

>新井さんが芥川賞をとったあと、藤原さんが直木賞をとる前くらいのことしか記憶にありません。

いえいえ、じゅうぶんです!

新井さんって、もっとたくさん書いているのかと思っていたので、
一瞬、溜め息が出ましたが、
改めて(というより初めて)プロフィールやらを見てみたら、
その年代だと、というより、なんだか小説って、ほんの少ししかないですね。
よほどネタ切れだったのか……?

藤原さんが『ダックスフントのワープ』で、すばる文学賞をとったのが1985年。
新井さんの芥川賞よりも、前だったのですね。

とすると。

すばる文学賞のあとに、
「以後、短編をいくつか書いた。
 ところがそのうち、なぜかまた麻雀を再開するようになったのである」。
(……)「またしばらく麻雀だけの生活がつづいた」。
で、テロパラを書いたときは、
「最後の短編を書いて五年がたっていた」。

    (上記引用部、直木賞受賞後の自伝エッセイ『空白の名残り』より)

あー、もったいないっ!
おそらく『ネズミ焼きの贈りもの』『ノエル』『ユーレイ』の他にも、
未発表の短編があるのかもしれませんね。
加えて「そのまんまの小説」、
今は幻の、まちがいなく珠玉の純文学路線の頃です、うぅぅ……。


>ほんとにたいした話ではありません。でも話しだすと長くなるので、また別の機会にでも :-)

では、その機会を楽しみにしています! :-)


>実はぼくは『シリウス』を読んでないんです。そんな話が出てくるのでしょうか? 読んでみたいです。

あぁっ、まだ読んでいない藤原作品があるなんて、幸せですー
あくまで「モデル」ということですが、「そんな人」が出てきますよ。


>kahoruさんのような読者がいてくれるなんて、藤原さんも幸せです。

……きゅーん。
ありがとうございます。

「良い読者」にはなりきれないですが、ずっと愛読者ではいたいと思います。



では、これからも森の日記、楽しみにしております!

クリスマスには、『雪が降る』といいですね。

どうかカゼなどひかれませんように。




  • kahoru
  • 2009/12/04 4:15 AM
藤原さんとは新宿のバーで毎週毎週バックギャマンをしていた時期がありました。
その頃知り合いの女子大生がヴォーカルを務めるバンドがライヴをやるということで、藤原さんを誘って四谷のライヴハウスに行きました。
『ダックスフント』のイントロにそのときのことが描かれていると思います。書き始めたばかりの原稿を読ませてくれました。まだ原稿用紙に手書きの時代でした。
ちなみにその時の女子大生ヴォーカリストは、今は作詞家になった覚和歌子さんです。

なんという麗しき日々!
  • 南風椎
  • 2009/12/04 7:10 PM


またまた麗しいお話を、ありがとうございます!


>藤原さんとは新宿のバーで毎週毎週バックギャマンをしていた時期がありました。

あはっ、麻雀だけじゃないのですね!

『遊戯』に、ネット対戦のバックギャモン(英語だとマになるのかな)が出てきますが。
てっきりリサーチして書いているのかと思っていたら、
藤原さんご本人も、そんな洒落たことをしていたのですか!

毎週毎週とは、本当に仲良しだったのですね。
どちらが強かったのですか?


>『ダックスフント』のイントロにそのときのことが描かれていると思います。

女教師のエピソードですね。
これは浅川マキさんがモデルかと思っていました……。
うーん、逸話です!

テロパラ付箋のお話もそうなのかもですが、
実際にインスピレーションを受けたことが盛り込まれていたのですね。
南風さん、ずいぶん藤原作品に影響を与えているのでは!

『ダックスフント』の、とても魅力的な部分になっていますが、
もし南風さんのお誘いがなかったら、
ここは書かれていなかったかもしれません。

感謝!


>書き始めたばかりの原稿を読ませてくれました。
>まだ原稿用紙に手書きの時代でした。

わー、書きかけの生原稿ですかー
藤原さんは、プロットも決めずに書く、と読んだことがあるのですが、
小説を書くことについて、何かお聞きになったことはありますか?


>覚和歌子さん

才能が、集まるところには、集まるものですね!
どんなバンドだったのでしょうか。

そういえば、藤原さんも作詞をしていましたっけ。


>なんという麗しき日々!

贅沢ですねー
また、思い出話、お聞かせください! :-)


  • kahoru
  • 2009/12/05 1:32 AM
長野眞さんが原作者だということですか。
  • 千田寛仁
  • 2010/03/11 4:21 AM
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プロフィール
本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表

1948年生まれ。1971年に上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。4年間の滞在を経て帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、フライ・コミュニケーションズを設立。
数多くの書籍を企画、編集、執筆し、言葉と映像の新しいコラボレーションを探ってきた。
現在は横浜の小さな森の中で自然とともに暮らしている。
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