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きょうの社説 2010年3月11日
◎公益法人仕分け 政治ショーより成果重視を
政府の行政刷新会議が事業仕分け第2弾の対象とする公益法人は、天下りの受け皿とし
ての役割や、役員の高額報酬、随意契約の多さなど、これまでも不透明な運営が指摘されてきた。無駄の温床となっている構造をあぶり出し、組織の存廃にも踏み込むのは当然としても、必要性の吟味については丁寧な議論が必要である。鳩山由紀夫首相が「公益法人などに手をつけると国民は大きな喝采を与えると思う」と 述べるなど、事業仕分けについては、そのアピール効果に大きな期待が寄せられている。民主党政権の数少ない「成功事例」として政権浮揚につなげたい思いは分かるとしても、公益法人でも必要な事業を担っている組織はあり、天下りがいるという理由だけで、事業まで否定するような粗雑な議論では困る。 求められるのは、派手な政治ショーや国民向けのパフォーマンスではなく、着実な成果 である。昨年の事業仕分けでは荒っぽさも目立ち、継続事業の一方的な縮小、廃止判定などで地方にも混乱が及んだ。恣意的な議論に陥らず、仕分けの判定基準や結論の出し方についても一層の工夫がほしい。 事業仕分けの第2弾は、国所管の6625法人から官僚の天下り受け入れや、収入の半 分以上を公費支出が占めるなどの4条件に照らして290の公益法人を選び、ヒアリングでさらに対象を絞り込んで4、5月に実施される。独立行政法人は98が対象となる。 昨年の事業仕分けでは、補助金交付などに独法や公益法人が不必要に関与する「中抜き 」構造が浮かび上がった。多額の基金を積み立て、天下りした官僚OBに高額の報酬を支払う仕組みも明らかになった。基金の返還を求め、そこから財源を捻出したのは昨年の成果の一つといえる。実態が見えにくい公益法人について、見直しの議論そのものを公開する意味は大きいだろう。 公益法人に官僚OBが天下りするのも、霞が関の早期退職勧奨制度と密接に結びついて いる。法人たたきに終始せず、国家公務員制度改革を含めた大きな視点に立って悪弊に切り込んでほしい。
◎トキの大量死 分散飼育地の責任も重い
新潟県佐渡市の「佐渡トキ保護センター」で起きたトキの大量死は、希少動物を一カ所
で飼育する危険性を改めて浮き彫りにした。トキを襲ったのはイタチなどの小動物と見られるが、これがもし鳥インフルエンザウイルスの感染だったら、同センターで飼育されている100羽余のトキは全滅の瀬戸際に立たされていたかもしれない。今年一月、いしかわ動物園(能美市)に佐渡から4羽のトキが移送され、分散飼育が始 まった。試験放鳥のトキを除けば、多摩動物公園の7羽と併せて、11羽が佐渡以外で飼育されていることになる。今回の不幸な大量死は、リスク分散の必要性とともに、分散飼育地の責任の重さを再認識させる出来事だった。 いしかわ動物園のトキは、飼育開始から約2カ月を経て、2組のペアの繁殖期入りが確 認された。いずれも健康状態は良く、繁殖の前兆行動である擬交尾を行う様子も見られるという。「2世誕生」へ向けて、ノウハウを着実に積み上げ、トキ保護増殖計画の重要な一翼を担っていきたい。 死んだトキは、9月に放鳥する予定で、佐渡トキ保護センターに併設された野外復帰ス テーションの「順化ケージ」で訓練を受けていた。放鳥の日に備えて、職員ができるだけ近づかないようにしていたことがアダとなって天敵の接近を許し、予想外の事態を引き起こしたのだろう。 佐渡トキ保護センターではこれまでに30羽のトキを放鳥しており、このうち6羽が本 州に渡った。富山県では黒部市に続いて、富山市八尾町で2例目のトキの飛来が確認されたばかりである。 いよいよ野生化への一歩を踏み出したかに見えたが、今回の大量死で一歩後退を余儀な くされた。野生復帰は、やはり腰を据えて取り組まねばならない長期プロジェクトなのだろう。 いしかわ動物園は、佐渡トキ保護センターをサポートし、万一に備える役割を担う。主 役が倒れたとき、舞台に立って滞りなく代役を果たせるよう研さんを積み、実力を蓄えていきたい。
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