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きょうのコラム「時鐘」 2010年3月11日
なくなると思うと寂しい。それまで放っておいた人まで「惜しい」と言う。消えゆく街の銭湯、古い映画館、そして地方の鉄道
特急「北陸」と急行「能登」が、あす夜の出発で消える。鉄道ファンが押し寄せるため警戒態勢をとる騒ぎになっている。幾多の改編を経て北陸線経由で東京と大阪を結んだ歴史を持つ夜行列車だ。惜しむ声も分からぬではない ローカル線が廃止されるたびに、利用者切り捨てと運行会社が責められる。が、乗客が減れば退場するのが消費社会の掟(おきて)だ。責めるなら「なぜ、もっと利用してくれなかったのか」と皮肉な思いがしないでもない。別れを惜しむのはほどほどに、再生への旅立ちの日としたい 3月、駅は別れの舞台となる。家族と離れる寂しさを思いながら「それよりもっと強い気持ちで、新しい世界に行きたいと思いました」。先日の本紙連載で、梅加代さんが18歳の春の日の別れを書いていた 暗い夜にホームを離れる最終列車も、着くのは明るい朝の駅である。新しい世界が待っている。入試と合格発表が続く今週末。それぞれが乗り込む青春列車に幸多かれと祈る。 |