「許せない」「やっぱりそうだったのか」--。日米間の「密約」問題で9日、日本政府が核搭載艦船の寄港を黙認していたことが明らかになった。基地の街ヨコスカでは、怒りやあきらめなどの声が上がった。【吉田勝】
吉田雄人市長は午後6時過ぎから記者会見し、「日本の安全保障を担い、大きな負担を強いられている市としては見過ごせない」と憤りをあらわにした。核搭載艦船が横須賀に寄港していたかどうかについて「市民も心配しているのは事実。外務省に説明を求めたい。併せて非核三原則の順守を要望していく」と述べた。
10日午前に鯰(なまず)博行・日米地位協定室長が説明のため市役所を訪れることを明らかにした。連絡してきた外務省の梅本和義北米局長は、電話で「混乱させて申し訳ない。誠意をもって対応したい」と話していたという。市は、73~91年に横須賀を母港とした空母「ミッドウェー」などの核持ち込みについて、国に照会を重ねてきた。
「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」共同代表の呉東正彦弁護士は「政府に対し、怒りを禁じえない。この密約公表を機に徹底的な外交情報の公開制度や官僚の虚偽答弁に対する制裁強化などの改革を現政権に求めたい」とのコメントを出した。
祖父の代から100年以上、横須賀市内に住む男性会社員(55)は「核持ち込みがあったとすれば許せない。長い間、国民が欺かれていただけでなく、有事の際、真っ先に敵に狙われるのは横須賀となり、甚大な被害を被るのは市民だ」と訴えた。
また、米海軍横須賀基地近くの商店主(69)は「昔から疑惑はあったが、やっぱりなあという感じ。大切なのは今後、米国に対し日本に核を絶対に持ち込ませないという確約を取ることだ」と冷静に受け止めていた。
米海軍横須賀基地では08年9月、原子力空母「ジョージ・ワシントン(GW)」が米本土以外で初めて配備された。その影響もあり同基地は09年、原子力潜水艦を含む原子力艦船の滞在日数が324日と過去最長を記録した。寄港回数は09年23回を数え、ここ数年で増加傾向にある。
また、GWが出航中の昨年8月、別の原子力空母「ニミッツ」が寄港するなど「原子力空母の補給基地になる懸念がある」などといった批判の声も出た。90年6月には、同基地を事実上の母港としていた空母「ミッドウェー」が、核搭載疑惑の中、太平洋上で爆発事故を起こした。【吉田勝】
毎日新聞 2010年3月10日 地方版