電動車両で変革するLiイオン2次電池
2010年1月11日号の日経エレクトロニクスで「Liイオン電池 新時代へ」という特集を掲載しました。ハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車,電気自動車などの電動車両の市場投入が本格化することで,大容量のLiイオン2次電池市場が急拡大し,世界中を巻き込んだ投資競争や技術開発競争が始まりそうです。
中でも注目は,2010年秋に日産自動車が発売する電気自動車「リーフ」です。2012年度に20万台が量産される計画で,日産自動車は日本だけでなく,米国やポルトガル,英国,フランスで同車に搭載するLiイオン2次電池の生産も計画しています。20万台分のリーフに向けたLiイオン2次電池の量は4800MWhにも上ります。これは携帯電話機のLiイオン2次電池セルに換算すると,約20億台分と,現状の携帯電話機の年間市場よりも大きいものです。日産自動車‐Renault連合では電気自動車向けのLiイオン2次電池の生産のために2000億円近い投資を計画しています。
日産自動車だけではありません。米General Motors社は2010年末からプラグイン・ハイブリッド車「Volt」を量産し,年間5万台販売する予定です。Voltでは1台当たり16kWhのLiイオン2次電池を搭載するため,年間800MWhの生産量が必須となるわけです。VoltのLiイオン2次電池セルは,韓国LG Chem社が独占供給することが決まっており,LG Chem社は2013年までに約770億円を投資する計画です。
1社の自動車メーカーのわずか1車種に採用されるだけで,これだけ多くのLiイオン2次電池の生産を必要とする時代がすぐそこに迫りつつあります。今後,トヨタ自動車やホンダ,ドイツVolkswagenグループなど大手自動車メーカーがハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車などにLiイオン2次電池を本格的に搭載することになれば,電動車両向けLiイオン2次電池の市場は,間違いなく急拡大を遂げるでしょう。
富士経済によれば,2009年のLiイオン2次電池市場は全体で約8410億円。このうち97%以上が携帯電話機やノート・パソコンなどの携帯機器向けとしています。これに対して,電動車両向けは,2009年はわずか250億円程度にとどまりますが,2010年は3000億円に増加し,2012年には1兆5800億円と現状の市場規模を上回ると予測しています。さらに,2014年に2兆2500億円まで急成長し,実に5年間で電動車両向け市場は90倍に膨らむ予想です。
電動車両向けLiイオン2次電池市場が拡大すれば,その技術開発もこれまでの携帯電話機やノート・パソコン向けのものとは変わってくるはずです。現在主流の携帯電話機向けの小型セルやノート・パソコン向けの直径18mm,長さ65mmの円筒型セル「18650」とは異なる,大型セルの開発に注目が集まるでしょう。高容量化についても,自動車用途に欠かせない長期寿命と安全性,低コストを確保できない材料系はそっぽを向かれることになるかもしれません。
Liイオン2次電池市場はこれまで,三洋電機やソニー,パナソニックなどの日本の電池メーカーが強く,世界をリードしてきました。ですが,電動車両向けに新たに正極材料や負極材料を探索する上では,世界中がまだスタート地点に着いたばかりの状況にあるのかもしれません。
日本の電池メーカーが高容量化できる材料系をいち早く投入し,リードを保てるのか,はたまた韓国メーカーがDRAMや液晶パネルなどで日本を凌駕したように投資攻勢で市場を取り込んでいくのか,気になるところです。さらに,今や世界最大の自動車市場と化した中国の動向に注意を払う必要があるでしょう。2000万台以上の電動バイク市場が既にあり,今後の政策によっては巨大な内需を背景に中国の電池メーカーが確実に力を付けそうです。中国では,安全性に優れるリン酸鉄(LiFePO4)を正極材料に用いたLiイオン2次電池が主流になりつつあります。中国メーカーがリン酸鉄を用いたLiイオン2次電池で低価格競争を仕掛けてくる日も,そう遠くはなさそうです。
ただ,ここ数年はどの電池メーカーも自動車メーカーの旺盛な需要に対応するだけで精一杯かもしれません。2015〜2020年にどの電池メーカーが大きなシェアを握っていくのか,技術開発の動向も含めてぜひ取材していきたいと思っています。
【セミナ】Liイオン2次電池の現状と課題,今後の開発の方向性――基本から理解するLiイオン2次電池
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