コラム

小寺信良の現象試考:著作権によるもうひとつのブレーキ (1/2)

技術の進歩は新たな体験を利用者にもたらし続けてきたが、著作権法が思わぬブレーキをかけることもある。今年、本格離陸すると思われる「3D」についても、その懸念はある。

 これまで著作権法は、主にデジタルコンテンツ配信の面でブレーキになることが多く、それに対応する策が数々講じられてきた。しかしながら現状は、ネット権構想にしてもフェアユース導入にしても、いまひとつ具体的な成果や仕組みの転換にはさしかかっていない。

 先日発表されたApple「iPad」をきっかけに、日本でも電子出版に対する機運が高まってくると思いきや、出版、特に雑誌、新聞業界の反応は冷ややかで、熱狂で迎えるとはほど遠い状況である。やはり既存インフラである紙の製本・出版・販売といったものへの影響を懸念しているのか、電子出版特有の値頃感とスピード感を出すまでにはなかなか至らないようである。

 次いで筆者がもうひとつ懸念しているのは、著作権法による技術振興へのブレーキだ。今年1月に行なわれたInternational CES 2010では、東芝が米国向けCELL TV(日本名 CELL REGZA)に、2Dコンテンツを3Dにリアルタイム変換する機能(東芝、3D対応「CELL TV」 2Dコンテンツも3D変換)を加えた。

 始めから3D用に作られたコンテンツが3Dで見えるのは当たり前だが、いかんせんまだそれほど、HD解像度の3Dコンテンツは多くない。そこで家電メーカー各社だけでなく、コンテンツ業界も含めて、2D-3D変換技術には力を入れてきている。

 おそらく日本向けの次期CELL REGZAも、ほぼこの米国で発売されるモデルと同じスペックになるとみられるが、日本向け製品にはこの3Dのリアルタイム変換機能は搭載されない見通しである。それはなぜか。著作権法上の、同一性保持権の侵害にあたるという懸念があるからである。

画面表示を巡る争い

 テレビ画面の表示を巡っては、過去にもテレビメーカーと放送局の間で激烈な戦いが繰り広げられてきた。今ではあまり珍しくない機能だが、以前は視聴中の番組と裏番組を同時に2画面表示する機能に関して、放送局が待ったをかけたこともある。

 裏番組が同時に見られることに対して抵抗を示す気持ちもあったと思われるが、当時議論になっていたのは、2画面にすることでそれぞれの画面の一部がトリミングされてしまったり、アスペクト比が変わってしまうことだったようだ。

 その後ろ盾となったのが、著作権法の同一性保持権である。すなわち著作権者の「意図しない改変」が行なわれない権利だ。著作権者は、自分の作った番組が2画面表示になることで一部隠れたりすることを意図していない、というわけである。現在2画面表示できるテレビはいくつかあるが、どれも画面を縮小するなどして、それぞれの画面が隠れないような表示になっているはずである。

 近年同じようにせめぎ合いの行なわれているのが、テレビ画面上にネットからの情報を表示する、テレビ用ウィジェットだ。2008年に米Intelと米Yahoo!が開発したプラットフォームを用いれば、Windowsユーザーにはおなじみのウィジェットが、テレビで利用できる(IntelとYahoo!、テレビ向けウィジェットプラットフォームを発表)

 もちろんそれに対応したテレビが必要である。現時点ではソニー「BRAVIA」で対応のモデルがあるが、ウィジェットを表示する時には、テレビ番組画面が小さくなって、ウィジットを表示するスペースを空けるようになっている。一方、米国で販売されているテレビは、画面上にそのままウィジェットが表示される。

 これはユーザーが望んだ仕様だろうか。ウィジットが出るとテレビ番組画面の一部分が見えなくなるので困る、というのであれば、ウィジェットを引っ込めればいい。テレビ用ウィジェットは、Windows用のそれとは違い、常時画面の左端を占有するようなものではないのだ。

 テレビ画面上にウィジェットを表示するのは、その情報を見たいとユーザーが思ったときである。従ってユーザーの注意や視点はウィジェットのほうに向けられており、そのときテレビ番組がフルに表示されている必要などない。

 しかし、テレビ番組の上に何かを表示するというのは、著作権法の同一性保持権侵害による訴えを起こす前に、ARIBの規定で問題になる。地上波ではARIB TR-B14 「9.3 放送番組及びコンテンツ一意性の確保」という項目に、「放送番組及びコンテンツの表示中に、それと全く関係がないコンテンツ等を意図的に混合、または混在提示しないこと。」という規定がある。BSとCSに関しても同様の規定がある(ARIB TR-B15)。

 例えばドラマの最中に、ふと気になって画面上に天気予報のウィジェットを表示させたとしよう。ドラマと明日の天気の間には相関関係がないため、上記規定に引っかかることは、容易に予想できる。

 そこにユーザーの意志や利便性は関係なく、あくまでも番組をなんにもいじらずに見せたいだけのテレビ局の意向で、ARIBの規定ができあがっていることがよく分かる。

関連キーワード

3D | 著作権 | ARIB | CELL REGZA | 裁判 | フェアユース | 小寺信良


       1|2 次のページへ

Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


Special

おすすめPC情報テキスト

モバイルショップ

ノートモデルが続々と新発売
Core i7搭載ハイエンドノートから激安ネットブックまで!

年度末にまだまだ間に合います
ビジネスユースに最適な小型PCを始め、即納モデル多数ご用意!

キャリアアップ

ピックアップ

news009.jpg 価格比較:高級コンパクトデジカメ09年秋冬モデル、価格を比較
年末商戦向けに展開されている、各社高級コンパクトデジカメの価格を比較した。注目されるのはあえて高画素化の道を選択しなかったモデルだ。

index.jpg ビデオカメラ特集
デジタルビデオカメラは既に“フルHDは当たり前”となってきた。最新機種のレビューでフルHDに次ぐ、新たな選択肢を探してみよう。

news021.jpg 価格比較:「1万チョイまで」で幸せになるカナル型イヤフォン16選
ポータブルオーディオの最も簡単かつ効果的なチューニングはイヤフォンの変更。最近ではバリエーションも充実しており、ちょっと財布のひもを緩めればシアワセになれる。今回は人気のカナル型を集めてみた。

news022.jpg 価格比較:夏の水辺はコレで撮る――今夏の防水デジカメ徹底チェック(後編)
今年は防水デジカメの当たり年。今シーズンに登場した防水デジカメの仕様と価格を比較する。

news065.jpg 価格比較:高級コンパクトデジカメ、価格を比較
最近ではハイビジョン動画や個人認識、さらには超高速連写など、デジタルであることを前面に押し出した製品も増えているが、“撮ることの楽しさ”を前面に押し出した高級コンパクトデジカメもいちジャンルを築いている。各社製品の価格を比較した。

news097.jpg 価格比較:充実のエントリーデジタル一眼、価格を比較
最新のエントリー向けデジタル一眼は撮像素子も10メガを越えたほか、ライブビューやHD動画機能なども備えており、その充実ぶりは目を見張る。お買い得感の高いダブルズームキットで価格を比較した。

news102.jpg 価格比較:ハイアマ向けミドルクラス一眼、価格を比較
撮像素子はAPS-Cサイズながら、各種装備やスペックを充実させた中級デジタル一眼レフの価格を比較した。エントリー向けに比べやや高価にはなるが、いわゆる写真愛好家を対象とした製品だけに、充実した製品がそろっている。

news063.jpg 価格比較:あこがれを手に入れる、フルサイズ一眼の価格を比較
これまでフルサイズ機といえば、プロ向けの高価な製品しか存在していなかったが、今では少し背伸びをすれば狙える。とはいえまだまだ高価。最新価格のチェックは欠かさずにいたい。

news038.jpg 価格比較:エコポイント活用、ハイエンド機も充実の50V型以上テレビ価格一覧
50V型以上ともなると、各社のハイエンドモデルと録画機能付きテレビのオンパレード。プラズマテレビも選択肢が増え、画質・機能ともに充実した製品が並ぶ。

news098.jpg 価格比較:エコポイント活用、満足度の高い46V/47V型テレビ価格一覧
“価格比較”3回目は、46V型と47V型に注目。液晶テレビではプレミアムモデルの比率が高まり、プラズマテレビも選択肢が増えてくる。画質や機能は欲ばりたいが、出費はなるべく抑えたい――そんな人にぴったりのサイズだ。

news111.jpg 価格比較:エコポイント活用、売れ筋40V/42V型テレビ価格一覧
売れ筋の40V型、42V型の薄型テレビからエコポイント対象製品を取り上げ、実売価格を比較する。エコポイントは2万3000点。

news073.jpg 価格比較:エコポイント活用、最新37V型テレビの価格一覧
前回の40V型/42V型に続き、今回は1まわり小さい37V型を取り上げる。最新注目機種の中から、エコポイント対象製品をピックアップ。

news104.jpg 価格比較:エコポイント活用、録画対応モデルも充実の32V型テレビ価格一覧
リビングルームのメインテレビとして、また書斎や寝室におくパーソナルテレビとしても注目される32V型液晶テレビ。ここ1年ほどで倍速駆動や録画機能を備えた製品が増えているのも特徴だ。今回は各社のエコポイント対応製品16機種をリストアップ。

news092.jpg 価格比較:エコポイント活用、個室にちょうどいい26V型以下の液晶テレビを比較
パーソナルサイズと位置づけられる26V型以下だが、最近は上位モデルの機能を一部取り込む形で個性的な製品が増えている。個室やベッドルームなど、シチュエーションに合わせて検討したい。