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スカイマーク救済の舞台裏/35億円を個人出資した西久保愼一氏の真意

2003年9月24日
 8月4日月曜日。インターネット接続会社、ゼロの西久保愼一会長(48歳)の電話が鳴った。「昨日出てきたばかりの投資案件がある」。電話の主は、旧知の間柄であるエイチ・エス(HS)証券(本社:東京都渋谷区、澤田秀雄社長)の役員だった。

 「スカイマークエアラインズが45億円増資する。10億円を筆頭株主のエイチ・アイ・エス(HIS)が引き受けるが、残る35億円の出資者を探している」。西久保氏は「引き受けましょう。全額出してもいい」と即答した。

「本当に僕でいいんですか」

 2日後の水曜日までに、西久保氏が30億円を投じて発行済み株式の35.47%を保有する筆頭株主になるほか、HS証券の投資ファンドを通じてさらに5億円(5.91%)を出資する枠組みが決定。金曜日には西久保氏と澤田秀雄スカイマークエアラインズ会長(HIS社長)が昼食の席で向き合った。「本当に僕でいいんですか」と尋ねる西久保氏に澤田氏は深くうなずき、「娘を嫁に出す気分だ」と感慨深げに語った。

 9月9日、スカイマークエアラインズは増資により2003年10月期中に債務超過を解消すると発表。東証マザーズの基準により、来年10月末まで債務超過が続けば上場廃止に追い込まれる危険があった同社は、危機を脱した。

 創業以来、赤字続きの同社に対し、オリックスなど既存株主は支援に及び腰。HISもスカイマークに連結業績の足を引っ張られていたため、出資比率は下げたいところ。澤田会長以下スカイマークの経営陣は、新たな出資者探しに奔走した。

 前期(2002年10月期)末には、独コメルツ銀行による出資が決まりかけた。しかし、コメルツ側の役員派遣という条件をスカイマークが呑まず、直前に破談。その後は米国の投資顧問会社などと交渉した。それでも累積損失が130億円に達する企業に「お金だけ出して口は挟まない」という奇特な投資家は、簡単には見つからなかった。

 同じ新興航空会社、北海道国際航空(エア・ドゥ)の経営が、行政や銀行出身者など航空業界の門外漢が数多く関与して迷走した教訓から、スカイマークの経営陣は従来の経営方針の維持にこだわった。西久保氏に対しても、澤田会長は「最初の1年は、じっくり会社を見てほしい」と注文をつけた。

 西久保氏とは、どのような人物なのか。経営者としては、明治乳業からわずか1000万円で買い取ったパソコン通信事業を、ピーク時に時価総額1000億円の企業に育てた実績がある。現在、ゼロの業績は低迷しているものの、西久保氏は2000年6月の同社上場後に持ち株の一部を売却したことで約90億円の現金を手にした。

「一生困らないお金はある」

 意外にも、自社株以外への投資は今回が初めて。「一生食べるには困らないだけのお金はある」(西久保氏)ため、株式の売却益には関心がなかった。スカイマーク株も「保有比率が高いから、簡単には売れない」と投資目的であることを否定する。

 西久保氏が求めたのは、自らの事業意欲を刺激するような新たな活躍の場だったという。「米国の先例からも、航空業界の規制緩和が進めば新規参入組は発展する」と、今回の投資は直感的に決めた。既にスカイマークの取締役就任が内定し、「システム開発を支援する約束なので、常勤せざるを得ない」と経営参画に意欲的だ。

 スカイマークは今回の増資でひとまず財務的な危機は脱した。しかし、展望が開けたわけではない。「400億円ならいざ知らず、40億円では債務超過を解消しただけ。企業価値は何も変わらない」と野村証金融研究所の小布施憲始研究員は指摘する。今秋には5号機が就航するが、予備機も買えない資金力の乏しさは相変わらず。路線・便数の拡大もおぼつかない。

 過去にほごにしてきた「黒字化」の公約を、今度こそ果たせるかは予断を許さない。新興航空会社の希望の星が「安定航行」と呼べる状況になるまでには時間がかかりそうだ。(立木 奈美)
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