きょうの社説 2010年3月10日

◎日米密約の認定 外交、安保の本質浮き彫り
 日米安保条約改定時の核持ち込み容認など日米の三つの「密約」の存在を認定した外務 省有識者委員会の報告書は、戦後の日本外交の裏面に光を当てると同時に、外交と安全保障の本質を浮き彫りにした。今後の日本の外交、安保政策の在り方をもう一度根本から考え、よりよいものにしていく契機としたい。鳩山政権がめざす日米同盟の深化に生かすことが特に重要である。

 報告書は、核搭載の米艦船の寄港黙認などの密約を否定し続けた歴代政権の外交につい て、「明白なうそと不正直な説明」が繰り返されてきたと断じた。外交を力強く展開し、成果を挙げるには国民の理解と支持が不可欠であり、国民に対する政府の説明にうそがあってはならない。

 ただ、相手のある外交では、表に出せない機密事項がつきまとうのも常であり、密約の 存在をもって当時の外交、安保政策を全否定することもできまい。

 核戦力の均衡で国際秩序を維持していた冷戦時代にあって、日本政府がいくら「非核三 原則」を主張しても、当時の敵対陣営には、米軍の核持ち込みが半ば「公然の秘密」のように受け止められ、それによって核抑止効果がもたらされたことも認めざるを得ないだろう。米国の「核の傘」に守られながら、核廃絶を唱える日本外交の矛盾を繕う一つの方便だったといえなくもない。

 外交の最大の目的が、国家・国民の安全と繁栄という国益の追求にあれば、同盟国との 核密約を外交の過ちと批判して済むものではない。外交の光と影を正しく検証し、今後に生かすことが大事である。鳩山政権は非核三原則の堅持を強調しているが、冷戦構造が依然残り、核の脅威が高まる北東アジアにあって、日本の安全を守る核抑止力をいかに確保するかを考えることがより切実な課題である。

 報告書で軽視できないのは、あるはずの外交文書に「不自然な欠落」があったという指 摘である。外交文書はいずれ公表され、歴史の判断を仰ぐべきものである。外務官僚らの独善で隠ぺい、抹消されるようでは、政治・外交の向上は望み得ないと認識したい。

◎漁協・JAの連携 海と里の幸の相乗効果を
 石川県漁協とJA全農いしかわが10日に連携協定を結び、共同事業に踏み出すことに なった。石川の食の発信や地産地消、食育、グリーンツーリズムの受け入れなどにしても、漁協と農協がバラバラでは効果は上がらない。組合が業種を超えて手を結ぶことは、時代の流れであり、地域の要請とも言えるだろう。

 連携の第1弾として、直売所での共同販売が計画されているが、販売面だけでなく、海 と里の幸を組み合わせた商品開発、新たな流通ルート開拓など、相乗効果が引き出せる分野はいくつもある。組合員の利益追求にとどまらず、地域の魅力を引き出す大きな視点で取り組んでほしい。共同事業が軌道に乗れば、森林組合にも声を掛け、「地域の組合」としてさらに一体化を進めてはどうだろう。

 石川県内では2006年に27漁協と県漁連が合併し、「1県1漁協」が実現した。J Aでも広域合併が進み、事業区域の拡大で農村地域と漁港がつながりやすくなった。過疎化、高齢化の悩みは共通しており、業種を超えた連携は、漁業や農業を元気にする新たなヒントが生まれるかもしれない。

 県漁協とJA全農いしかわは手始めとしてJAグリーン金沢(金沢市専光寺町)をモデ ル店とし、魚の一夜干しなどを並べる。漁協なら魚介類、農協なら野菜や果物など、直売所はそれぞれの商品しか扱っていなかったが、スーパーのように一度に購入できれば買い物客はより便利になる。連携に際しては、生産側からの視点を改め、消費者のニーズを積極的に把握することが大事である。

 七尾西湾では、不用になったカキの貝殻を肥料にし、「かきがら米」として売り出すブ ランド化戦略が始まっている。資源を有効に活用できる意義ある取り組みで、農水連携によるビジネスチャンスはまだまだあるだろう。

 県内では漁業者の植林も広がっている。森の腐葉土層からしみ出た水が海へ流れ、魚の えさとなるプランクトンを育てるという自然の循環に着目した活動である。農林漁業の組合連携は、環境保全でも重要なかぎを握っている。