「外務省が資料を出したのは革命的だが、これで終わりじゃない」。西山太吉さんの追及は続く=北九州市、藤脇正真撮影
1968年に作成された「東郷メモ」。核持ち込みについて、歴代首相や外相に説明した記録が書き込まれている=鬼室黎撮影
9日に公開された外務省の機密文書は、日米両政府のいわゆる4密約のうち1972年の沖縄返還の財政をめぐる密約の存在も裏付けた。元毎日新聞記者の西山太吉さん(78)が機密電文を入手してから38年。秘密外交という厚い壁が崩れた。だが、なぜ、これだけ時間がかかったのか。なぜ、一部の資料が欠けているのか。疑惑のすべてが明らかになったわけではない。
外務省密約調査報告書の全文「肝心の書類がなく、誰が破棄したのかも問われていない。全容は今も闇の中だ」
沖縄の原状回復補償費をめぐる密約の証拠をつかみ、現在も東京地裁で国と争う西山さんは、外務省と有識者委員会による報告書の内容に怒りの表情を見せた。
外務省は関連資料にもとづき、日本が400万ドルを肩代わりする形になることを知っていたと認め、有識者委員会も「広義の密約に該当する」と認定。38年間密約を否定してきた国にとっては百八十度の方向転換となった。それでも心が晴れないのは、一つには、報告書が数ある密約疑惑のうち、ごく一部しか取り上げていないからだ。
西山さんが裁判で公開を求めてきた密約文書は主に三つ。(1)2000年に米国で開示された400万ドルの肩代わりに関する「議論の要約」(2)沖縄にあった短波放送中継局の国外移転費1600万ドルの日本側負担に関する文書(3)返還協定にある日本側負担3億2千万ドルと別に米国に約2億ドルを支払うとした文書だ。
密約の当事者だった自民党政権が倒れ、外務省のかたくなな態度も変わるのではないか――。西山さんは期待を募らせていた。だが、(1)は外務省内で発見されず、報告書は(2)(3)について触れなかった。あるべきものが、なぜないのか。その疑問に対する答えもなかった。