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前橋の南橘中 伐採された桜でコースター

2010年03月09日

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切り倒される前の思い出の桜=2006年ごろ、南橘中提供

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桜はすべて取り除かれ、工事の準備が進められている=いずれも前橋市荒牧町

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お手製のコースターを見せる富沢勝則教頭=前橋市荒牧町

 前橋市荒牧町の南橘中学校で46年前、卒業記念の桜が植えられた。毎年春になると桜は満開となって、新入生を迎えた。それが今年1月末、道路工事に伴いすべて切り倒された。桜の咲く時期を前に、教頭は残した枝でコースターを手作りしている。当時や今年度の卒業生らに贈る予定だ。(遠藤隆史)

 思い出の桜は、校庭に植えられていた高さ15メートルほどのソメイヨシノ7本。1963年度に卒業した生徒たちが同校に贈った。校庭に木が少なかったためという。

 みなかみ町の主婦内山房子さん(60)は月に2回ほど、前橋市の実家を訪れる。学校の桜を見るため、わざと遠回りして車を走らせる。「あの桜は、お母さんが卒業した時に植えたんだよ」。子どもが幼かった頃、少し誇らしげに、同じ話を繰り返し聞かせた。

 それが今年1月末、突然消えた。県や前橋市教育委員会などによると、校庭南の県道の歩道を広げるなどする街路事業のため、県道に面した校庭の一部を県が取得。来年度以降の着工をにらみ、桜を伐採した。

 学校側は「木を移し替えてほしい」と要望したが、老木のため移植しても枯れてしまう恐れがあるとされ、実現しなかったという。

 内山さんは「桜が突然、消えていてびっくりした。切られる前に、当時の同級生たちと最後の花見をしたかった」と残念がる。

 富沢勝則教頭(54)は「記録がないため何年に植えたものか分からず、関係者に伝えられなかった」と話す。

 それでも、多くの人に親しまれた桜の思い出を残そうと、伐採を請け負った工事業者に頼み、桜の枝約60本を残してもらった。コップなどの下敷きにするコースターに加工することに決めた。

 枝一本一本を電動のこぎりで輪切りにして、約10日間、日陰で干す。湿り気が抜けたら特注のはんだごてで校章の焼き印を押し、さらに2週間ほど陰干しする。教頭がほぼ1人でこしらえている。

 在校生らに半世紀近くにわたって愛された桜。今月12日の卒業式までに約4千個作り、卒業生や参列者らのほか、当時の卒業生にも贈りたいという。

 コースター作りで残った枝は、水を張ったバケツに入れてある。枝は枯れることなく、あと一回だけ、開花するのだという。「最後の桜」が咲いたら、卒業式や入学式で飾る予定だ。

 枝だけになった桜は、校舎の一室でつぼみをつけ、その日を待っている。

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