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「プロフェッショナル」なぜイチローの涙を撮れたのか

有吉チーフプロデューサー
有吉チーフプロデューサー
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 【「プロフェッショナル 仕事の流儀」チーフプロデューサーに聞く】第2回は取材対象に迫る上で大切な「空気感」について。イチローとはこの「空気感」を共有できたことが番組に質の高さをもたらした。

 「(相手が)カメラがいることはわかっているんだけど、そのことを意識しなくなったときに、いいシーンが撮れる。生き生きとした表情だったり、本当に心の中の格闘している表情だったり。その場の空気感がドキュメンタリーにおいては一番高度な撮影です」。

 テレビカメラに撮られ続けることは普通、まずない。初対面の相手なら意識して当然だ。「もっと言うと“邪魔”ですよね」と有吉プロデューサーは苦笑する。

 だが、時間をかけて相手を理解し、良好な関係を築くと、この“異物”は溶け込み、やがて「撮影スタッフが空気みたいになってくることがある」。

 空気になった時、ハッとする瞬間がレンズに収まることが多い。メジャーリーガー「イチロー」と素顔の「鈴木一朗」を約5カ月に渡り追いかけた08年1月2日放映の特番「プロフェッショナル イチロースペシャル 知られざる闘い」で、まさにそんなシーンに直面した。

 試合中、イチローは涙を流した。試合中継には映らないイニング間のキャッチボール。決して手抜きをしないイチローが、ポロリとボールをこぼした。普段と違う動きを感じ取ったカメラマンは、すぐに顔に迫った。その目は、うっすらと光るものが見てとれた。

 イチローの07年のテーマは「自分との戦いに勝って、敵にも勝つ」だった。2試合を残して打率2位。この試合、ヒットを3本打てなければ翌日の最終戦で逆転することは無理、といった状況だったが、凡打で目標はついえた。その直後の涙。イチローの見たことがない姿に視聴者は驚いた。

 有吉プロデューサーの瞳が輝く。「あれは撮ろうと思って撮れるものではない。ドキュメンタリーの醍醐味ですよね」。

 カメラを回し続けたからの成果なのか。有吉プロデューサーの解釈はこうだ。「ずっと撮っていたら誰でも撮れるのかと言ったらそうではない。イチローさんのもとへ数カ月通い、毎日見ていた。言葉を交わさない日にも球場へ行って、スタンドから練習や試合を見ていたので、気づくことができたという面もあったと思うんですよ。実際にカメラが回ってなくても、その期間はドキュメンタリーにとってムダではなかった」。

 「右も左もわからないけどがむしゃらにやってるほうが結果的に面白いものが撮れることがよくある」という有吉プロデューサーが送りだしたのは、野球に関して全くの素人の堤田ディレクターだった。最初は取材の要領もつかめず試合後の取材を受ける姿を遠巻きに見るだけだったという。

 さらに取材をする上で、イチローサイドからも条件を出された。「シーズン中に密着取材を受けたことがないので、どういうことになるのかわからない。野球のマイナスになることが少しでもあったら、帰っていただきます」

 不得手な分野、厳しい条件…堤田ディレクターが、これをどう乗り越えられるか。きっと、と思いつつも、もしかしたら…。有吉プロデューサーの中に不安と期待が交差したはずだ。

 それは杞憂だった。経済・社会情報番組の担当だったことが堤田ディレクターにとって幸いだった。「スポーツとは縁もゆかりもないところだから、受けてみようと思った。野球論ではなく、人としての生き方やこだわりを描いてくれそうなので、そういう質問を期待しています」。イチローのこの言葉で取材は始まった。

 その後、取材クルーは、遠征先での試合の後、食事をしながら、様々な話をし、少しずつ関係を作った。車やファッションの話、そして野球のこと。試合の日は、練習が始まるときから、その姿を見つめ続けた。渡米3回、のべ70日にわたるこうした日々が、イチローと取材クルーの間に、それまでとは違う「空気」を生み出したのだ。

 取材という非日常を日常的にしてしまう「空気感」。第一段階で場はできた。次に大切なこと。それを有吉プロデューサーは「その人を撮り切ることだ」と言った。(つづく)

Yahoo!ブックマークに登録 [ 2010年03月09日 07:54 ]

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