ヒットがみえるエンタメマーケット情報サイト

  • お問い合わせ
  • サイトマップ

ニュース一覧 > NEWS

(2009/10/30)

ハリウッド・メジャーが挑む「ハイブリッド邦画」

 洋画興行の不振が続くなか、ハリウッド・メジャースタジオの日本ブランチが邦画の製作を手がける“ローカルプロダクション”が勢いを増しつつある。『デスノート』シリーズで大成功を収め、『サマーウォーズ』のスマッシュヒットも記憶に新しいワーナー・ブラザース。そして今秋には、20世紀フォックスがフジテレビとの強力タッグで邦画製作に本格参入する。ローカルプロダクションを加速させるハリウッド・メジャー各社の具体的な戦略や今後の展望について検証した。

■「JID」の危機感から加速するローカルプロダクション

 アメリカ映画業界では最近、「Japan Is Difficult(日本市場は難しい。略してJID)」という声が囁かれ始めている。世界各国で大ヒットしている作品が、日本では期待した数字になっていないことが理由。海賊版防止の名目で展開している“世界同時公開”が成功していない国は日本だけだという。  実際、06年以降、洋画の占めるシェアは日本映画に凌駕され、07年に盛り返したものの、08年はシェアが40.5パーセントにダウン。09年はさらなる落ち込みが予想されている。こうした状況がハリウッド・メジャースタジオの“ローカルプロダクション”戦略を加速させている。

興行収入における邦画および洋画のシェア推移

 もともと、この戦略は日本に限らずヨーロッパやアジアでは盛んに行われてきた。“地産地消(地域生産地域消費)”ではないが、その国の文化や風習に根ざした題材の映画をその国で製作してヒットを狙い、アイデアが秀抜なものであれば本国アメリカでリメイクもできるという発想だ。アメリカで製作するよりもはるかに低予算で済むことも拍車をかけた。さらに、製作出資にまでは踏み込まないものの、各国で作品の買い付けや配給を行う“ローカルアクイジション”も増加の傾向にある。常に映画というメディアの盟主であり続けたいと考える、ハリウッド・メジャースタジオのしたたかな意思がそこからは感じられる。

 日本映画は06年から公開本数が400本を超えてきている。作品を作りたいと願う作り手が増え続けている現状のなかで、ハリウッド・メジャーによるローカルプロダクションやローカルアクイジションは作り手にとって絶好の機会となる。日本のマーケットの大きさを知っているハリウッド・メジャーにとっても優れた映画人や発想を発掘できる機会であり、日本の社会風潮やトレンドに合わせた作品で勝負できるメリットがある。

邦画および洋画の年間公開本数の推移

 こうした戦略のもと、ハリウッド・メジャーが手がけた日本映画における最大の成功例が『デスノート』前後編(06年)と、そのスピンオフ作品である『L change the WorLd』(08年)。そして今夏の『サマーウォーズ』ということになる。いずれもワーナー・ブラザースが手がけた作品である。

■専門チーム、独自の宣伝部で挑むワーナー・ブラザース

 「タイム・ワーナー・グループは以前から、世界各国で積極的にローカルプロダクションを推し進めてきました。現時点では、ワーナーだけが日本映画での大きな成功経験を持つ、唯一のハリウッド・メジャーです。洋画の配給・宣伝で培ったノウハウだけで勝負しようとするのではなく、僕みたいな日本映画に携わってきたスタッフを招いて専門のチームを作り、独自の宣伝部まで持っているハリウッド・メジャーはまだないと思います。現在はようやく社内インフラが整い、次なるステップとして、より強いコンテンツをいかに生み出すかという段階に入りつつあります」

 そう語るのは、ワーナー・ブラザース映画でローカルプロダクション部門を統括する小岩井宏悦氏。フジテレビで数々のテレビドラマや映画のプロデュースを行ってきた人物だ。

 「本社が抱く理想はワーナーが100パーセント、製作出資して作品を生み出すかたち。自分たちが作ったものを自分たちが配給し、作品にまつわるすべての権利を自分たちで保有するというのが、ハリウッド・メジャーのローカルプロダクションとしての理想形です。ただ、日本で大ヒットさせるためには現状、製作委員会というシステムは無視できません。他のパートナーさんが幹事社を務める作品に一部だけ出資して、配給を請け負うといったこれまでのパターン、現在公開中の『サマーウォーズ』や『TAJOMARU』もそういったかたちをとっていますが、それに加えて今後は幹事社として製作委員会をリードしつつ、他社さんにも入っていただくというものを増やしていきたいですね」(小岩井氏)

 米国ワーナー本社のなかにインターナショナル部門があり、各国のローカルプロダクションにおける決済のすべてを取り仕切るシステムだが、クリエイティブはあくまでも日本側に任されている。

 「本国からは何よりも、日本国内のマーケットで当てることが第一義に求められています。日本のマーケットの大きさ、とりわけ他国と比べたらDVDマーケットが堅調とあって、日本映画でさらに利益の拡大を狙うという戦略ですね。洋画でも『ハリー・ポッター』シリーズのような大作は日本の市場でも充分に機能します。でも、それに続くドラマやラブストーリー、コメディといったジャンルでは日本映画の方が強く、その部分をローカルプロダクションに置き換えるという発想。『サマーウォーズ』の大ヒットもあり、アニメーションも米国本社が期待をかけるジャンルです」

 現在公開中の『TAJOMARU』に続き、年末にはウルトラマン・シリーズ『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』を公開。日本映画に懸けるワーナー・ブラザースの意気は高い。

■フジテレビとの強力タッグで本格参入を果たす20世紀フォックス

 これまでの推移を見ながら、今秋よりローカルプロダクションに本格参入するのが、同じくハリウッド・メジャーの20世紀フォックス。この10月に公開される、フジテレビと共同で製作した映画『サイドウェイズ』が第1弾作品であり、今後に向けた試金石となる。同社のローカルプロダクション戦略について、マーケティング本部 部長を務める菅野陽介氏は次のように語る。

 「ローカルプロダクションに対する考え方のベースは各社と一緒だと思います。フォックスの米国本社には“フォックス・サーチライト”という部門があり、ヨーロッパやアジアなど各地域におけるプロダクションをピックアップし、ワールドワイドで配給してきました。ローカルプロダクションとしては後発ですが、フォックス・サーチライトを通して同じようなビジネスはすでに数多くの成功例があります。参入に当たっては、ローカルプロダクションを専門的に扱う“20世紀フォックス・インターナショナル・プロダクションズ”という会社を本社が新たに作っています。日本映画に関しても同社を窓口として、さまざまなことを決定していくシステム。その点においても不退転の決意ですね」

 ローカルプロダクションについては製作出資はもとより、配給・宣伝から劇場ブッキングまですべてを統括。第1弾作品となる『サイドウェイズ』では、日本映画界におけるこれまでの実績などからパートナーとしてフジテレビを迎え入れ、「フジテレビさんが作る人、フォックスが売る人という考え」(菅野氏)のもと、委員会方式ではなく出資も2社のみで製作を行っている。“制作プロダクション”としての評価をさらに高めたいフジテレビと、日本屈指のヒットメーカーとの絆を求めたフォックス。両者のメリットが合致したコラボレーションだ。

サイドウェイズ
『サイドウェイズ』

 「今後のローカルプロダクション戦略については、まずは年間2本程度のペースで製作を考えています。インターナショナル・プロダクションズでは世界各国で作品の開発を行っていますが、強い作品が生まれればサーチライトと同じようなかたちで世界配給を狙いたい。もちろんその前に、まずは日本で成功することが基本ですね」と菅野氏は今後の展望を語る。

 ワーナー・ブラザースと20世紀フォックスによるローカルプロダクション展開は、いずれも米国本社肝いりのビジネス戦略。さらに来年には、パトリック・スウェイジ&デミ・ムーア主演のヒット作『ゴースト/ニューヨークの幻』の日本リメイクによって、パラマウント ジャパンもローカルプロダクション戦線に参入する予定だ。これらのハリウッド・メジャーが手がける日本映画が、邦画あるいは洋画という枠に収まらない『サイドウェイズ』のような、いわば「ハイブリッド邦画」とでも言うべきジャンルとなって、日本の興行シーンを活性化していくことを大いに期待したい。

ハリウッド・メジャーが手がけた主な日本映画

Go to Page Top


ORICON BiZ ヒットがみえるエンターテインメントビジネス誌

「ORICON BiZ」は1967年創刊。音楽ビジネスをはじめ映像、出版などエンターテインメントビジネスに関わるニュース、特集を組み、日本のエンターテインメント産業を語る上で欠かせない、日本で唯一のエンターテインメント・トレードマガジンです。 オリコンのシングル、アルバムランキングをはじめ映像、出版などの各種ヒットランキングをビジネス仕様で完全掲載。独自の豊富なマーケティングデータから、ヒット分析、商品セールス動向までを予測。 オピニオン・リーダーのマーケティングツールとして活用され、新たなビジネスチャンスを創出します。

 

Go to Page Top