きょうのコラム「時鐘」 2010年3月9日

 嵐山光三郎さんの連載「ぶらり旅」に、美川のサバのぬか漬けが紹介されていた。一読、生ツバがわき、熱いご飯がほしくなった

サバもいいが、フグ、とりわけ、子のぬか漬けが珍味である。猛毒を持つ卵巣が無害どころか絶妙の味に変わる。不思議なことが世の中にはある。フグの毒自体も、いささか不思議である

蛇やサソリのように、外敵退治の毒ならば、なぜ腹の中にあるのだろう。見事に敵を倒せるが、そのためには腹を食われて自分も死んでしまう。「自爆テロ」のような毒である

毒キノコもそうである。わが身を犠牲にして、毒の威力を知らせる。加えて、毒々しい姿だから危険、というわけでもない。毒の有無は見掛けによらない。人間社会みたいである。毒針をかざしてくる敵も怖いが、腹にひそかに毒を持つ連中は、もっと始末に負えない

ぬか漬けのフグの子は、3年ほどで毒が抜けるという。そんな猛毒を消す魔法を見つけて久しいのに、またぞろカネの毒が回る政治不信を嘆く日々である。果たして私たちは、どこまで利口なのだろうか。そう考えると、頭の中がしびれそうになる。