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<1面からつづく>
3月1日、国会近くのホテルに民主党の長崎県選出・出身国会議員7人が集まり「県知事選反省会」を開いた。衆参の国会議員を独占する民主党王国での大敗を受け「批判と反省ばかり」(出席者)の厳しい雰囲気となった。高木義明・県連代表(衆院長崎1区)は「反省して次の参院選に切り替えなければいけない」と引き締めた。
知事選で民主党は農業票獲得を狙い前農水省室長の橋本剛氏(40)を擁立。自民党側から提案のあった相乗りを拒否し、夏の参院選へ向け与野党対決構図を鮮明にした。1月28日に長崎入りした石井一選対委員長からは「時代に逆行するような選択を長崎の方がされるのなら、民主党政権はそれなりの姿勢を示すべきだろう」と恫喝(どうかつ)まがいの発言まで飛び出したが、県農政連は自民、公明両党の支援した前副知事の中村法道氏(59)をあくまで支持した。
金子原二郎前知事が当選した過去3回の知事選は事実上の与野党相乗り。中村氏は金子県政の後継候補であり、「東京で決めた橋本候補」(林田哲男・県農政連事務局長)が敗れた要因を政党色だけで語るのは無理がある。だが、07年参院選、09年衆院選で一定の農業票を民主支持へと導いたのが「農業者戸別所得補償制度」。そのスタートを新年度に控えながら、農村部で追い風の吹かなかった現実は民主党に重くのしかかる。
東彼杵町で農業を営む男性(58)は「農協の中でも末端は自民と民主(の支持)が半々だが、トップの方は自民から離れられない。(経営を)農協に頼っている人は逆らったらやっていけない」と、表立って民主党を支持しにくい農家の心理を語る。橋本氏は「農村部では声をかけても顔すら上げない人もいた」と選挙戦を振り返った。
漁業団体も切り崩されなかった。山田正彦副農相は09年12月初旬、農水省へ陳情に訪れた川端勲県漁連会長に橋本氏支援を要請したが、県漁連内からは「50年世話になった自民党をむげにするわけにはいかない」との声が相次ぎ、逆に中村氏支持を決定。民主党との板挟みに苦しんだ川端氏は「もう面倒だ。参院選は誰も応援しない」と中立を示唆する。
今年改選を迎える参院幹部は「(全国的に)自民党の組織は崩せていない。崩そうとして予算や個所付け(による利益誘導)を強調しすぎると無党派層の嫌悪を買う」とジレンマを口にする。
小沢一郎幹事長が地方自治体や業界からの陳情窓口を民主党幹事長室に一元化した背景には選挙支援を取りつける思惑もあるが、これが反発を招いている面も指摘される。
「選挙に強い小沢神話」も揺らぎ始めた。小沢氏自身の「政治とカネ」問題が浮動票の「民主離れ」につながった点も否定できず、進退論も民主党内にくすぶる。前原誠司沖縄・北方担当相は6日、那覇空港で記者団に「参院選にどう勝てるかを一番考えているのは小沢さんだ。大所高所からのことはご自身で考えられる」と語った。
自民党にとって長崎県知事選の勝利は久々の明るい話題だった。選挙期間中は応援要請のなかった自民党の谷垣禎一総裁だが、6日、長崎市を訪れ中村知事とがっちり握手。「(勝因は)中村さんの経験と人柄がまずありきだ」と持ち上げた。
しかし、中村氏は「民主党支持者でも応援してくれた人がいた。多くの県民にご支援いただいた」と応じ「県民党の勝利」を強調した。「県民は中央政権とのねじれで『県政はスムーズに発展できるのか』と懸念を持っている」とも述べ、自民党が前面に出過ぎないようクギを刺した。
同席した自民党県議団や県農政連、医師会の代表らからは「知事選に勝った次の日に国会審議をボイコットしたのは残念」「総裁は強いリーダーシップで『(執行部への不満は)党を出てからものを言え』と言ってほしい」といった苦言が続出。谷垣氏は一つ一つメモを取りながら聴き入るしかなかった。
2月の長崎県知事選、東京都町田市長選、沖縄県石垣市長選で与野党対決を続けて制したことで、自民党執行部は「流れは変わった」(石破茂政調会長)と手応えを感じ始めている。党幹部は「長崎県知事選は、参院選1人区の戦い方の参考になる」と語る。
ただ、長崎県知事選と町田市長選はいずれも候補者を推薦しない「政党隠し」戦術をとっており、自民党が手放しでは喜べない側面もある。谷垣氏は会談後の記者会見で「『県民党』で戦っているスタイルとうまく合わないと考え、じりじりしながら東京にいた。それぞれの知事選にはそれぞれの戦い方がある」と言葉を選んだ。
知事選の得票を衆院の小選挙区別にみると、農村部は大差で中村氏が勝っているものの、都市部の1区では与党推薦の橋本氏を下回っている。選挙の実動部隊となる県議数は農村部では依然、自民党が民主党より多く、地方組織の地力の差で勝ったとも言える。
民主党の小沢幹事長は知事選翌日の2月22日、「地方議員の数は圧倒的に自民党が多い。どのような状況でも支持を得られるよう、草の根の日常活動を続けないとならない」と強調。夏の参院選へ向け、無党派層を引きつける決定打の見つからない民主、自民両党が組織力を競い合う展開となっている。
毎日新聞 2010年3月7日 東京朝刊