【ワシントンIPS=ジム・ローブ、5月26日】
最近の和平合意、国連安全保障理事会の新決議、国連平和維持部隊強化の手順を決定するための国連調査団受け入れ合意にも拘らず、現地情報によれば、ダルフールおよび東部チャドの状況は悪化の一途という。
カルツーム政府が支援するアラブ系民兵組織ジャンジャウィードの村落/難民キャンプ攻撃がダルフール一帯で報告されている他、反乱組織間の戦闘も激しさを増しているという。国連機関によれば、同地域に散らばっている70万人強の人々には、現在人道支援も届かないという。
木曜(5月25日)には、5月5日にダルフール和平合意(DPA)に署名した主力反乱軍「スーダン解放軍」(SLA)の本部が、SLA幹部およびDPAの排除を狙うライバルの「正義と平等運動」に攻撃されたという。
また、ジャンジャウィード民兵は、チャド東部一帯に侵攻し、困り果てたチャドのイドリス・デビ大統領は、軍隊を同地域の都市部および駐屯地に撤退させたと伝えられる。
その結果、地方の治安は崩壊し、国連救援担当官および人権団体によると、救援要員は、ダルフールおよびチャドからの難民35万人強を国際支援の手が届かない場所に残したまま避難を開始したという。
ニューヨークを拠とするヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)のアフリカ担当ディレクターPeter Takirambudde氏は、「スーダン民兵はチャドへの侵攻を拡大しながら、村々で略奪を行っている」と言う。HRWは5月26日、ジャンジャウィードの大量虐殺と先月チャドの村から100人強を兵士として誘拐していった事件の詳細を報告するレポートを発表している。
暴力拡大を重くみたHRW、アムネスティ・インターナショナル、国際危機グループ(ICG)は5月26日、国連安全保障理事会に対し、市民保護のため強力な国連平和維持部隊を10月1日までに派遣するよう求める共同声明を発した。
安全保障理事会の決定は下っていないが、決定されれば、国連部隊が、自己防衛以外に武力を行使できないアフリカ連合(AU)部隊に取って代わることになる。同地域はフランスとほぼ同じ広さで、僅か7千人のAU部隊では治安維持活動は無理である。
人権擁護3組織のディレクターは、安全保障理事会に宛てた共同書簡の中で、「ダルフールが最も必要としているのは、強力な国際軍の緊急配備である」と述べている。
彼らは、安全保障理事会が先月、武力紛争で困窮する民間人の「保護責任」を正式に承認したことに言及し、「世界組織は今や、過去3年間で40万人が死亡したとされるダルフールに対するコミットメントを試される重大な局面を迎えている」としている。
ICGのガレス・エヴァンス代表は、「安全保障理事会は、カルツーム政府に対し行き詰まりを打開し大規模な国連部隊を受け入れるよう要求し、更なる攻撃からスーダン市民を保護する責任を果たす必要がある」と語っている。
過去3年に亘りダルフール(現在はチャド東部)を支配してきた暴力の終結に期待を抱かせた一連の進歩の後で、警戒感が高まっているのである。
SLA主流派とカルツーム政府による今月初めの和平調印の後、安全保障理事会は、スーダン政府に対し、国連部隊の強化/配備のための準備作業を行う国連調査団の受け入れを認めるようスーダン政府に要求する決議案を満場一致で可決した。
国連安全保障理事会に最も強い働きかけを行ってきた米担当官は、所謂「第7章」権限の行使を認める決議案(これは、カルツーム政府が5月23日までに要求に従わない場合、暗に武力行使を仄めかす)を外交の大躍進と表現している。ブッシュ政権は繰り返し、ダルフールにおける暴力を「大量殺戮」と主張してきた。
ラクダール・ブラヒミ国連特使は今週、カルツームにおけるオマール・ハッサン・アルバシール大統領との会談の後、スーダンは国連調査団のダルフール派遣に合意した旨発表。国連および米国務省は、同知らせを良い方向と歓迎した。
しかし、ブラヒミ特使がカルツームを去った直後、カルツーム政府高官は記者団に対し、国連調査団を受け入れたからといって、それが平和維持軍の配備に繋がるものではないと強調。
ムスタファ・オスマン大統領顧問は5月26日、記者団に対して「国連の役割はまだ決まった訳ではない」と語り、全ては国連との今後の協議次第と言わんばかりに「人道的役割か、停戦監視か、平和維持活動になるのだろうか」と訊ねた。
地元アナリストによると、これは引き延ばし戦略の1つという。同氏は、「3つの武装組織のうち和平に合意したのは唯1つで、その結果武装勢力間の抗争が激化したことなどから、スーダン政府の立場が強まった」と語っている。
カルツーム政権は、反乱部隊を互いに戦わせ、暴力継続を反乱軍のせいにしやすくなるだけでなく、状況の複雑化により介入のための国際支援は弱まるだろう。
スーダンの著名活動家エリック・リーブス氏は、「カルツーム政権は、国際的関心および圧力が高まっているのを知っており、それが静まるのを待っている」と言う。
リーブス氏はまた、安全保障理事会審議の際に中国が、第7章権限に基づく国連平和維持軍のスーダン派遣を認める今後の決議は支持しないと明言したと指摘。「この権限がなければ、派遣の意味は無くなる」と語っている。
同氏は、IPSに対し、「武装解除、戦闘員との対峙、民間人と戦闘員の分離をする権限がなければ、国連部隊は、民間人および人道活動家が現在直面している危機に対処することはできないだろう」と言う。
更に、和平提案後直ちにそれを受け入れたカルツーム政府は、AU、EU、米国の強い圧力にも拘らず2つの武装組織が合意に署名しなかったことを有利と見ている。
議会調査サービス(Congressional Research Service)のスーダン人専門家Ted Dagne氏は、「重要なのは、これは政府が欲した合意であるということだ。それは現状を維持し、政府のパワー温存と彼らが望む憲法の枠組みを維持しようとするものである」と指摘する。
ICGのスーダン専門家ジョン・プレンダーガスト氏は、「平和合意は、ダルフール難民約200万の安全な帰還、彼らに対する賠償、ジャンジャウィードの武装解除といった具体的条項を欠き、権利配分はいうまでもなく譲歩の提示もせずに反乱グループに調印を要求した欠点だらけの合意である」と言う。
同氏はIPSに対し、「政府の目的は、少なくともジャンジャウィードを政府の治安/軍事組織に統合するまで、国連部隊の派遣を遅らせることにある」「彼らは、全てに引き伸ばしを図るだろう。いつかは、譲歩したと見せかけてしぶしぶ同意する時が来ようが、その時は、彼らの核となる利益は既に保証されているだろう」と語った。(原文へ)
翻訳=山口ひろみ(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩
IPS関連ヘッドラインサマリー:
ダルフール紛争が国境を越えチャドへ
スーダン政権への制裁を強化する米議会
かろうじて人々の記憶にとどまるダルフール危機
国連平和維持軍がダルフールに展開
(IPSJapan)
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今回はワシントンIPSのジム・ローブより、混迷の度を深めるダルフール情勢を報告したIPS記事を紹介します。(IPS Japan浅霧勝浩)
最近の和平合意、国連安全保障理事会の新決議、国連平和維持部隊強化の手順を決定するための国連調査団受け入れ合意にも拘らず、現地情報によれば、ダルフールおよび東部チャドの状況は悪化の一途という。
資料:Envolverde
人権擁護3組織のディレクターは、安全保障理事会に宛てた共同書簡の中で、「ダルフールが最も必要としているのは、強力な国際軍の緊急配備である」と述べている。
資料:Envolverde
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