議員年金 破綻の足音(上)
地方議員の年金制度が危機にひんしている。平成の大合併で議員数が激減した結果、積立金が底を突き、2011年度にも破綻(はたん)する見込みだ。制度を維持するには税金を投入するしかないが、わずか12年の在職期間で受給資格が得られるという厚遇ぶりには、当の議員からも疑問の声が上がっている。制度の現状と、今後の方向に関する議論をまとめた。
◆大合併、一気に悪化/「特権」維持、頼みは税金
平成の大合併で、1998年度に全国で3255あった市町村数は2007年度、1816にまで減少した。多くの議会が議員定数を削減したことも加わって年金制度を支える現職議員は約6万人から約3万5000人に減少した。逆に引退して年金を受け取る元議員は約7万9000人から約9万4000人に増加した=グラフ=。
市議会議員と町村議会議員の両共済会の単年度収支は07年度だけでも184億円の赤字を計上している。積立金を取り崩してやりくりしているが、11年度には、ついに87億円のマイナスに転じて破綻する見通しだ。
都道府県議員の積立金も徐々に減っており、このままでは22年度に破綻する。
地方議員の年金制度は、1961年の発足当初は任意加入だったが、翌62年に施行された地方公務員共済組合法と統合して強制加入となった。
現在、市町村議員の掛け金は報酬の16.0%、期末手当の7.5%。これに加えて、自治体が給付額全体の12.0%、合併の激変緩和措置として国が4.5%を負担している。2007年度の公費負担は263億円に上った。
3期12年で受給資格を得られ、平均給付額は都道府県議が年間195万円、市議が103万円、町村議が68万円となる。
破綻を回避しようと全国市議会議長会などは、自治体と国の負担を増やす独自案を提出した。議員は「痛み」とは無縁に年金を受け取り続け、そのツケは税金で埋め合わせしようという考えだ。
全国市議会議長会は「年金財政が悪化した要因は市町村合併にある」と主張している。ただ、国や都道府県の誘導があったとしても、合併を議決したのは当の議会にほかならない。
議員年金は国民年金などとの重複加入も可能だ。受給資格を得るまでの加入期間が他の公的年金(25年以上)の半分以下で、以前から「お手盛り」「特権的」との批判があった。
さすがに、議員の中からも「これ以上の税金投入は許されない」という声が上がり始めた。兵庫県西宮市、長崎県雲仙市、鹿児島市などの議会は、廃止も含めた制度の抜本的見直しを求める意見書を可決した。 徳島県小松島市議会は「1日でも早く制度を廃止した方が傷は浅く済む」と主張し、一部議員が掛け金の支払いを拒否する実力行使に出た。
ただ、年金を廃止した場合でも、現職議員への掛け金返還や、元議員への給付で今後も1兆3000億円の財源が必要になる。
【写真】総務省を訪れ、小川淳也政務官(右)に議員年金制度を廃止するよう要望する徳島県小松島市議会の出口憲二郎議長(中央)=昨年12月21日、東京・霞が関
<存続派/国の負担引き上げを>
全国市議会議長会と年金事務を扱う市議会議員共済会は昨年11月、公費負担を増やして議員年金制度を維持する独自案をまとめた。
「制度を維持するための自助努力」として共済会は2002年と06年の2回、加入議員に掛け金の引き上げと給付水準の引き下げを強いてきた。
共済会は、平成の大合併の際に激変緩和措置として導入した国の負担金の割合が不十分だったと分析。「国策で進められた市町村合併に協力した議員の思いを受け止めてほしい」と訴え、14.0%に引き上げるよう求めている。
同様の決議や意見書は全国各地の議会で続々採択されている。
<総務省/改正案一本化できず>
総務省は昨年3月、有識者で構成する「地方議会議員年金制度検討会」を設置した。しかし、結論を一本化できないまま、12月に取りまとめた報告書には複数の案を併記した。
具体的には(1)議員の掛け金と公費負担を小幅引き上げし、給付水準を10%削減するA案(2)議員の掛け金を小幅、公費負担を大幅引き上げし、給付水準を5%削減するB案(3)掛け金の64%を一時金として支給し、制度を打ち切る廃止案―の三つ。
総務省は当初、今国会に制度見直しの関連法案を提出する予定だったが、検討会の意見が割れたのを受けて見送ってしまった。今後の対応は決まっていない。
<廃止派/地域政党が署名運動>
徳島県小松島市議会は昨年9月、「議員年金制度の廃止を求める意見書」を全会一致で可決。市議7人が、一人当たり月6万2000円の掛け金支払いを拒否している。
掛け金支払いは法律で義務付けられているため、現在は総務省の指導で市長が「やむを得ず強制的に」徴収するという事態が続く。
神奈川県内の女性議員らでつくる地域政党「神奈川ネットワーク運動」は「特権的な議員年金は廃止すべきだ」と訴え、1999年から議員年金制度の廃止を求める署名運動を展開している。
東京には、年金の受給資格に満たない2期8年で擁立議員を交代させる市民グループもある。
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