いまから1年ちょっと前の2009年2月ごろ、世間は「内定取り消し」のニュースが盛んに報道されていました。リーマンショック以降の急激な景気の悪化で、新卒の学生を受け入れられなくなった企業が、謝罪の記者会見を開いたり、内定者の学生に補償金を支払ったりしていたのです。
そのとき私は大学4年生。就職先も決まり、卒業を目前に控えていましたが、自分と同学年の学生が内定を取り消されているというニュースを聞いてもピンときていませんでした。身近に取り消された人はいなかったし、零細企業や業績の落ち込んだ企業での話で、自分には関係ないと思っていたのです。
いまから思うと浅はかでした。なぜなら、私はその直後の2月末に突然内定先の企業に呼び出され、「内定取り消し」の事態に追い込まれるからです。
正確には、内定を自主的に「辞退」するよう迫られました。
卒業式を1カ月後に控えたタイミングで呼び出され、応接室に役員と二人きりの状態で、「君は同期で一番レベルが低い。クズの中のクズだ。努力しても追いつけないだろうから、辞めた方がいい」などと何時間も怒鳴られました。
こうした面談を個別に受けて、100人以上いたその企業の内定者のうち、数十人が辞退してしまったのです。
私は、面談で怒鳴られたショックから体調を崩し、病院に通いました。でも、友人や大学の就職課、両親のサポートがあったおかげで、内定を辞退せずに食い下がり、内定先の企業に謝罪を求めて交渉しました。また、就職活動をもう一度行った結果、今年の4月に1年遅れで社会人になります。
この1年間、私は自分がなぜこのような目にあったのか、ずっと考えていました。普通に就職して普通に働きたいと思っていただけなのに、なぜそれが叶わない事態に追い込まれたのか。
なぜ私は「騙された」のか?
より正確に言えば、私はなぜ、卒業間際に内定の辞退を暗に促してくるような企業を、「いい会社」だと思ってしまったのでしょうか。同じ会社説明会に参加しても「ここは違うな」と応募しなかった学生もいたはずです。
それは、私に企業を見る目がなかったからかもしれません。その企業の最終面接では、女性が生き生きと働ける環境であること、やり甲斐のある仕事を任せてもらえるということを人事の女性社員から聞き、私はそれを信じました。でも、卒業間際の面談では、どうせ女は結婚して辞めるんだから、今辞めても同じだ、と役員から言われました。
被害者ぶっているように聞こえたら申し訳ないのですが、私たち学生は、企業の「建前」を見抜くことが苦手です。立派な採用ホームページ、熱気あふれる会社説明会、「自分の市場価値を高めよう」「会社の成長を現場で体験しよう」という言葉。
女性が活躍できる職場というならば、そのためにどのような支援制度があるのか、今までに何人がその制度を利用したことがあるのか、女性の管理職はどれくらいいるのか、といったことを調べることで実態がわかるかもしれません。でも、それが学生にどこまでできるかという問題はあります。
OB訪問、企業研究、会社説明会、採用サイトなどを通じて、学生は企業の情報をたくさん得ることができます。ところが、その情報が企業の実態をどの程度反映したものなのか、また、ある一面だけを述べたものなのかどうか、社会経験のない学生には判断がつかないのです。
例えば、企業説明会ではよく「離職率はどれくらいですか?」と質問する学生がいます。しかし、本当に学生が必要としている数字を答えてくれる企業は少ない。一見すると正直に答えてくれたようでも、実は古い数字だったり、入社後数年間の離職率だったりします。
もちろん、企業側が一方的に悪いわけではありません。次ページ以降は「日経ビジネスオンライン会員」(無料)の方および「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみお読みいただけます。ご登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。