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きょうの社説 2010年3月7日
◎全国学力テスト 「全員参加」の効果引き出そう
全員参加から抽出方式に変更して4月に実施する全国学力テスト(小6、中3対象)の
参加が全体の約73%に上ったのは、抽出方式では地域ごとの学力把握や現場の授業改善に不十分で、全員参加の調査を求める多くの教委や学校側の判断が反映されたといえよう。石川、富山両県は「全員参加」であり、これまでの学力テストで正答率の高い学校の指 導方法を研究するなど、教委や学校現場で学力向上策に取り組んできた。今回のテストでは抽出校以外は独自で採点、集計するなどの負担はあるが、「全員参加」の効果が上がるようにきめ細かい分析と指導に活用する工夫を重ねてもらいたい。 文科省は今回の学力テストで都道府県別の調査結果を集計、公表するが、抽出調査とな ったのを理由に市町村別、学校別の集計はせず、対象校も公表しない。ただ、調査対象となった市町村教委や学校による独自のデータ集計、公表については、それぞれの判断に委ねるとしており、教委、学校側に採点、集計業務の負担が増す分、迅速な分析や公表など、データの活用にかかわる地方の裁量は大きくなったといえよう。採点、集計にばらつきや混乱が生じないように、文科省には十分な情報提供が求められる。 「全員参加」の意義は地域や学校ごとに詳細に学習状況を把握して、課題を掘り下げ、 学力向上につなげることである。石川、富山両県は教委と大学との連携や学力向上プログラムなどを推進し、全国上位に位置している。今後も「全員参加」の継続が生きるように学力の底上げに向けて各教委、学校現場の取り組みが問われる。 学力テストには、抽出された30.6%(1万校)に加え、抽出対象外でも全体の42 .5%(1万3891校)が自主的に参加を希望した。自主参加は抽出から漏れた学校の61%に達した。文科省は、学力テストについて教科増や対象学年の拡大などを含めた2011年度以降の抜本的な見直しに着手するが、自主参加の多さやその背景も念頭に置いて「抽出方式」の是非や割合についても議論を深めてほしい。
◎東南アの基盤整備 日本の成長につなげたい
東南アジア諸国連合(ASEAN)が日本などと共同で推進する広域インフラ整備・資
源開発の実行計画案がまとめられた。総額1700億ドル(約15兆円)規模の投融資で交通・通信網などを大幅に強化し、中国やインドと並ぶ巨大な産業集積圏づくりをめざすという。東南アジア諸国の社会基盤整備を進めて各国の経済成長力を高め、需要を拡大することは、日本経済の発展に欠かせない。ASEANのインフラ整備計画の実現に積極的に協力し、日本自身の成長につなげたい。政府開発援助(ODA)を中心にした東南アジアに対する日本の経済援助は、長い歴史 と実績を誇るが、近年は経済成長の著しい中国の影響力が増している。 ASEANの1番の貿易相手国は、既に日本から中国に移っている。中国にとっても対 ASEAN貿易の比重が高まっており、今年1月の貿易統計では、前年同月比80%増の214億8000万ドルに達し、国・地域別では日本を抜いて第3位に浮上している。 ASEANの富の増大に協力し、それを日本に取り込む戦略は前政権下で立てられ、鳩 山政権も受け継いでいる。具体的な行動の一つとして昨年11月、タイやカンボジアなどメコン川流域の5カ国と日本の首脳会議が東京で開かれた。メコン地域5カ国は、2015年のASEAN統合に向けて、域内の経済格差の是正が重要課題になっており、日本の援助によるインフラ整備や民間投資に大きな期待を寄せている。 現在、同地域の要望に積極的にこたえているのは中国である。水力発電所の受注などの ほか、エネルギーや情報分野での大型投資を進めるため、総額100億ドル規模の「中国―ASEAN投資協力基金」の設立にも動いている。 中国の経済外交の背景には、東南アジアを「人民元経済圏」の枠内に取り組む思惑もあ るとみられるが、ASEAN内には中国の影響力の拡大を警戒し、信頼できる発展のパートナーとして日本に期待する声も強い。政府が策定を進める成長戦略と一体でASEAN支援を推進したい。
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