【萬物相】創刊90周年をたたえる

 韓国には「パリ姫説話」(別名・捨姫説話)という伝承文学がある。パリ姫は仏楽国の7番目の姫として生まれたが、すぐに捨てられてしまう。歳月が流れ、王が不治の病にかかったと聞いたパリ姫は、誰も行かない聖域に「命の水」を求めにいく。パリ姫は命の水の番人をしていた僧侶に捕えられるが、水くみ3年、釜だき3年、まき集め3年の計9年にわたり働き、ついに命の水を手に入れて帰り、父を救うという筋書きだ。

 東洋でも西洋でも「9」は完成、完全、成就を象徴する数字だ。三位一体、三役、三部作などの言葉が示すように、奇数の「3」は安定感ある数とされる。その3の倍数である9は、最も縁起がよい数字とされた。天で神がいる最も高い場所は「九天」と呼ばれる。

 日帝統治下で初の民族新聞として生まれ、韓国現代史のいばらの道を切り開いてきた朝鮮日報はきょう90歳を迎えた。三・一運動の民族の叫び、上海臨時政府など独立運動の血の代償から芽吹き、いつしかこの国で最も有力で歴史ある言論界の巨木として定着した。日帝時代には祖国独立、光復(日本の植民地支配からの解放)後には建国、民主化、産業化を成し遂げ、住みよい国を築くために貢献してきた90年だった。一般企業でも、創業90年を超える企業は斗山グループと液体消化薬「活命水」で有名な同和薬品ぐらいだ。

 創刊90周年を迎えた朝鮮日報に大きな吉報があった。韓国戦争(朝鮮戦争)のさなかに行方不明になっていた1920年3月5日の創刊号が発見されたことだ。本来は3月1日創刊の予定だったが、朝鮮総督府が「三・一運動が起きた日の創刊は民衆を扇動する恐れがある」として、発行が認められなかったため、4日遅れた創刊号だった。雑誌の創刊号を収集する人は、創刊号を探し求める理由を「保障されていない未来の夢」を象徴するからだと話す。今も毎年無数の新聞・雑誌が夢を描いて創刊され、声もなく消えていく。寿命の保障もなく生まれ、日帝と闘い、大韓民国とともに成長してきた朝鮮日報の90年の歴史が創刊号とともによみがえる。

 十進法で9は、次の段階にステップアップするための最後の階段でもある。読者の皆さんの愛顧と激励で90年間を走り抜けてきたように、朝鮮日報の100年、200年も読者の皆さんの支援にかかっているとの思いを新たにし、謙虚な気持ちで靴ひもを結びたい。

金泰翼(キム・テイク)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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