刑務所の仮出所者が身を寄せ、社会復帰への準備をする場所として福島市狐塚に建設された施設「自立更生促進センター」は、周辺住民らの反対に遭い、開所が予定より1年半も遅れている。従来から民間が別の場所で運営してきた施設も住民の理解が得られず、地域では疎まれる存在だ。「必要だが近所は困る」。多くの人がそう考える更生保護施設の行方を追った。
「この場所の開所には納得できない。白紙に戻してほしい」--。1月18日、法務省が続けてきた懇談会で、近隣住民や学校関係者が改めて反対の声を上げた。「福島市街地周辺地域の安心を守る住民の会」の熊坂良太代表(32)は、「施設の重要性は分かるが、文教地区と言えるこの場所はふさわしくない」と憤る。
センターは、仮出所者の指導などをする法務省の福島保護観察所の敷地にある。土地に余裕があり、仕事を探すハローワーク福島が近いことから建設地となったが、住民は特に子供への影響を心配する。500メートル以内に中学校や高校、盲学校など計6校あり、市体育館や県立図書館も近い。
法務省は建設前の06年9月から、近隣の町内会長を対象に説明会を開くなどしたが、個別の住民にはほとんど伝わらなかった。センターが完成した08年7月ごろから、学校に説明するようになって具体像が住民に知られ、心配が広がった。法務省は説明を続ける方針だが、住民には誠意が感じられず「開所ありきだ」と反発を強める。
法務省の09年の犯罪白書によると、仮出所者が保護観察中に行方不明になったり、刑期の満了後も含めて再び犯罪を犯したりして、5年以内に32%が刑務所に戻った。
反発を受けながらも完成したセンターを何とか活用したい法務省は▽13歳未満の子供への犯罪歴を持つ者▽覚せい剤に依存性が高い者▽性的犯罪性向のある者--を入所者から除外することにした。本来、民間の更生施設で受け入れ困難なこれらの者の受け皿とするためにセンターを造ったのだが、こう約束しては目的が薄れ、存在意義さえ問われてくる。
センターの入所期間を原則3カ月と定めていることにも、「更生どころか、就職もままならない。円滑に社会復帰する余裕がなく、設置の意味がない」との疑問の声がある。
センターには専門の保護観察官が24時間常駐し、再犯のないよう指導しながら自立のための就職支援もするが、そもそも出所者は一定期間は警備業や保険業には就けないなど不況の中でさらに厳しい法的制約がある。
同観察所の岡田和也統括保護観察官は「3カ月は目安。ケースによっては1年間に延長するなど、柔軟に対応したい」と話すが、住民にはあいまいな対応に聞こえる。仮出所の平均期間は約6カ月。センターの生活を終えても何も得ずに、入所者が社会に散る可能性がある。=つづく(この企画は蓬田正志が担当します)
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■ことば
身元引受人がいない仮出所者の更生保護施設で、法務省が運営する。当初は福島、京都、福岡の3市に計画された。しかし、住民の反対運動で福岡は取りやめになり、代わりに北九州市(定員14人)に建設されて昨年6月に初めて開所した。福島は成人男性を対象に定員20人。鉄骨造り2階建て延べ床面積約600平方メートル。ベッドやクローゼット完備の全室個室(約8平方メートル)で、食事も提供する。周辺住民を安心させるため、法務省は入所者の午後9時以降の外出を禁止し、外出時には現在地を確認するGPS(全地球測位システム)を携帯させるという。
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06年 8月 法務省が県や福島市にセンター構想の説明
9月 近隣12町内会長に説明会
08年 1月 センター着工
7月 センター完成。
福島市議会が開所延期を求めた住民らの請願を採択
09年 2月 住民らの10団体が反対の合同会を設立
3月 福島市議会が説明責任を果たすよう国に意見書を提出
10月 住民や保護司らが意見を交換する懇談会を初開催
10年 1月 5回目の懇談会を開催し、終了
毎日新聞 2010年3月2日 地方版