【第115回】 2010年03月05日
国民に重税を強いる悪夢
「温暖化対策法案」を急ぐ政府への不信
また、前述のキャップを決める権限を誰が持ち、どのようにして決めるかで重要になってくるのが、(2)の地球温暖化対策のための税のうち、排出税とか排出権税などと呼ばれるものだ。
これからは、小さな商売を一つ始めようとか、結婚するので家を建てようと言うようなことでさえ、それに伴い、温暖化ガスを排出できるキャップを入手する必要が出てくるからだ。
このキャップを割り当てる権限は大変な利権となるため、官庁や地方自治体の許認可制にする形で任せてよいのか、それとも、電力料金に税金を上乗せして、それを支払うことでキャップが得られるようなものも含めて税制で工夫するのかなどが、大きな議論になるとされている。
一方で、政府は、道路の特定財源の扱いなど、すべてを税制改革任せで、排出権について、どんな税制や許認可制の導入が必要になるかすら国民に示していない。こういう状態を放置したまま、基本法制定を急ぐというのである。
中期目標の25%削減を達成するために、あまりにも重い税負担を負わされるとなれば、中期目標事態を見直す必要があるかもしれないのに、このような稚拙な議論の進め方をするようでは、無責任のそしりを免れまい。
さらに、(3)の関連で最も懸念されるのが、家屋の屋根にソーラーパネルを設置して発電した電気を、電力会社にすべて買い取らせる全量買い取り制度の導入問題だ。実は、これだけでも、世論を真っ二つに分断することになりかねない大変な争点のはずである。
というのは、こうした自家発電は、戸建住宅に住み、最低でも300万円前後もする設備を購入できる、富裕層にのみ可能なもの。これに対して、全量買い取りの資金は、電気料金に転嫁して消費者が全員で負担するか、それとも税金で補助して納税者が支払うか二つに一つである。
いずれにせよ、太陽光発電を導入できない世帯にとっては、負担だけを強いられる制度となるわけだ。こうした逆累進性の強い施策が社会的な要請かどうか、国民的な議論も必要なはずである。こそっと基本法に忍び込ませて、有無を言わせず、国民を従わせようというのは、まるで犯罪だ。
ところが、政府は当初、本稿掲載日にあたる3月5日に同法案を閣議決定し、多数を握る国会で可決する準備を進めていた。さすがにマズイと思ったのか、直前になって、閣議決定を3月8日の週以降に延ばす一方で、急きょ、産業界や労働界への説明会も開催する方針に変更したという。
政府は、国民から見れば、環境省政策会議や産業・労働界との会合は、密室政治の延長にしか映らないことをよく肝に銘じるべきである。
昨年の総選挙で、民主党を勝たせたがゆえに、このような内容の地球温暖化対策基本法を制定され、今後何十年にわたって重い負担を強いられるなど、国民にとって悪夢でしかないはずだ。地球温暖化防止問題は、もっときちんと世に問い、国民的な合意を形成すべきテーマのはずである。
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著者プロフィール
- 町田徹
(ジャーナリスト)
1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。
この連載について
硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!
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