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経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

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国民に重税を強いる悪夢
「温暖化対策法案」を急ぐ政府への不信

 さすがに、様々な立場の関係者から批判の声があがっている。皮肉なことに、その中には、中期目標の引き上げに反対・懸念する人たちだけでなく、むしろ、目標の引き上げが必要だと主張してきた「賛成派」も含まれているのだ。

 例えば、環境NGOであり、環境NPOでもある「気候ネットワーク」の例がある。代表の浅岡美恵さんが、「温暖化防止の公約を守ってください!」と題した鳩山首相あての私信をホームページで公開した。その私信には、「いつ、日本の削減目標と位置づけられるのかもわからない25%削減目標であれば、国民にも経済にも後ろ向きのメッセージとなり、世界は日本に不信を抱くでしょう」と強い調子で不満が表明されている。

効果のない排出権取引に
固執する一部の閣僚

 元を辿れば、民意を無視した基本法を制定し、中期目標を掲げようとしたことが問題の発端である。本来なら、策を弄さざるを得ないような基本法など作るべきでないのだ。

 むしろ、エネルギーを、地球温暖化研究の不正解明に注ぎ、その有効性と温暖化ガス削減努力の証明に向けるべきなのだ。そのうえで、主要国との外交交渉にも重心をかけ、反対の人々からも合意を取り付けられる、国際合意の形成を優先すべきだったのだ。

 首を傾げざるを得ないことは、他にもある。大前提の中期目標がいい加減なのに、個別の施策となると、不思議なほど多彩なのだ。それぞれの問題点には目をつぶり、とりあえず、かき集めたとしか思えないほど多岐に及んでいるである。

 前述の「地球温暖化対策基本法案(仮称)の概要」によると、その施策の主な柱は、(1)国内排出量取引制度の創設、(2)地球温暖化対策のための税の実施に向けた検討、(3)エネルギーの固定価格買い取り制度の拡充――などとなっている。

 このうち、(1)は、これだけ実施しても、温暖化ガスの排出削減には何の役にも立たないことで知られている。というのは、排出権取引が有効に機能するのは、まず、政府や産業、家庭の排出量の上限(キャップ)を決めて、その削減計画を立てて、それぞれの主体の将来予測も含めた過不足を明らかにして、はじめて過不足を補う排出権取引(トレード)制度がワークするからである。

 はっきり言って、取引制度作りで喜ぶのは、一部の金融資本市場関係者だけである。関係者の中には、「一部の閣僚がこの市場を来年中にも創設すると異常な執着をみせており、不自然だ。常識的なインセンティブがあるとは思えないので、理解に苦しむ」との指摘も存在する。

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著者プロフィール

町田徹
(ジャーナリスト)

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。

この連載について

硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!

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