1.業界の現状
とんかつ屋が大変な公害産業だと言うと驚かれる方が多いでしょう。しかし、
一般の店では大量の廃油が出ます。恐らく通常程度の規模の店で1日に1斗かん
2本から3本は使いましょう。廃油引取業者というのがおり、これを回収して、
石けん・ゴム等にリサイクルしております。かっては業者が買い取っていたわ
けですが、現在では円高のため、店の方が1かん当り300〜500円程度で引き取
ってもらっているというのが現状です。当然引取業者に出すのはむしろ良心的
なわけで、下水に捨てるならまだしも、川等に夜中に捨てに行く者もかなりい
るでしょう。当店が真に驚くのは引取業に新規参入するには土地代を除いて、
プラントだけでざっと50億円かかるという点です。とても市民運動のリサイク
ルでできるものではありません。当店を除くとんかつ屋は良心的なところでさ
え、それだけの社会的コストを経済全体に強いているのです。
当店はそのような業者の存在そのものを最近まで知らず、つきあった事もあ
りません。そもそも当店では廃油が全くでません。しかしながら、そもそも不
要とまでは申しませんが、本来の市場規模は現在の10分の1程度の筈の引取業
界(公益法人たる全国、地方団体まであり、各理事等は官庁からの有力な天下
り先でもあるといいます)をここまでムダに発展させ、本来5分の1程度の消費
量で済む食用油業界をも今日まで不必要に拡大させ、ために資源配分のゆがみ
や、地球環境に甚大な損害を与えてきた責任の小さくない部分は創業以来70年
にわたり、極端な秘密主義をとり、自己の利益の拡大のみを企ってきた当店の
創業以来の経営姿勢にあると考える次第であります。当時としては経済は拡大
こそ善であり、地球環境への考慮も問題でなく、当店も他店との競争こそ第一
でありましたでしょう。その結果として今日の業容を見るとはいえ、企業の社
会的責任に思いをいたすとき、現状に到底甘んじ得ず、社会への提言といたす
ものであります。
ちなみに当店の油使用量は同業者の数百分の1、通常の店が1日3かん使うと
12,000円程になります。これは一番安い業務用冷凍肉で換算しますと1センチ
厚さとして160人分になります。一般には肉より油の方が高くついているのです。
当店の低価格の秘密はここにあるわけで、もちろん当店のメソッドを他店にお
いても採用されるならば経営的にも大変なメリットとなります。
2.「とんかつ」とは
一般の料理書等ではとんかつとは天ぷらからの応用としているものが多く、調
理法としても当店及び1、2の店を除けばそのようになっています。そこで天ぷ
らとの対比をいたす事が説明に好都合となります。
そもそもとんかつと天ぷらは「なぜ揚げるのか」において180度目的が異なっ
ております。この点での混同こそ同業他店の全ての悲喜劇の原因といえましょう。
天ぷらの場合、材料は主に魚貝類です。問題は素材の有する水分にあります。魚
貝類ではこれは旨味のを濃縮するため、油で揚げるのです。脱水作業をしている
のです。
とんかつの場合、材料の肉に含まれている水分は「肉のジュース」とも言われ
るように旨味そのものなのです。そこでこの水分を少しでも失なうことのないよ
う揚げねばなりません。一般店ではとんかつを油に入れますとジューと激しい音
がして、あぶくがわきます。これは水分が皆油の中に出ていっているわけで、代
わりに油が肉の中にしみて行きます。ひたすらコストをかけて肉をわざわざ油く
さくするのみで、廃油公害をまきちらせ、旨味を全て油の中に捨てているわけで
す。
発生史的にとんかつには2種類あり、大衆向にとにかく安く、油まみれでカロ
リーだけは不自然に高くという方法があり、今日当店を除き、おおむねこのやり
方だけが広まってしまいました。今日でも若い世代向に、カロリーだけとれれば
良いというなら存在意義はありましょう。1回食べれば丸1日は何も食べたくなく
なるほどでしょうから。
担し、高温でジューというやり方をいかに公害を大量発生させるとはいえ、調
理法として全面的に否定はしません。油を新鮮に保ち、厚さ8ミリ以下なら、その
方が良いでしょう。しかし理論上、油は180度で25分使うと劣化します。変に良心
的な店で25分ごとに油を捨てたりしたら、それこそ公害となるわけで、大衆向の
店が理屈もわからず高級化しようとするので困るわけです。
3.今後の業界
当店のメソッドは確かに当店の肉質(数100頭に1頭位しか当店の基準にはかな
いません)と技術なればこそと、当店自身が考えておりました。しかし科学とは
発展するもので、ある発明とその商品化が誰でも、どんな肉でも「平兵衛メソッ
ド」を可能にしました。現在それを伝授するにロイヤリティを取るかどうか迷っ
ておりますが、少々勉強すれば誰でもわかることです。
当店でも地球環境の保護のため、「平兵衛メソッド」を自ら実践しつつ、これ
までの反省に立ち積極的広報活動を、例えばこのようにいたして参りたく存じま
す。
4.食品分析比較
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水 分
|
たんぱく質
|
脂 質
|
繊 維
|
灰 分
|
糖 質
|
エネルギー
|
当 店
|
55.0%
|
17.0%
|
18.6%
|
0.2%
|
1.1%
|
8.1%
|
269kcal/100g
|
他 店
|
34.0%
|
15.7%
|
35.8%
|
0.2%
|
0.8%
|
13.5%
|
440kcal/100g
|
生 肉
|
65.4%
|
19.7%
|
13.2%
|
0%
|
1.1%
|
0.6%
|
210kcal/100g
|
注 ○他店とは某デパート食品売場ロースカツ。
○生肉は四訂食品成分表による豚肉ロース脂身なしのもの
○当店分と他店分は(財)日本食品分析センターによる。
(48083243-001号及び48083243-002号)
解 説
注目すべきは、水分、脂質、エネルギーであります。当店製は水分でほぼ倍近
く、脂質、エネルギーでほぼ半分です。生肉と比較すれば、当店製がいかに素材
の要素を損なっていないかわかりましょう。もちろん他で「とんかつ」等と称し
ているものが異常なものなのです。
5.「ヒレカツ」なるものについて
戦前はヒレ肉は捨てていたそうです。ヒレカツなるものが一般化しだしたのは、
せいぜい1970年頃からでしょう。まともな店では恥ずかしくて出せなかったもの
です。ビーフと違いポークのヒレとは無味無臭で、それ自体には味とまで言える
ものは全くありません。表でわかりますように、他店メソッドで揚げた場合、油
が肉に大量にしみこむわけで、ヒレカツの「味」と思われているものは、油の味
そのものなのです。みしろ油が大量にしみこんで、なんとか食べられると言うべ
きでしょう。まして多くの店では真っ黒に変色し劣化しきった油で揚げており、
趣味の問題とはいえ、廃油そのものを味わうとしかいえず、まともな感覚で評価
できるものではありません。その上、ヒレは絶対量がロースの十分の一程度しか
一頭からはとれません。当然輸入冷凍品に頼るしかなく、もちろん外国ものは生
産された段階ではそれなりに優秀ですが、解凍、保冷に問題のあるケースが多く、
ただでさえくさみを生じやすく、そこに廃油の香りが重なるわけで、現実の多く
の店が箸にも棒にもかからない水準にある以上、絶望的というべきでしょう。当
店にもヒレはやらないのかとおたずねがありますが、当店のメソッドは不純物の
入る余地が殆どなく、全く味らしい味はないものになり、とても商品にはなりま
せん。
では、なぜヒレカツがここ20年余り、盛んになったのでしょうか。恐らく、経
済成長と共に高級化を志向せざるを得ず、他店メソッドでも、もともと脂肪が全
くない分、いくら油を吸い込んでもなんとかなるわけで、量的希少性にも注目し
てのことでしょう。今日も、高級化・差別化への虚しい努力は、例えば、とんか
つ屋だかソース屋だかわからない位ソースばかりに凝ったり、油の配合をもって
秘伝と称したり、故意か無知かビーフと混同し、肉は腐る直前がうまいと称した
り、キャベツに限らず野菜とは各地が順番に出荷し、数週間ごとに産地は勝手に
変わるにも関わらず、「キャベツは季節により産地を変えるこだわり」と称した
り、いろいろあの手この手が繰り出されいます。思うに力士も序の口の頃は力量
こそ磨くべきで、素人と大差のない者が、非本質的なことに努力するのは、序の
口がけたぐりばかり練習するようなもので、まことにムダというしかないでしょ
う。多分とんかつの世界位でしょう。最低限の科学的知見も市場原理も無視して
いるのは。もっとも、そのおかげで当店が圧倒的競争力を持ってしまっているわ
けですが。但し他店の力量不足のツケは価格面でそして健康面で、更には尽大な
公害として、消費者が負担しているのです。どんなに譲歩しても、黒く変色した
油で揚げているところ(殆どですが)は傷害罪と言うしかありません。
|
水 分
|
たんぱく質
|
脂 質
|
繊 維
|
灰 分
|
糖 質
|
エネルギー
|
他店ヒレカツ
|
47.7%
|
18.1%
|
18.6%
|
0.1%
|
1.0%
|
14.5%
|
298kcal/100g
|
ヒレ生肉
|
74.3%
|
20.9%
|
3.4%
|
0%
|
1.1%
|
0.3%
|
121kcal/100g
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注 ○他店ヒレカツとは某デパート食品売場ヒレカツ。
分析は(財)日本食品分析センターによる。
(48083243-003号)
○ヒレ肉は四訂食品成分表による豚肉ヒレ中型種のもの。