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タダで読ませて売り上げ増?ネットで本を無料公開の動き

2010年3月6日

 ゲームや音楽ビデオがインターネットで無料配信される中、書籍の全文をネットで無料公開する動きが出てきた。3月1日から46日間限定で、保険の問題点や加入者へのアドバイスを分かりやすくつづった「生命保険のカラクリ」(文春新書)という新書の全文が公開され、5日までに約3万件のダウンロードがあった。タダで読ませて、本の売り上げには影響しないのか?

 著者は岩瀬大輔・ライフネット生命副社長。岩瀬さんはこれまでも、業界の常識を覆し、「タブー」とされてきた保険料の原価開示に踏み切るなどしてきた。「今も多くの人は、自分の保険の保障内容を正確に理解していない。一人でも多くの人に、保険の仕組みを知ってもらうことが、本を書いたそもそもの目的。ネットでの公開も、その延長線上にある」と話す。

 すでにこの本は6刷3万部を売り、「元は、十分とった」というが、無料のネット公開をきっかけに注目され、それがさらに本の売り上げ増につながることもある。

 例えば米国誌の編集長、クリス・アンダーソン氏が書いた本「フリー」は昨年11月、国内で翻訳版が発売される前、「先着1万人、全編無料公開」としてPDFファイルを無料でダウンロードできる販促を試みたところ、43時間に1万人が殺到。その後、ブログでの書評も相次ぎ、発売前から増刷が決まったといういきさつがある。アンダーソン氏は、ネットの無料サービスをテコに、有料商品・サービスでのもうけにつなげるというビジネス理論「フリーミニアム」を提唱している。

 角川グループホールディングス会長の角川歴彦氏も自著の今月10日の発売に先駆け、1日から全文を公開中。出版社トップ自ら追随する動きも出てきた。

 本の売り上げに悪影響を与えないかとの懸念もあるが、出版業界は、いまのところ静観の構え。「著作者・出版者の意図しないところで、著作物が勝手に再利用・流通されるのとは違い、販売戦略などとして行われるのであれば、あずかり知ることではない」と、業界団体の社団法人日本書籍出版協会の担当者は話している。(鈴木淑子)

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