町議会から、辞職勧告決議を突き付けられた福岡県添田町の山本文男町長(84)。だが、決議に法的拘束力はなく、町政刷新派の議員からは、次なる手としてリコール(解職請求)の声も出始めた。対する町長擁護派の一部議員はすでに、続投を求め署名活動を展開中。汚職事件で「町には迷惑をかけていない」と断言した町長の進退をめぐり、町は真っ二つになりかねない状況だ。
「ひとつの方法としての考えはある」。臨時議会で辞職勧告決議案を提案した松本雄二議員は、閉会後の記者会見でリコール実施の可能性に言及した。
山本町長は1日、町議会全員協議会などで進退について「町民の意思に従う」と明言。ただ、意思確認の方法は語らず、「町民の声が高まるだろうから集約する」と述べるにとどまった。
「町民の声」と発言した背景に見え隠れするのが署名活動。緒方裕子議員は、町長が逮捕された2月2日の数日後から、地元を中心に署名を集め始めた。「任期を全うして町民への責任を果たしてと、応援するのが目的」と語る。高瀬知恵子議員も「署名活動を通じて住民の声を町長に届けたい」と強調した。
こうした動きを刷新派は「応援署名だけが町民の声になってしまうのでは」と強く警戒する。
そこで浮上したのが、地方自治法上のリコール。だが、リコール投票には有権者の3分の1の署名が必要で、実現は容易でない。刷新派の久保田実生(みしょう)議員も、手段としての有用性を認めながら「先頭に立ってやる人がいるかどうか…」と難しさをにじませた。
しかし、臨時議会を傍聴した男性(69)は「議会が辞めさせられないなら、住民が署名するなど声を上げないといけない」と主張。リコールを求める声は町民からも出ている。
10期39年にわたって町政トップのいすに座り続ける山本町長。4日夕、町総務課を通じて「臨時議会のことについてはコメントを差し控えたい」との談話を発表した。県町村会長の辞任は決まったが、その政治的、道義的責任をめぐる町内の混乱は、当面収束しそうもない。
=2010/03/05付 西日本新聞朝刊=