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きょうの社説 2010年3月6日
◎マグロ取引禁止 重要さ増す能登の畜養事業
米政府がワシントン条約の締約国会議で、大西洋・地中海産クロマグロの国際取引禁止
を求めるモナコを支持する意向を改めて表明したことにより、取引禁止に反対する日本は苦しい立場に追い込まれた。クロマグロのような水産物を、絶滅の危機にあるシーラカンスやジュゴンなどの希少生物と同列に扱うことには違和感がある。本来なら取引禁止ではなく、違法操業を厳しく取り締まるなどして漁獲量を減らすのが筋だろう。ただ、世界のクロマグロの8割近くは日本で消費され、大西洋・地中海産のクロマグロ もほぼ全量が日本に輸出されている。性急な禁輸には反対するとしても、長い目で見れば、マグロの供給先が細っていくのは避けられない。 クロマグロをいけすで育て、太らせてから出荷する「蓄養」事業が昨年から珠洲市沖で スタートし、「能登本まぐろ」のブランド名で出荷されている。景気の低迷で、バブル当時は1キロあたり5000円を超えていたクロマグロの価格が現在では半値以下という。クロマグロの流通の半数を占める大西洋・地中海産の取引が困難になれば、流通量が減り、採算性は大きく改善するだろう。これから先、「育てる漁業」の重要さは増すばかりであり、能登の漁業の新たな柱に期待したい。 今月13日からカタールのドーハで開かれるワシントン条約の締約国会議で、クロマグ ロの国際取引禁止決議案が採択された場合、日本は態度を「留保」し、決議に従わない方針を明らかにした。だが、日本のクロマグロの消費量のほぼ半分を供給してきた大西洋・地中海産が今後、減っていくのは間違いない。現在、在庫が2年分あり、急に品不足に陥ることはないとしても、これからジワジワと値を上げていくとみられる。 珠洲市沖で蓄養されたクロマグロの出荷量は昨年、当初計画の200トンを大きく下回 り、わずか5トン(120本)にとどまった。全国区ブランドへの道は容易でなく、国内にも蓄養事業を手掛ける手ごわいライバルがいる。流通価格の上昇は消費者にはつらいが、産地には朗報である。
◎普天間基地移設 どの案が「本命」なのか
この期に及んで、また新しい案が出るとは思わなかった。迷走する米軍普天間基地の移
設問題で、政府案の「本命」になりそうなキャンプ・シュワブ陸上案とともに、沖縄県うるま市の米軍ホワイトビーチ沖の埋め立て案が浮上してきた。あらゆる可能性を考えて、移転先を検討するのは悪いことではないが、地元や米軍の意向も抜きにして、過去に検討された案がぞろぞろと出てくる状況が好ましいとは思えない。鳩山由紀夫首相がタイムリミットとした5月末までもう時間がない。政府として、どの 案を本命に据えて地元や米軍と交渉に臨むのか、そろそろはっきりすべき時期ではないか。 新たな候補地は、米軍ホワイトビーチと、沖合にある津堅島までの間を埋め立てる案で ある。遠浅であることから、埋め立てがしやすいという。かつて普天間基地の移設候補地として検討されたことがあり、当時は米海兵隊が積極的に支持したとされる。 だが、仲井真弘多沖縄県知事は、ホワイトビーチ沖への移設案について、「理解不能。 庭石をあっちだこっちだと動かしているのと同じだ」と不快感をあらわにした。海上(公有水面)の埋め立てには県知事の同意が必要で、日本一のモズク生産量を誇る漁場もあり、地元うるま市の反発は必至である。キャンプ・シュワブ沿岸部はだめで、ホワイトビーチ沖なら良いという理由も分からない。 政府は既にキャンプ・シュワブ沿岸部の現行移設計画履行を断念する方針を米側に伝え た。鳩山首相は今月中に政府案を固めると言うが、今ごろになってホワイトビーチ沖の埋め立て案が出てくるようでは先が思いやられる。 社民党もグアムのほか、馬毛島(鹿児島)などの九州各地、陸上自衛隊東富士演習場( 静岡)など、沖縄以外の候補地をただ並べ立てているだけである。煮え切らぬ政府・与党のなかで、国民新党は候補地をキャンプ・シュワブ内に滑走路を建設する陸上案と嘉手納統合案の二つに絞り込んだ。このうち、特に陸上案は現実的な落としどころのようにも思える。
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