東京大学は5日、大学院工学系研究科のアニリール・セルカン助教(36)の博士論文に他人の論文からの悪質な盗用などの不正が見つかったとして、03年に授与した工学博士の学位を取り消したと発表した。論文不正で博士の学位が取り消されたのは東大で初めて。
東大によると、学位を申請した宇宙での長期滞在施設に関する論文全376ページのうち約4割の149ページで他人の論文からの盗用が見つかった。他人の論文の主語を自分に書き換えるなどした悪質な盗用やその疑いがある個所は計21カ所あった。セルカン助教は盗用した事実を認めているという。
セルカン助教はトルコ国籍。東大博士課程、宇宙航空研究開発機構研究員を経て、05年に東大大学院建築学専攻助手(現助教)になった。自身の著書やブログで「米航空宇宙局(NASA)で訓練したトルコ人初の宇宙飛行士候補」と称して講演や執筆活動を続けていた。昨年秋に経歴を疑問視する声や論文不正の指摘が東大に寄せられ、調査委が設置されていた。
東大の佐藤慎一副学長は「極めて遺憾である。二度とこのようなことがないよう、全学をあげて取り組んでまいりたい」とのコメントを発表した。
東大の決定を受け、中央公論新社は5日、セルカン助教の著書「ポケットの中の宇宙」(中公新書ラクレ)を絶版にしたと発表した。【江口一】
毎日新聞 2010年3月5日 20時19分(最終更新 3月5日 21時06分)