「うわあ・・・・。これがドイツの大学の卒業証書ですかぁ・・・・・」

 山岸マユミが感嘆の声を上げる。

 ここは第3新東京市立第2中学校2年A組の教室だ。

 マユミが見ているのはアスカの卒業証書である。

 当然、ドイツの大学の卒業証書であるから何が書いてあるかチンプンカンプンだ。

 かろうじて読めるのが“Asuka Soryu Langrey”の文字だけだ。

 「フフン。まーねー」

 アスカが胸をはる。

 「本当にアスカさんて天才なんですねぇ・・・・・」

 マユミが再度感嘆の声を上げる。

 「ま!それ程でもないけどねー。ほほほ」

 口に手をあてて笑い、すっかり乗せられているアスカ。

 「すごいわねー、ワタシなんて皆勤賞くらいよ。もらった事あるの」

 ヒカリが参加してきた。

 「ワタシ小学校の時体弱かったから皆勤賞も羨ましいです・・・・」

 「そ、そう?」

 ヒカリもチョット照れる。

 「ホーント羨ましいわ。アタシなんか何一つダメで・・・」

 そう言ったのは霧島マナ。

 しかし、そう言いながらも急に迷彩のジャケットなんか着だして『アタシ戦略自衛隊出身なのよ!』と無言でアピールしている。

 (・・・・・・・・ねえヒカリ。鋼鉄はやっぱり戦自出身なの褒めて欲しいつもりなのかしら?)小声で尋ねるアスカ。

 (噂では訓練中に間違えて上官を撃っちゃって強制除隊になったらしいですよ・・・・・)マユミも加わる。

 (・・・・・・・・・・・・・・・一先ず置いて帰りましょうか)

 念の為言っておくがヒカリは学級委員長である。

 激務なのだ。忙しいのだ。決してマナにツッこむのが面倒くさくなったわけではない。

 そう思わせてくれ。

 「ホーントアタシなんて取り得なくて困っちゃうわー・・・・ってあれ?」

 3人とも既にいなかった。

 代わりにレイが立っていた。

 「あ、レイちょっと聞いてよ。アタシ取り得がなくてさあ・・・・・・」

 そう言いながらまた戦自のジャケットを見せびらかすマナ。

 レイは黙って鞄の中から一枚の紙を取り出した。

 レイから受け取った紙を開くマナ。



 2ねん1くみ あやなみれい さんすう 100点



 「・・・・・・・・・・・・・小学校の時の?」

 マナがなんとか尋ねた。

 「・・・・・・・・・・・・・ワタシにはこれしかないから」

 答案を丁寧に折りたたんで鞄にしまうレイ。

 今日も良い天気だ。










 「でも、羨ましいです。ワタシだけ特技も取り得もないから・・・・・」

 帰り道である。

 3人の手にはソフトクリームがある。

 美味しいと評判の店のだ。

 「そんな事ないわよ」

 ヒカリがフォローをいれる。

 「そうよ!マユミだってスゴイじゃない!!」

 アスカが熱弁する。

   


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
POCKETFUL of RAINBOW

1000HIT感謝記念地獄短編
山岸マユミと愉快な仲間たちの不愉快な日常


WRITEN by:MIYASOH




 「それじゃあ後は若い人同士で・・・・・・・」

 マユミの叔母が部屋から出て行く。

 残されたのは振袖姿のマユミと見合い相手である青年だけだ。

 「あ、あの・・・・・・マユミさんは何か特技とかありますか・・・・・・・・・?」

 青年がおずおずと尋ねる。

 「・・・・は、はい・・・・・。あの、ワタシ・・・・・・・・
ツッコミを少々・・・・・・」

 (言える筈ないわー!!!)

 マユミは教室の机で頭を抱えていた。

 妄想のお見合いで妄想の返事をしていたのだ。

 (せ、せめてお茶とかピアノとか女の子らしい特技を修得・・・・・・いえ!この時代にそんな消極的な考えじゃダメよ!なにか、こうもっとインパクトのある特技じゃないと・・・・・・・。だいたい特技がツッコミだなんて言ったら「ああ、芸人の方ですか。じゃあボクはここら辺でお先に・・・・・・」とか「峠ですか?いいですねえ。どうです?これから下りのタイム競いません?」とかそんな展開になるに決まってるわ!それにワタシもつっこみたくてつっこんでるんじゃないのよ!あの3ボケガールズや4バカ・・・・いいえ!3バカプラス1変態カルテットのおかげで、おかげでー!!)

 キッと隣の席の渚カヲルを睨む。

 カヲルは幸せそうな顔をして夢を見ていた。

 「ウフフフフフフ・・・・・・・。そんなシンジ君、小鳥じゃあるまいし」

 (この変態が、この変態が悪いのよ!この!この無意識にボケる変態が――――!!!)

 マユミの不愉快な日常はまだ始まったばかりだ。










 ―――放課後である。

 「え!?管弦楽部に入部したい?」

 廊下でマユミに呼び止められたシンジは聞き返した。

 「い、いえ・・・・・あの、入部ってわけじゃあないんですけど・・・・・・。あの、ワタシ部活ってやったことないんで・・・・・」

 マユミがしどろもどろになりながら説明する。ツッコミ以外では内気なのだ。

 「ふーん。でもボクもたまにチェロ弾くときだけお世話になってるだけだからそんなに親しくないけどいい?」

 (だから好都合なのよ)

 なんとかマユミはその言葉を飲み込んだ。

 「い、いえ、あの図書委員の仕事がない時だけなんで・・・・・」

 「ふーん。じゃあ案内するね」

 シンジは特に疑問を持たなかったようだ。





 「ねー!かなり受けるよねー!!」

 「メチャ受けるー!!」

 「イイよねー」

 「イイよー」

 「どこがやねん」

 廊下の途中で話をしてる女生徒の声が聞こえる。

 (どこがやねん!?何でわざわざ関西弁になるのよ!そんな中途半端な関西弁じゃボケが死んでしまうわ!!トーシロがうかつに手を出したりしちゃダメなのよ!もっと奥が深い物であって―――)

 知らぬ間に拳に力が入ってるマユミ。

 「ハッ!!」

 我に返った。

 「どうかした?」

 シンジが怪訝そうに尋ねる。

 「い、いえ!べつに!」

 (何考えてんのよワタシはーーーっ!!)

 マユミは頭を掻き毟りたくてしょうがなかった。

 なんとか我慢できた。指がワキワキと動いていたが。

 シンジは逃げ出したくなっていた。










 音楽室と書いてある。書いてあるんだからココは音楽室である。

 文句を言われても困るのだ。

 事実は動かしようがないのだから。

 管弦楽部の部員は2人しかいなかった。

 向かって右に丸顔で坊主頭を青く染めた奴。

 左側はスキンヘッドで口が大きい。

 2人とも筋骨隆々だった。

 「―――――――――ッ!!」

 マユミのこめかみが以上にピクピクする。

 なにかスゴク言いたい事があるのを我慢している様に見える。

 「きゃあー。初めての女子部員よ!」

 「アナタ何年生?」

 「楽器に興味ある?」

 「袈裟固めって筋肉で例えると何処だと思う?」

 2人で代わる代わる質問を浴びせる。

 ちなみに2人とも男子生徒である。

 ああ、鬱陶しい。

 「それじゃあ、山岸さん。ボクこれからチョット用事があるから先に帰るね。先輩!山岸さんの事よろしくお願いしますね!来週また来ますんで!」

 そう言ってシンジは手を振って音楽室を離れた。

 管弦楽部の2人も手を振っている。

 3人ともイイ笑顔だ。

 そうか、シンジは慣れているのか。

 マユミは額に青筋を立てている。

 顔は無理に笑っているが。





 「じゃあ山岸さん、早速で悪いけどどんな楽器弾きたい?」

 青い方がマユミに尋ねた。



 ニッコリ



 彼の微笑みを見てチョット意識が遠くなりかけた。
 (ダメよ!人を見かけで判断しちゃダメよ!!あの、あの連中の事を思い出すのよ!!つまり、外見とキャラの濃さは反比例する筈よ!だからこの人達の外見の濃さに惑わされちゃダメよ!!)

 必死に自分に言い聞かせるマユミ。

 「じゃ、じゃあ・・・・ワタシ・・・・・・バイオリン弾いてみたいです」

 顔を青くさせながらも答えられた。

 (ナイスよ!ナイス受け答えよワタシ!!キチンと会話になってる筈よ!!落ち着くのよ!)

 「ヴァイオリンね」

 わざわざ『ヴァ』の発音をするスキンヘッド。

 口の端がピクピクしだしてきたマユミ。

 ゆっくりと深呼吸してバイオリンを受け取る。



 グギィ〜〜〜〜〜



 初めての演奏などこんなものだ。



 ギゴォ〜〜〜〜〜



 窓ガラスがビリビリいってる。



 ボエェ〜〜〜〜〜



 「ちょ、ちょっとストーップ!!」

 青い方が止める。

 「アナタ、ジャイ○ン?」

 スキンヘッドが尋ねる。

 (ドラ○もんとオ○Qに言われたくないわ)

 知らぬ間に自分がボケ役に廻っていてちょっと不機嫌なマユミ。

 (落ち着くのよ、落ち着くのよワタシ。ココでちょっと可愛く謝って丁寧に教えてもらうのよ。コレが健全な人間関係の、そしてワタシの明るい未来への第一歩よ!!)



 ブルッ



 武者震いをするマユミ。

 「トイレ?階段の横よ」

 スキンヘッドがマユミに言った。

 どうやら武者震いを尿意と勘違いされたらしい。

 「は、はい・・・・・・」

 おとなしく従ってしまうマユミ。










 (はあ・・・・・・・・・・・ダメねワタシ・・・・・。たかだか自分がボケに廻ったって言うだけでこんなにウズウズするなんて・・・・・・・・・・フフフ、未来が真っ黒よ。母さん・・・・・)

 マユミは夕日を見ながら涙を流した。

 (はあ・・・・・・・・・・・顔洗おう)

 泣きながら女子トイレのドアを開けるマユミ。

 そこで彼女が見たものは―――――、

 暗転。

 「きゃあ!マユミ!?」

 「なんや山岸どないした!?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「え!?なにどうしたの?」

 「保健室に運ぶわよ!」










 「なんでトイレの中でレスリングしてるの!?
 なんでアスカさんとマナさんが戦ってるのに賞品が碇さんじゃないの!?
 って言うかなんでレフェリーの渚さんが無事なの!?技喰らってないの!?
 それよりも綾波さんが実況で鈴原くんが解説なの!?普通逆でしょ!?
 つまり碇さんがさっき言ってた「大事な用事」ってアレの事なの!?

 保健室で目覚めたマユミの第一声だ。
 「山岸さん・・・・・・・・・なんかスッキリした顔してるわね

 ヒカリに言える事はそれだけだった。

 こうして山岸マユミの不愉快な日常は一先ず終わり―――――――、

 また明日の朝から始まるのであった。

 明日もいい天気だろう。





 1000HIT感謝記念短編「山岸マユミと愉快な仲間たちの不愉快な日常」どうでしたでしょうか?

 短編用のネタはコレしかなかったんで時期的に早いかなと思ってたんですけど書いちゃいました。
 本当はもっと色んな短編を書いてマユミがツッコミ役を確立してからの方が良かったんでしょうけど「早めに書いておかないとネタ忘れる!」と思ったんで。

 ちなみにこの話、元ネタあります。骨組みはほとんど使わせてもらってます。
 自分で盗作厳禁とか言っておいてこれじゃあいけませんね。
 まあ、チョコチョコ変えたんですけど。

 次の短編の予定は今のところありません。思いつき次第書いていこうと思ってます。

 あと、自分。山岸マユミってキャラの存在知ったの2001年になってからです。
 言葉づかいがおかしいかも知れませんがお許しください。
 まあ、霧島マナも最近知ったんですが。

 それでは!



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