「S・H・I・T、シット!! なんてバケモノだ!!」

 双眼鏡を片手に空母オーバー・ザ・レインボウの艦長が怒鳴っている。

 先刻から突如海上に現われた使徒の侵攻を阻むべく砲撃を繰り返しているのだが、一向に成果が見られないのだ。

 三日月状の腕をした使徒の眼窩から光が迸る。

 真っ二つになって沈むイージス艦。

 交戦中に合流したサバ将軍も拳を振るうが、ATフィールドに阻まれてダメージを与える事が出来ない。

 使徒が無造作に腕を振る。

 また一つ艦が沈んだ。

 「総員退艦しろ」

 艦長が静かに、そして堅く告げる。

 「ありったけの機雷をOTRに移動させろ。オレがとどめを刺してやる」

 そう副長に告げる。

 「艦長!」

 副長が抗議の声を上げる。

 「黙れっ!! これは上官命令だっ!!」

 抗議の声を一喝し遮る艦長。

 「そ、それなら私も!」

 副長がなおも食い下がる。

 「ダメだ。これはな、オレら古い戦争屋の意地なんだ。お前らみたいな若いのは生き残ってオレらの尻拭いでもしてるんだ」

 「艦長! で、でも私にも軍人としての誇りが・・・」

 「黙れと言ってるだろう!! お前は生き残ってあの坊ちゃんや嬢ちゃんの手助けをしてやれ」

 頭ごなしに怒鳴りつける艦長。

 「・・・・・・サー、イエッサー!! 総員退艦だ!! 操舵長は自動航行モードをプログラムしておけ!!」

 一瞬の間の後、踵を返して艦長の命令を伝える副長。

 そしていよいよ艦長のみがOTRに残った。















 「おのれ! このバケモノめ!!」

 サバ将軍の肘が使徒の顔面に突き刺さる。

 が、まるで何事もなかったかのように平然と腕を振るう使徒。

 決して技量ではサバ将軍は負けてはいなかった。

 だがATフィールドの存在が彼我の能力差を超越し、絶対的な壁となって立ちはだかっている。

 「サバ野郎どけっ!! 爆発に巻き込まれるぞ!!」

 波を割って一直線に使徒へ向かって突き進むオーバー・ザ・レインボウ。

 そしてオーバー・ザ・レインボウから轟く艦長の声。

 サバ将軍は即座に艦長の考えを理解し、その場から離脱しようと―――、





 使徒の虚ろな眼窩が瞬き―――、





 サバ将軍が使徒を羽交い絞めす―――、





 使徒の視線がずれ―――、





 巨大な水柱が上が―――、















 水煙を割って現われるオーバー・ザ・レインボウ。





 使徒の動きを止めるべく羽交い絞めをするサバ将軍。





 使徒がATフィールドを発動させた為に、サバ将軍の使徒に接触してる部位が焦げる。















 「「死ねえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」」

 艦長とサバ将軍の声が―――想いが重なる。















 










 










 爆風










 衝撃















 だが、依然として健在の使徒。

 多少はダメージを食らったらしく、体表面の組織が融け爛れているが生命活動に支障はないようだ。

 「くそっ! 艦長の行為は無駄だったとでも言うのか!!」

 救命ボートの縁を叩き、溢れる涙を拭おうともせずに叫ぶ副長。

 備え付けの非常用無線機を取り出しネルフへとエマージェンシーコールを送る。

 「聞こえるか! オーバーザ・レインボウだ! 使徒だ、使徒が現われた!! 艦隊はほぼ全滅、艦長が空母ごと使徒に特攻し、サバ将軍も使徒を押さえつける為に爆発に巻き込まれた。 頼む、2人の仇を討ってくれ

 かくして我々は2人の偉大な海の勇者を失った。


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!

ACT.09=B Both of You. Dance Like You Want to Win!
 or 
TWIN−MACHINEGUNS


writen by:MIYASOH



 と、まあこう言う経緯もあり、作戦前の碇ゲンドウ司令による演説もあってかネルフの面々は士気も充分、特に初のエヴァ3体同時使徒殲滅作戦とあって葛城ミサト一尉は気合充分。

 意気揚揚と移動指揮車に乗り込み作戦開始となりました。

 3体のエヴァの布陣は、シンクロ率及び機体性能などを吟味した結果オフェンスに初号機と弐号機、バックアップに零号機を起用した。

 オフェンスの2体は新兵器であるソニックグレイブ(エヴァ専用薙刀)を装備し、バックアップである零号機はパレットライフルを構える。

 パレットライフルによって使徒の行動を抑え、オフェンスの1体がATフィールドを無効化、もう1体が攻撃をすると言う鉄壁の布陣である。

 これで負けるハズがない。















 負けた。

 徹底的に負けた。

 惜敗ではない、完敗である。

 圧倒的大差で負けたのである。

 完全完璧絶対的敗北である。

 確かに作戦自体は成功であったし、エヴァの行動にもミスはなかった。

 零号機の射撃は正確であったし、初号機も良い動きをした。

 モチロン弐号機の動きだって申し分なかった。

 初号機と2体で使徒を追い詰め、ATフィールドを初号機が無効化してる間にソニックグレイブで一刀両断。

 2つに切り裂かれた使徒は呆気なく活動を停止。

 使徒殲滅までにかかった時間が7分23秒。新記録である。

 おまけに周辺への被害もほぼゼロ。

 ネルフとしては願ったり叶ったりの展開である。

 そして誰もが勝ったと思い込んだ瞬間、

 2体に分裂して復活する使徒。

 体表がオレンジ色の方を使徒・甲、薄灰色をした方を使徒・乙と呼称する。

 それを見た瞬間、時の作戦部長葛城ミサト一尉は「ぬわんてインチキッ!!」と叫んだらしい。

 初号機・弐号機は呆気にとられてる隙に接近戦を挑まれ、ソニックグレイブの取り回しに手間取ってる間に投げ飛ばされて初号機は海岸へ、弐号機は山の中腹へとそれぞれ機体の半分以上をめり込ませて小破。

 次の瞬間には零号機がプログナイフで挑みかかるもやはり多勢に無勢。

 サンドバッグのように殴られ、投げ飛ばされ市街地に突っ込み大破。

 唯一の吉報は国連軍が独断でN2爆雷の投下を指示、使徒の体組織の3割弱を焼き尽くし足止めに成功。

 一方ネルフの被害だが、初号機・弐号機は小破、整備に5日ほどかかる様子である。

 大破した零号機はこれを機に神経接続・装甲板を制式モデルへとチェンジする為、最低でも2ヶ月間はドック入りである。

 そして画面がノイズへと変わる。

 薄暗いブリーフィングルームはやはり陰鬱な空気に支配されていた。

 「MAGIの計算によれば使徒の再度侵攻予定日時は一週間後です」

 マヤが沈黙を撃ち破るかのように告げる。

 「・・・・・・・・大体バカシンジがあそこでボーっとしてるからよ!」

 アスカが隣の席のシンジに向かって文句を言う。

 「それを言ったらアスカだって」

 シンジが言い返す。

 「キィーーーーッ! アンタねえ、か弱い女の子に責任負わせようって言うの!?」

 「か弱いってアスカの方がボクより強いじゃないか!」

 「・・・・・・・・って言うか秒殺された2人には発言権がないと思うの」

 レイがボソリと呟く。

 「なんですって!? そう言うレイの被害が一番大きいじゃないのよ!」

 憮然として言い返すアスカ。

 「・・・・・・・でもワタシは2体相手に善戦したわ」

 結局やいのやいのと口ゲンカを始める3人。

 陰鬱な雰囲気大ナシ。

 「あー、3人とも黙れ」

 ピタリと喧騒が止む。

 案の定、3人の口ゲンカを止めたのは狩野である。

 「えー、来月の小遣い、アスカとシンジはマイナス1000円、レイはマイナス1500円」

 

 一斉に顔が青ざめる3人。

 「アタシは前半戦で一番活躍したからプラスであってもおかしくないんじゃないの、小父さま!?」

 「いやいやいやボクのアシストがあったからの活躍であってむしろプラスであるのはボクの方」

 「・・・・・・・やっぱり秒殺された2人には発言権はないと思うの。そして2体同時に相手をしてあれだけ善戦したワタシこそプラスであってもおかしくない筈」

 結局、またやいのやいのと狩野に詰め寄り騒ぎ始める3人。

 「まったく恥をかかせおって・・・」

 冬月が溜息を吐く。

 「ま、立て直しの時間が稼げただけで儲けモノっスよ」

 肩をすくめながら冬月を宥める加持。










 「あーーーーーーもうっ!!! なんでこんなに抗議文が贈られてくるのよ!!」

 作戦部でミサトがマイク片手にがなっている。

 それもその筈、ミサト・狩野・日向の机は各関係省庁からの抗議文やら被害報告書が山と積まれているのだ。

 エコーマイクでがなりたくなる気持ちも分からなくはない。

 ただ居合わせた者にとっては迷惑以外の何者でもないが。

 「怒鳴っても書類は片付きませんよ・・・・・」

 日向が溜息を吐きながらミサトを諌める。

 「ンな事ぁ分かってるのよぉ〜〜〜!」

 未だマイクを離さずにがなり続けるミサト。

 「諦めて仕事するしかないか・・・」

 狩野もグッタリして席に着く。

 「とほほ・・・・・」

 ついにミサトも観念したようだ。

 3人とも肩を落として書類を片付け始める。

 報告書を書き、判を押し、封筒に入れ、まとめる。

 報告書を書き、判を押し、封筒に入れ、まとめる。

 報告書を書き、判を押し、封筒に入れ、まとめる。

 報告書を書き、判を押し・・・・・・・・・・・・・・(繰り返し)

 小一時間ほど経った辺りか、

 「なぁ・・・」

 狩野が呟いた。

 「もし、今地震が来て書類の山の上にコーヒーとかがぶちまけられたり、火事になって全部燃えちまったら・・・・・・・」

 「少なくとも今日はもう仕事しなくても良くなりますよねぇ・・・・・」

 日向がボソリと呟き返す。





 沈黙。





 沈黙。





 今にも地震が起きそうなほどの沈黙。

 「ちょ、ちょっとコーヒー淹れてくるわね」

 そう言いながらミサトがワザとらしく席を立つ。

 「あ、あの! 僕にもお願い出来ますか!?」

 日向も声が上擦っている。

 (ど、どういう展開にすれば良いんだ!? 僕がコーヒーをこぼしちゃって良いのか!?)

 (アレか!? 日向がオレの手かなんかにコーヒーをこぼして、それでオレがタバコを書類の上に放り出しちゃえば良いのか!?)

 狩野が少し手を震わせながらタバコを咥える。

 (どうすれば良いの? どうすれば良いの? タバコ!? じゃあ引火し易いブランデーをカップに入れて行けば良いの!?)

 ミサトが震える手でコーヒーカップにブランデーを注ぐ。



 ドクン



 ドクン



 ドクン



 ミサトが日向にコーヒーを渡そうと―――、

 「頑張っている作戦部の皆さンに優しくて美しい赤木博士からプレゼントよ!!」

 「きゃぁっ!」

 急にリツコが勢い良くドアを開けて入ってきた。

 驚いたミサトの手から綺麗な放物線を描いて飛んで行くコーヒーカップ。





 日向の頭上を飛び越え、





 机の上に鎮座ましましている数多の書類を越え、





 ちょうどライターに火を点けたばかりの狩野の頭に激突する。



 ボゥッ!!



 炎上する狩野の頭部。

 「ギャーーーーーッ!!!」

 狩野の悲鳴がジオフロントに響く。










 結局、書類の山はスプリンクラーの活躍によって水浸しになり、狩野も顔面に少々火傷を負う程度で済んだ。

 まあ、頭髪の大部分が焦げてしまったので坊主頭を余儀なくされたのだが。

 「日向・・・・・よく聞いておけ。オレが死んだら影武者を立てて3年間は黙っておけ」

 「誰に?」

 「えーとナポレオン? って言うかむしろナポレオンズ

 「手品で生き返らされるからですか?」

 「インチキのな」

 医務室でこんな会話が交わされている頃、

 ミサトはリツコとともに技術部のオフィスにいた。

 「で? そのプレゼントってのはナンなの?」

 ミサトがかったるそうに尋ねる。

 「ふふん、コレよ。第七使徒攻略秘密アイデァ」

 そう言って1枚のMOディスクを取り出すリツコ。

 「さっすが赤木リツコ博士。持つべきものは心優しき親友ね」

 「残念ながら親友のピンチを救うのはワタシじゃないわ。このアイデァは加持クンよ」

 「加持が?」

 露骨に嫌そうな顔をするミサト。

 「なぁ〜んか嫌な予感がするわねぇ」

 「ま、いざとなったらコッチもあるから」

 そう言ってもう1枚MOディスクを懐から取り出すリツコ。

 「いよっし! それなら安心だわ!!」

 信用がない加持。















 ガチャリ



 翌日放課後、学校から帰って部屋のドアを開けたシンジの目に見慣れないモノが飛び込んできた。

 ダンボール。

 ダンボール。

 ワンスモアダンボール。

 ワンスアゲインダンボール。

 詰まる所がダンボールである。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 稀にコレを家の材料にしている方がいるが、まあ基本的にはダンボールである。

 「おかえり〜♪」

 部屋の奥から聞き慣れない(とは言っても学校とネルフでは嫌と言うほど聞き飽きた)声がする。

 「アスカ?」

 そう、言わずと知れたセカンドチルドレン、ドイツが生んだ超絶天才美少女、惣流・アスカ・ラングレーである。

 だからなんでワタクシがこんな事言わなければならないのか・・・。

 「聞こえているわよ、1号」

 アスカがギロリと睨む。

 公務員になんかならなきゃ良かった。

 「で、何でアスカがウチにいるのさ?」

 「聞いてないの? コレ」

 そう言って1通の書類をシンジに渡すアスカ。

出向指令書


惣流・アスカ・ラングレー殿

 上記の者は本日より葛城一尉宅にて暮らす事。




ネルフ総司令
碇ゲンドウ

 「ホラ」

 「父さんの字だ・・・・・」

 「そー言う事!! だからアタシは今日からココで暮らすって事!」

 あっけらかんと言い放つアスカ。

 「・・・・・・・ボクは?」

 「さあ? とりあえずアンタの荷物は全部リビングに出しといたけど」

 「嘘!?」

 「いや本当」

 シンジが慌ててリビングに向かうが、そこには山と詰まれたシンジの私物。

 「・・・・・・・・・・・これからどうなるんだろう?」

 全くだ。















 ングングング



 その夜、ミサトが2人の前でビールを飲んでいる。

 「プハァッ! つーまーり! 第七使徒の弱点は1つ! 分裂中のコアに対する2点同時荷重攻撃! そして案外に人見知りをする事!!

 ミサトが断言する。

 「いや、そんな初歩的な算数を間違えられても」

 「ともかく! エヴァ2体のタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。そのためには2人の協調、完璧なユニゾンが必要なの。そ・こ・で、あなた達にはコレから一緒に暮らしてもらうわ!!」

 2人に向かってビシッと指を突きつけるミサト。

 「えぇ〜〜〜〜〜!!」

 盛大な抗議の声を上げるアスカ。

 「ちょっとミサト! どー言う事よ!!」

 「どー言う事もなにも言ったとおり、聞いたとおりの事よ」

 涼しい顔で言うミサト。

 「いや、一応同年代の男女が1つの部屋で寝泊りって言うのはマズイと思いますけど」

 「あ〜〜〜〜っ! そんな事言うって事はやっぱそう言う事考えてるわけね!! ヤラシー!!」

 「ち、違うよ! ただボクは一般的な常識として・・・・」

 「そんな事言ってアタシの着替え覗こうとしたのは何処の誰だったかしらねぇ!!」

 「だからアレは・・・・・」

 なんのかんのと言い争う2人。

 「黙れっ!!!」

 一喝するミサト。

 「五月蝿い、黙れ、シャーラップ、ビークワイエット!!」

 言い疲れたか肩で息をするミサト。

 口ゲンカをしてたポーズのまま固まる2人。

 「と・も・か・く!! 時間がないから命令拒否は認めません!! あなた達には一緒に暮らしてもらいます!!」










 そんなこんなで2つの大きな歯車が噛み合わさった。





 どーも、新年一発目のJGSUP、長らくお待たせしました。作者のミヤソーです。

 えー、前回の後書きで書いた次回予告、間に合いませんでした。

 次回Cパートでの事になりそうです。





 しっかし・・・LASって難しいですねぇ。

 まあまだ出会ったばかりの2人だからしょうがないと思うんですけれども。

 次回以降に期待して下さい。

 それでは、次回『JGSUP.ACT09=C I Wanna Keep On Dance,THIS IS MY LIFE!』でお会いしましょう。



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