アスカが来日してから二週間―――、

 際立って大きな事件と言える様な事態は起こらなかった。

 ただ、狩野がアスカと同居する為の物件巡りをしていた事を除けば。





 現在、第3新東京市の住宅事情は決して好調とは言えない。

 頻繁に使徒が来襲するだけではなく、ネルフとか言う怪しげな組織が楽しげに、時に苛立たしげに暗躍しているのだ。

 そりゃあ地価も暴落するだろう。

 しかし安くなったとは言っても一介の安サラリーマン(バックにネルフが付いているが)である狩野に一戸建てが買えるほどではない。

 ローンと言う手もあるが銀行が貸し渋っているのだ。

 バックにネルフが付いているので身元に関しては充分過ぎるほど保障されているのだが、バックにネルフが付いているだけに何時ローンを踏み倒されるか分からないのだ。

 ネルフの共済組合から資金を借りるという手もある事にはあるが・・・・・利率が鬼の様に高いのだ。

 共済組合から金を借りるという事は自らの死刑執行書にサインをするのと同じ意味である。

 そんなわけでアスカは現在ネルフの宿舎に寝泊りしている。

 そうは言っても夕飯などは狩野やレイと一緒に食べているし、学校へ持っていく弁当だって狩野の手作りだ。

 宿舎では本当に寝るだけである。(狩野が夜勤の時はレイがアスカの部屋に泊まりに行ったりしているし)

 そんなわけで概ね世界は平和だった。









 おっと、そう言えば一つ忘れていた事件があった。

 アレは丁度アスカが来日して一週間と少し立った辺り―――、

 先日のオーバー・ザ・レインボウでの復讐とばかりに

 サバ将軍が来襲したのだ。


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!

ACT.09=A 瞬間、心、重ねて
あるいは
二匹のマシンガン


writen by:MIYASOH



 彼は海から現われた。

 身の丈はエヴァと同等、サバの頭に格闘家の肉体を持った異形の戦士。

 最初に、サバ将軍の出現によるアラートに気がついた青葉シゲル二尉は思わず「パターン青魚!! エラ呼吸です!!」と叫んでしまったと言う。

 気持ちは分かるが2ヶ月間10%の減俸だそうだ。

 ともあれ、国連軍の装備では太刀打ちが出来ない為ネルフの出番と相成った。















 場所は変わって横須賀港。

 「フィーーーシュッシュッシュッシュ! 我が同胞を虐殺せしめた赤き巨人よ! いざ尋常に勝負だサバ!!」

 サバ将軍が流暢な日本語で叫んでいる。

 フィッシュッシュと言う笑い声もさる事ながら、わざわざ語尾に「〜サバ」と付けてくれている辺りがサービス精神に溢れている。

 芸人魂とも言うが。





 湾沿いにはネルフ謹製の移動用指揮車の姿。

 「・・・・・・・・・ハァ、せっかくの日本でのデビュー戦だって言うのにサバと格闘させにゃならんのかなあ」

 移動指揮車の中で狩野がボヤいている。

 「別に良いじゃない、アスカが快勝してくれればネルフのイメージアップにも繋がるし。アレなんでしょ? ネルフで働いているって言うと怪しがって銀行がローン組んでくれないんでしょ?」

 ミサトが尋ねる。

 「でもなあ、ハッキリ言ってオレだったら巨大なサバ怪人と戦うような組織の人間には金貸したくないぞ」

 「世論を味方につければ大丈夫よ」

 「無理だよ」

 狩野の冷静な一言に指揮車内が静まりかえる。

 つまり、全員が同じ感想だと言う事だ。

 作戦部の一人が溜息を吐く。

 どうせ自分も同じ穴の狢なのだ。ネルフに入ったからにはもうローンの事は諦めなきゃいけないのか。

 そんな不安が全員の頭をよぎる。





 沈黙。





 沈黙。





 今にも誰かが首を吊りそうなほどの沈黙。





 「それにしても意外よねー」

 やはり沈黙に耐え切れなくなったのはミサトであった。

 「ん?」

 「サバと戦わなくちゃいけないって言うのにアスカがあんなに乗り気だなんて

 「・・・・・・・・昔から勝負事に目がなかったからな。・・・・・・・本当に誰に似たんだか」

 そう言って溜息を吐く狩野。

 (あんただよ)

 本人の名誉の為に誰の思いかは伏せる事にする。















 で、その乗り気のアスカ嬢はと言うと―――、

 「くっくっく、たかがエラ呼吸の分際でこの超絶天才絶対無敵完全完璧天下無双覚悟完了絶対無敵美少女であるアタシに挑戦するとは良い度胸ね! ドイツ語で言うとグーテン度胸ね!!

 弐号機のエントリープラグの中で息巻いている。

 「今絶対無敵って2回言ったよ」

 通信用のモニターの中からシンジの突っ込みが入る。

 「五月蝿いわね!! 良いからアンタは黙ってセコンドに勤めてなさい!!」

 モニターに怒鳴り返すアスカ。

 「レイもジャッジ頼んだからね!!」

 「・・・・・・・あい」

 モニターの中のレイは何時も通りの無表情で答える。

 そう、今回は史上初のエヴァ3体同時作戦なのである。

 ジャッジである零号機には紅白の旗が、セコンドである初号機にはタオルがそれぞれ装備されていた。

 相対するサバ将軍が素手で挑んで来ているので当然弐号機も丸腰である。

 ひょっとしたらこう言うのは3体同時作戦とは言わないのかも知れないが。















 「フィーーーシュッシュッシュッシュ! 死合いの前に軽くデモンストレーションをするサバ!!」



 ガシン



 ガシン



 そう言って瓦を20枚ほど重ね始めるサバ将軍。

 無論縦横30メートル以上もある瓦だ。

 「・・・・・・・・あの瓦、どこで作ってるんだろう?」

 シンジが呆然と呟く。

 実は、シンジの位置からは見えないのだが瓦の中央に(C)ネルフの焼印が。

 世の中には知らない方が良い物は確実に存在するのだ。

 「ッ!!!」

 気合一閃。

 サバ将軍の拳が瓦に吸い込まれていく。



 ゴゥン!!!



 もうもうと立ち込める粉塵。

 しかし直ぐに海からの風によって粉塵が晴れていく。

 コンクリートに突き刺さる拳、粉々に砕け散った瓦。

 「フィーッシュッシュッシュ!! 見たか我輩の実力!!」

 得意げに胸を張るサバ将軍。

 「フン、そんな事ならアタシにだって出来るわよ!! シンジ!!



 パシッ!



 初号機に向かって指を鳴らす弐号機。

 「ハイハイ」

 そうボヤいて冷凍庫仕様になっている兵装ビルから氷柱を取り出す初号機。

 重そうに氷柱を抱え弐号機の前方に置こうとする。

 しかし流石のエヴァとは言え数十トン以上もある氷柱を運ぶ事は困難と見え、バランスを崩しそうになって零号機に支えられている。



 ズシン



 やっとの事で氷柱を弐号機の前方に置く事が出来た。

 両足を肩幅まで拡げ、腰を少し屈める弐号機。

 右の拳は臍の高さに、左の掌は肩の高さで氷柱に触れるか触れないかの位置に添える。





 一拍間を置く。





 「覇ァッ!!」



 グワキィンッ!!!



 弐号機の周囲が砕けた氷片で白く輝く。

 一瞬後には真夏の太陽によって蒸発する氷片。

 濃い水蒸気によって弐号機の頭上に虹が架かる。

 そして上半分が砕け散った氷柱。

 「技量・パワーは同等の様だサバな・・・・・・・・」

 含み笑いをしながら呟くサバ将軍。

 「相手にとって不足なし!」

 轟然と言い放つアスカ。

 拳による宴が始まろうとしていた。















 サバ将軍の貫手が弐号機の顔面を強襲し、弐号機の肘がサバ将軍の喉を抉ろうとせまる。





 弐号機の足刀がサバ将軍の胴に突き刺さり、サバ将軍の拳が弐号機の顎を強打する。





 激突し交差するサバ将軍と弐号機。





 (ちぃっ! たかがエラ呼吸のクセになかなかやるようね!)





 弐号機の飛び回し蹴りがサバ将軍の頭を薙ぐ。





 (くっ、陸の上で暮らしている割には鋭い動きをするサバ!)





 サバ将軍の正拳突きが弐号機の胸部へと吸い込まれていく。





 再び己の学んだ技を―――、業を叩き込むべく跳躍する両者。





 「カアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 「覇アアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」





 交差する赤と青の影。










 暗転。















 「赤き巨人よ、お前を『乾いた所に住む兄弟』と認めるサバ」

 闘いが終わり太陽が山の峰に身を隠す頃、ネルフとサバ将軍は和解した。

 ミサトはサバ将軍に話せるだけの事情―――、使徒との戦いの事、そして使徒に負けると言う事が現行生物全ての滅亡を意味している事を説明した。

 「その使徒とか言うバケモノの事なら任しておけサバ、海の中なら我らは無敵だサバ」

 サバ将軍は勝気にそう言って海へと帰っていった。

 アスカと真の決着をつける為の再戦の約束を残して。















 と、まあそんなわけでこの2週間は概ね平和であった。

 ネルフの作戦本部にオーバー・ザ・レインボウからのエマージェンシーコールが入るまでは。

 「聞こえるか!―――――ザ・レインボウだ! ―徒だ、使徒が現われた!! 艦隊はほぼ全め―――、艦長が空母ごと使徒に特攻―――バ将軍も使徒を押さえつける為に爆発に――――――頼む、2人の仇を討ってくれ」

 エマージェンシーコールは副長からであった。

 緊急用の脱出ボートからの無線らしくノイズが酷い。

 「総員第一種戦闘配置!」

 冬月が叫ぶ。

 迎撃開始である。





 えー、約一ヶ月もお待たせして本当に申し訳ないです。

 そう言う事で作者のミヤソーでゴザイマス。

 今回はいわゆるユニゾン編のAパート、それも最初の戦闘に行くまでのお話ですな。

 TVだと5分くらいで済んじゃったりした所です。

 今の所たぶんBパートで収まると思うのですが・・・・ひょっとしたらCパートまで行くかもしれません。

 っつーかLASにじゃねぇっ!!!

 ラブでコメな感じのお話は次回に期待して下さい。(書けっかなぁ・・・)

 それではまた次回『Both of You. Dance Like You Want to Win! or TWIN−MACHINEGUNS』でお会いしましょう!





 んでもって今回から次回ダイジェスト



 「なによ! シンジのソフペニ!! うわーん!!」

 泣きながらマンションを飛び出すアスカ。



 殴られる加持。

 もう一回殴られる加持。



 「ど、どーしよ・・・」

 受話器を持って途方に暮れるマヤ。






 まあ、予定ですけど。



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