「ちょ、ちょっと、アスカ! なんでまたボクも乗らなきゃならないのさ!!」
「ふふん、このアタシの第一の下僕であるアンタに王者の戦い方を見せ付けるために決まってるじゃない!」
「そんな〜、ボクは外で見てるよ〜」
そうボヤくシンジの顔を見つめるアスカ。
その青い目にジワ〜っと涙が浮かんでくる。
「なんでも・・・・・・言う事・・・・・聞くって・・・・・聞くって・・・・・・・」
目に浮かんだ大粒の涙が今まさに零れ落ちんとする。
「乗るよ! いや、乗りたいんだアスカ! キミの戦い方を間近で見られるなんてなんて幸せなんだろうなボクって!!」
そうシンジが(ややヤケクソ気味に)言うと途端にニパッと微笑むアスカ。
「なぁ〜んだ、それなら照れないで早く言えば良いのに〜」
と言うが早いかシンジの手を取ってスキップしながらLCLに浮かぶ弐号機の元へ急ぐアスカ。
可哀想に。
14歳にしてもう残りの人生全て牛耳られたのかシンジ。
合掌。
私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!
ACT.08=C The Beast U
or
She is a PUNK!
writen by:MIYASOH
ところで、その頃レイがドコでナニをしていたのかと言うと―――、
(恵方に向かって無言で太巻きを一気食いすると福が訪れるというわ)
そんな事考えながらオーバー・ザ・レインボウの食堂でホットドッグを頬張っていた。
しかも肉が嫌いだから魚肉ソーセージのヤツだ。
「いつつつつ・・・・・それにしてもみんなドコ行ったんや」
そんな事を呟きつつ食堂に現われるトウジ(阪神菌保有者)。
「って、ナニしとるんじゃ? 綾波」
無言でフリップに「恵方に向かって無言で太巻きを一気食いすると福が訪れるというわ」と書いてトウジ(阪神菌保有者)に見せるレイ。
「・・・・・・・・今日は節分ちゃうぞ」
関西人はツッコむポイントが違うから嫌いだ。
全ての生物の源である海、
全ての生物の活力源である太陽。
その両者に挟まれながら使徒と死闘を繰り広げる太平洋艦隊。
いや、正確にはそれは死闘とは呼べないだろう。
全ての巡洋艦、駆逐艦、戦艦から発射される魚雷爆雷機雷。
かすり傷さえ受けない使徒。
戯れに―――ただじゃれついたかのように見える――使徒が艦に体当たりをし、その強大な顎で噛み付くだけで真っ二つにされる巡洋艦、駆逐艦、戦艦。
ただ目の前にある。
それだけの理由で砕けていく巡洋艦、駆逐艦、戦艦、
そして人間。
使徒にはその行為に対するなんの情緒も感慨も見受けられない。
ただ目の前にある。
結局殺し合いの――例えそれが一方的なモノであろうとも――理由なんてこんな物だろう。
一方、船室では。
先ほど・・・つまり使徒の攻撃の余波である衝撃波がオーバー・ザ・レインボウを揺らしてから自分の荷物をまとめている加持の姿があった。
「こんな所で使徒襲来とはチョット話が違いませんか?」
そう電話に向かって問う加持。
「何の為にシンジとアスカ君を引き合わせたと思っているんだ」
電話から響くゲンドウの声。
「万が一の時は君だけでも例の物を持って脱出したまえ」
「分かってます」
そう告げて電話を切る加持。
しばらく所在なげに電話を見つめていたがまた荷物をまとめに取り掛かった。
使徒が再び波を割って姿を現し、大きく顎を開いてタンカーを目指す。
その巨大な牙がタンカーに突き刺さり、
爆発する。
「弐号機がっ!」
叫ぶミサト。
「くそっ! 誰か子供たちを連れて本部に―――」
狩野が副長に向かって怒鳴る。
その時、
ダッ
帆布を纏ったEVA弐号機が颯爽とイージス艦の甲板上に登場する。
「「アスカ!」」
狩野とミサトが同時に声を上げる。
「ハァ〜イ、小父さま、ミサト」
「どうも・・・」
アスカの陽気な声とは反対に情けなさそうな声を出すシンジ。
「ちょっとシンジ! せっかくアタシの初の対使徒戦をアリーナ席で見られるんだからもっと嬉しそうな声出したら!?」
「そ、そんな事言ったって・・・・・急にあんなジャンプされたから気持ち悪くなっちゃって・・・・・」
「えー! ちょっとこんなとこで吐かないでよね!!」
スピーカーから2人の会話が流れてくる。
「シンジ君もいるの!?」
ミサトがマイクに向かって尋ねる。
「はい・・・・・・なんとか」
「レイは?」
狩野も尋ねる。
「・・・・・・・・・・・さあ?」
一気に顔が真っ青になる狩野。
「レイッ! いたら急いでブリッジまで連絡しなさい!!」
急いで艦内放送用のマイクに向かって怒鳴るミサト。
「・・・・・・・・・呼んだ?」
次の瞬間、レイがひょっこりブリッジに顔を出した。
「レイっ!?」
狩野が声を上げる。
「どこ行ってたんだ、心配させやがって!」
「・・・・・・・・・・・食堂。・・・・・・・・・・・・・・昔から恵方に向かって太巻きを無言で頬張ると福が訪れると言う伝説が・・・・」
「いや、だから今日は節分ちゃうねん」
ついでにトウジ(阪神菌保有者)も現われる。
「いよっし!! これで全員集合したわね!! アスカ、思いっきりやっちゃいなさい!!」
戦闘開始だ。
「よしっ、跳ぶわよ!」
「はい?」
と、シンジが聞き返すが否や―――、
ダンッ!!
イージス艦を思いっきり踏みつけジャンプする弐号機。
弐号機の四つの目の先には空母オーバー・ザ・レインボウ。
つまり空母を足場に白兵戦を行なおうと言う烏賊す作戦である。
常識に囚われない見事な決断だ。
空母の使い方を間違えているとも言うが。
一方、てんやわんやなのはオーバー・ザ・レインボウの甲板上の船員たちである。
「予備電源出ました!」
「リアクターと直結完了!!」
「飛行甲板退避!!」
「EVA弐号機着艦準備よろし! 総員耐ショック姿勢!!」
「半鐘はおよしよ、おじゃんになるから」
毎度の事だが、勘違いしているヤツがいる。
ホラ、救護係に連れて行かれた。
逆に連れて行かない方が国連軍にとって良いと思うのだが。
「デタラメだ!! デタラメすぎる!!!」
独りブリッジで息巻いているのは艦長だ。
サバと戦うのには違和感を憶えない癖に空母を足場に使うのは反対らしい。
しかしいくら反対表明をしてみたところで当の弐号機は既に空中にある。
万物は地球上に存在する限り重力の束縛を受ける。
ニュートンが木から落ちるリンゴを見て発見した学説だ。
つまり、
艦長がどんなに嫌がっても、
着艦準備が整わなくても、
郵便ポストが青くなろうとも、
トウジ(しつこい様だが阪神菌保有者)がジャージを脱ごうとも、
弐号機は着艦せざるを得ないのだ。
「EVA弐号機着艦しまーす」
「ひぃぃ!」
ズガンッ!!!
空母を盛大に揺らして着艦する弐号機。
ズオオオオオオォォォォ
弐号機の着艦した衝撃で海中へと滑り落ちて行くSu−27戦闘機。
この戦闘機も市民の血税から購入しているのだからもう少し丁寧に扱って欲しい。
脱税したろか。
「来るよ! 左舷九時の方向!」
シンジが叫ぶ。
「外部電源に切り替え!」
ガシィンッ
弐号機の背面にあるコンセントにアンビリカルケーブルが接続され、一先ず稼働時間の心配はなくなる。
「切り替え終了」
アスカがフッと息を吐く。
「武器がないよ」
シンジの声はまだ緊張で強張っている。
「プログナイフで充分よ」
そう言ってアスカはニヤリとする。
ガヒュッ
肩部装甲からプログナイフを取り出して構える弐号機。
ブォォォォォォン
刃が伸びて発光するプログナイフ。
波を割って空母に向かって進む使徒。
デカい。
空母とほぼ同等のサイズだ。
これでは弐号機などほんの一飲みだろう。
「結構デカい」
シンジが唾を飲む。
「相手にとって不足なし!」
アスカが不敵に笑う。
ザバンッ!
使徒が海中から跳ねる。
その放物線が描く先には弐号機の姿。
「覇ァッ!」
気合一閃。
使徒が空母の上に立つ弐号機を狙って大きく口を開ける。
同時に大きくジャンプをする弐号機。
手にしたプログナイフが閃く。
綺麗に放物線を描いたまま再び海中に姿を消す使徒。
空中で体を捻り再度着艦する弐号機。
一瞬遅れて着水する切り離された使徒の一部。
弐号機が使徒と交差した瞬間にプログナイフで斬りつけたのだ。
「いよっし! イける!」
まだ揺れ収まらぬブリッジで快哉を上げる狩野。
「ダメよ、浅いわ」
反対に冷静な言葉を発するミサト、思わず爪を噛む。
不気味なほどシンと静まる太平洋。
先ほどの使徒の入水によって出来た波紋も既に治まっている。
「・・・・・・・・・ドコから来るんだろう?」
緊張に耐えられなくなったのか、シンジが口を開く。
「簡単よ。目標が視界から消えてしまってどこから攻撃をされるか分からない時はね・・・・・」
ザバンッ!
「死角から現われるって決まってるのよ!!」
海中から跳び上がって再度弐号機を狙う使徒。
ダッ!!
甲板上から再度跳んで使徒の攻撃を避ける弐号機。
が、
低い。
使徒の背中ギリギリの高さに跳び上がり、プログナイフを突き立てる弐号機。
「リーチの長い敵を相手にするときは懐に入るのが一番よ!」
アスカが勝ち誇る。
「でもさ・・・・・」
シンジが口を挟んだ。
「ん?」
「B型装備のままじゃ水中戦は無理だと思うけど」
「あっ」
使徒の背中にプログナイフを突き刺したまま海中へ連れ去られる弐号機。
「アスカ! 今ケーブルを巻き上げるから!! 一先ずナイフから手を離しなさい!」
スピーカーからミサトの声が聞こえる。
「くそっ! ちゃんとした武器さえあれば・・・・・」
口惜しそうに顔を歪めさせるアスカ。
「仕方ないよ、まさかこんな所で使徒が現われるなんて予想していなかったんだから」
「・・・・・・・・そうね、ありがと。落ち着いたわ。さ! じゃあ空母の上に戻れた後の戦法でも考えま――」
しょうか、とアスカが言おうとした瞬間、
ゴバァッ!
不自然なまでに体を捻った使徒に飲み込まれた。
スピーカーから流れるシンジとアスカの悲鳴。
「アスカ・・・・・・・・・・」
呆然と呟く狩野。
ミサトの顔も青ざめている。
が、それも一瞬の事。
直ぐに冷徹な作戦部長の顔に戻り、
「加持くん! 急いでハリアーにレイを乗せて本部に行って!!」
振り返りながら指示を飛ばす。
「・・・・・・ってアレ?」
加持は既に姿を消していた。
でもレイはいた。
「葛城一尉・・・・・・・・アレ」
そう言って窓から見える光景に向かって指をさす。
そこには、
空母の飛行甲板上に現われるYak−38改戦闘機。
そしてパイロット席に座る我らが加持リョウジ。
「悪い、届け物があるんでオレ先に行くわ」
「なっ!」
呆れて声もでないミサト。
「に、逃げよった・・・・・」
トウジの呟きを背に受けて空へと舞い上がるYak−38改戦闘機。
まるで酸欠の金魚の様に口をパクパクさせるミサト。
口に出したい罵詈雑言があまりに多すぎるため詰まったようだ。
黒い、いや正確に言うと色の無い空間。
どこに何があるのか分からない空間。
本当に物体が存在しているのかさえ疑わしい空間。
そこにアスカはいた。
アスカの肉体がそこにあったかは定かではない。
しかしアスカの精神は確かにそこにあった。
汝は・・・・・・・・・・誰だ・・・・・・・・・・。
空間が震える。
「え?」
汝の・・・・・・・・・名は・・・・・・・・・・。
再度空間が震える。
「ちょっと! 誰だか知らないけど人に名前を尋ねるなら先ず自分から名乗るのが礼儀ってモンでしょ!?」
アスカが虚空に向かって一喝する。
ふ、ふははははは・・・・・・・・・・面白い小娘だ・・・・・・・・・・・良かろう・・・・。
我の名を教えよう・・・・・・・・・・我は・・・・・・・・・・・・我が名は“偉大なる獣(グレータービースト)”・・・・・・・・・・・。
我が宿主の心に空隙を造りし小娘よ・・・・・・・・・汝の名は・・・・・・・・・。
「よく聞いたわ! アタシは惣流=アスカ=ラングレー!! セカンド・チルドレン、つまりEVA弐号機専属パイロット、惣流=アスカ=ラングレーよ!!」
ハハハハハハ・・・・・・・・・・威勢の良い小娘だ・・・・・・・。
“偉大なる獣”の笑い声と同調して空間が大きく震える。
小娘よ・・・・・・・・・・・・汝なら我が宿主の爪牙となれるだろう・・・・・・・・・・。
「はぁ?」
力が欲しいか?
「・・・・・・・・・・・・」
力が欲しいのなら・・・・・・。
色の無い空間に全ての色が生まれ、収束して行く。
限りなく深く純粋な闇の色。
その色を纏った獣がアスカの眼前に生まれた。
「ひっ!」
アスカが恐怖に身を震わせる。
くれてやる!!
アスカの額に“偉大なる獣”の指が触れる。
アスカの意識は途切れた。
黒い、いや正確に言うと色の無い空間。
どこに何があるのか分からない空間。
本当に物体が存在しているのかさえ疑わしい空間。
そこにシンジはいた。
シンジの肉体がそこにあったかは定かではない。
しかしシンジの精神は確かにそこにあった。
少年よ・・・・・・・・・・汝の名は?
空間が震える。
「え?」
我が宿主の心に光を照らす少年よ・・・・・・・・汝の名は?
「えーと、あの碇、碇シンジです・・・・・・・・。えーと、アナタは?」
我は・・・・・・・・・・我が名は“無貌の達人(マスター・オブ・フェイスレス)”・・・・・・・・。
少年よ・・・・・・・・汝なら我が宿主の爪牙となれるだろう・・・・・・・・・・・。
「はあ」
力が欲しいか?
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙は承諾と見なす・・・・・・・・・。
色の無い空間に全ての色が生まれ、収束して行く。
限りなく深く純粋な太陽の色。
その色を纏った女騎士がシンジの眼前に生まれた。
「・・・・・・・」
ポカンと口を開けて見つめるシンジ。
汝に力を授けよう。
シンジの額に“無貌の達人”の指が触れる。
シンジの意識は途切れた。
最初に感じた物は圧力だ。
口中から圧力を感じる。
このような感覚は彼にとって初めての物である。
今まで口の中に入れて来た物は全てすぐに無抵抗になった。
今回の獲物もその筈であったし、事実しばらくはおとなしくしていた。
それなのにこの赤いモノは彼がゆっくりと海中で咀嚼しようとしたその瞬間に抵抗を始めたのだ。
不快感。
彼は一回大きく口を開け、
再度その巨大な牙で赤いモノを噛み砕こうとした。
刹那。
オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
海中に響き渡る巨人の咆哮。
彼は―――、使徒は生まれて初めて後悔をした。
ただし、生涯2度目の後悔を味わう事はなかった。
後に、真紅の戦鬼としてその名を知らしめるEVA弐号機の本当の意味での初陣である。
ゴゥッ!!!
盛大な水柱を上げて爆発する使徒。
ダンッ!!!
一瞬後にオーバー・ザ・レインボウ上に着艦する弐号機。
その右手には鈍く輝くコアが握られていた。
キシリ
弐号機が右手に力を込める。
パキン
軽快な金属音をたててコアは割れ落ちた。
「イヤハヤ、波乱に満ちた船旅でしたよ」
ここはネルフ本部総司令室。
先刻見事オーバー・ザ・レインボウを脱出した加持がゲンドウと対面している。
「あの騒ぎの中でコレを運び出すのには骨が折れました」
「しょうがあるまい、なにせ使徒のヤツはそれを狙っているのだからな・・・・・・」
いささかおどけた調子で話す加持に対していつもの様に仏頂面で応答するゲンドウ。
「いやー、ドイツは日光の照射時間が短いから大きく育つとは思わなかったんですけどね」
「そう、日光の照射時間が短いからアダムの発育も――――なに?」
ゲンドウの顔色が変わる。
しかしそれに気付かないのか話し続ける加持。
「どうぞ、お約束のスイカです」
ゲンドウの執務用デスクの上にデンと置かれる丸々と育った大きなスイカ。
綺麗に緑と黒のストライプが入っている。
大きさとしては大人の頭以上だ。
「セカンドインパクトでドイツも日本と同じように暖かくなったのすっかり忘れていましたよ」
そう言ってサワヤカな笑みをゲンドウに向ける加持。
同じように満面の笑みで応えるゲンドウ、
大きく右拳を振りかぶっている。
殴った。
殴った。
さらに殴った。
殴りに殴った。
結局オーバー・ザ・レインボウにアタッシュケースを取りに戻った加持。
満面の笑みで加持を向かえるミサト、狩野、レイ、アスカ、シンジ。
大きく右拳を振りかぶっている5人。
殴った。
殴った。
さらに殴った。
殴りに殴った。
横須賀港まで迎えに来ていたリツコが甲板の住に打ち捨てられているボロ雑巾の事を加持だと気付くのに数時間を要した。
どーも。作者のミヤソーです。
えーと、掲載が遅れて非常に申し訳ありませんでした!!
本来なら一週間前にはアップさせる予定だったのですが・・・・・。
まあ、それを言えば本来ならCパートにもならなかったのですが・・・。
あと今回の戦闘ですが、弐号機を暴走(?)させたのは意図の内です。
決してオリジナルの倒し方が思いつかなかったわけではありません。
信じてください信用してください見捨てないでください愛してください。
さて、次回の事ですが、えーとLASを予定しております。
とは言ってもまだまだLAS初心者なんで前回のシンジとアスカのタンカーの上での状態でイッパイイッパイですけど。
それでは次回「ACT.09=A 瞬間、心、かさねて あるいは 二匹のマシンガン」でお会いしましょう!
今回のメッセージは加持リョウジ氏からです。
「タスケテ」
ゴメン、無理。って言うか自業自得。