ベベベべべべべべべべべべべべべ



 大型のヘリが太平洋上を飛んでいる。

 乗っているのはミサト、シンジ、トウジ、ケンスケ、レイ、そして狩野の6人だ。

 「それにしても・・・本当に大丈夫なんですか? ボクと綾波が2人して東京から離れちゃって」

 シンジが不安そうにミサトに尋ねる。

 「だーいじょぶだって! いざとなったらジェット機で送るから、30分もあれば余裕で本部まで行けるのよ」

 そう答えながら缶ビールを呷るミサト。

 「うおーーー! やっぱスゴイぜ! この振動! 音! シートの座り心地の悪さ!」

 ケンスケがよく分からない事に感動している。

 「ところでミサトさん。どうでっか? このキャップ! 今日の為にわざわざ大阪のイトコに頼んで送ってもらった本場物でっせ」

 そう言いながら阪神タイガースのキャップを被りなおすトウジ。

 「気をつけた方が良いぞミサト。阪神帽にさわると阪神菌が伝染るぞ

 狩野が神妙な顔で注意する。

 「阪神菌とはなんや! オッサン!!」

 トウジが噛み付く。

 「・・・・・・・・阪神菌に侵されると金で出来た監督の像を売りたくなったりするのよ。だから葛城一尉が阪神菌に侵されると司令の像を作る事になるの」

 レイが上の空で呟く。

 「うわ! トウジ、あんまり寄らないでね」

 そう言いつつさりげなくトウジから距離をおくシンジ。

 ミサトと狩野もちょっとトウジから離れた。

 そんなに金のヒゲ像を作りたくないのか。

 気持ちは分かる。

 「って言うか勝率下がりそうだよね」

 と、シンジ。

 「奥さんがハッチャけた人になったり」

 コレはケンスケ。

 「チーム全員の年俸合わせても大手球団の1人分にもならなかったり」

 と、ミサト。

 「キサンらに阪神のナニが分かるんじゃーーーっ!」

 涙目になりつつ叫ぶトウジ。

 ちなみに、この場でトウジよりも阪神よりも某N監督よりも不幸なのは関西の球団なのにイマイチ影が薄い近鉄バッファローズだったりするがコレはトップシークレットだ。


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!

ACT.08=A アスカ、来日
あるいは
そして歯車は回りだす


writen by:MIYASOH



 「フン。いい気なもんだ。オモチャのソケットを運んできおったぞ。ガキの使いが(英語)」

 元アメリカ海軍ニミッツ級8番艦“オーヴァー・ザ・レインボウ”のブリッジで船長帽をかぶった男が忌々しげに呟く。

 余談だが、“オーヴァー・ザ・レインボウ”に単数形のAをつけると“Aoba the rainbow”と聞こえて「青葉は虹だ」と訳される事になるので注意が必要だ。

 そもそも青葉ごときに虹なんて定冠詞が付くわけはないのだが。










 「ふっふっふ、あのヘリの中にサードがいるわけね。見てなさい、本ッ当のエースが誰なのか教えてあげるわ。ほぉーっほっほっほ!」

 ヘリの着陸音に負けじとブリッジの張り出しから少女の哄笑が響く。

 逆光で顔はよく分からないが、例えて言うなら赤鬼のオーラが見える。











 「うっひょぉ〜〜〜〜〜!!! 本物だ! 本物のオーヴァー・ザ・レインボウだ!!」

 大喜びでカメラを回しながらケンスケがヘリから降りてくる。

 「のわっ! ちょちょちょ、ちょっと待たんかい!」

 続いて突風で吹き飛ばされた阪神帽を追いかけるトウジ。

 そして欠伸とともに大きく伸びをするシンジ。ビール片手にすっかりご機嫌のミサト。

 「海が好きだぁーーー!!! ほら、レイも一緒に」

 狩野が太平洋に向かって叫ぶ。

 「・・・・・・・・海が好きだー」

 最後にこの親娘が降りてくる。

 「あーーーー!!! ナニすんのや! この女!」

 トウジの怒号が聞こえる。

 視線の先には赤いパンプスに踏まれている阪神帽。

 そのパンプスから伸びる白くて細い足首。

 すね。

 ひざ。

 黄色いワンピース。

 そして―――、

 「ヘロゥ、ミサト。小父さま。相変わらず元気そうね」

 赤みがかった金髪の美少女の顔があった。

 「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流=アスカ=ラングレーよ」

 ミサトがシンジ達に紹介する。

 「アスカー」

 狩野がアスカに呼びかける。

 「いつまでもそのキャップ踏んでると、阪神菌が伝染るぞ」

 「嘘ぉ! ・・・・・・・・・なんてモノ踏ませるのよ!!」



 ゲシッ



 アスカの放ったキックがトウジの顎にクリーンヒットする。

 脳を揺さぶられて昏倒するトウジ。

 「で? 噂のサードチルドレンってどれ? まさか今の・・・・・」

 ちょっと顔を青くさせるアスカ。

 ミサトと狩野は目でシンジを指す。

 2人の視線を追ってシンジに辿り付くアスカの視線。

 アスカを見返すシンジ。

 交錯する視線。

 「ふーん、まあイメージと違うけどこんなモンね」

 ムッとするシンジ。

 「・・・・・・・・あの」

 狩野の背後からレイの声が聞こえる。

 「ん?」

 声の方を向くアスカ。

 「あーーーーーーっ!! ひょ、ひょっとしてレイ!?」

 指差してレイに駆け寄ってくるアスカ。

 とてとてと近寄るレイ。

 「きゃーーー! イメージ通りよ!」

 「・・・・・・・ワタシも」

 そう言って握手をする2人。

 「知り合いなんですか?」

 シンジが狩野に尋ねる。

 「言ってなかったか? ドイツにも義娘がいるって。まあ、2人とも国内から出られないから手紙のやり取りしか出来なかったんだけどな」

 「初耳ですけど」

 「そうかー、言ってなかったかー。てっきり言ってあるもんだとばっかリ思ってたんだけどなー」

 (カワイイ子だけど結局この人の娘か・・・・・。やっぱり綾波みたいな娘なんだろうな・・・・・)

 勝手に失礼な想像をして溜息を吐くシンジ。















 「オヤオヤ、ボーイスカウトの引率の先生かと思っていたが、それはどうやらこちらのカン違いのようだな(英語)」

 ブリッジで艦長に皮肉を言われるミサトと狩野。

 「ご、ご理解頂けて幸いですわ。・・・・・・艦長(英語)」

 こめかみをピクつかせながら返事を搾り出すミサト。

 「・・・・・・・・・・・」無言の狩野。

 「まあ、私の方も久々に子守りが出来て楽しかったよ。HAHA(英語)」

 鼻で笑いながら言う艦長。

 子ども扱いされて殺意の波動を剥き出しにして威嚇するアスカ。

 フンと鼻を鳴らしてアスカを一瞥して殺気を受け流す艦長。

「この度はエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが、非常用電源ソケットの仕様書です。こちらの書類にサインを(英語)」

 「ふんっ!大体この海の上で、あの人形を動かす要請なんぞ聞いちゃおらん! 何時から国連軍は宅配屋に転職したのだ!!(英語)」

 アスカの殺気を受け流しながらミサトに一喝する。

 「某組織が結成された後だと記憶していますが(英語)」

 副長が口を挟む。

 「とにかくサインは、まだだ!! 海の上は我々の管轄だ。黙って従ってもらおう(英語)」

 不機嫌そうに吐き捨てる艦長。

 「分かりました。但し有事の際は、我々ネルフの指揮権が最優先である事をお忘れなく!(英語)」

 ミサトがやっとの思いで口を開く。

 表情筋が痙攣している。

 危険信号だ。

 シンジはこれから艦長が見舞われるであろう血の祝典を想像して身震いをする。

 ズイ、と狩野が一歩前に出る。

 (狩野さん! さすが腐ってもネルフの作戦副部長、ミサトさんを止める気だ!)

 シンジがちょっと狩野を尊敬し始めた。

 「Fuck’in Japくらい分かるよ、バカヤロー!」

 「英語分かんないなら無理して発言するなぁーーーーっ!!!!」



 バッキャァーーーーーッ



 ミサトのアッパーストレートが狩野の顎に吸い込まれて消えていった。



 ズサッ



 ブリッジの床に五体倒地する狩野。

 肩で息をするミサト。

 誰かが溜息をつく。(たぶんシンジ)





 沈黙。





 沈黙。





 沈黙。






 アメリカ大統領が核ミサイルのボタンを押すとき位の沈黙。

 「よう、相変わらず勇ましいな。そして相変わらず薄幸ですね」

 やや外したタイミングでやって来たのは無精ヒゲの似合うサワヤカナイスガイ・海外線をはしる一陣の春風・全ての御婦人方の永遠の味方、加持リョウジである。

 そう言えと台本に書いてあるのだ。ワタクシも仕事でなければこんな事言いたくはない。

 「グエッ! 加持ぃ〜〜〜〜」

 ミサトの顔が歪む。

 「加持さん! 昨日遅くまで書類書いてると思ったらそんな事書いていたんですか!?」

 アスカも呆れ顔だ。

 「出来る男は何事にも手を抜かないのさ」

 そう言って顎を撫でる。

 (なんでこの組織にはこんな人ばっかりなんだろう)

 シンジがまた溜息をつく。















 ビィーーーーーッ



 エレベーターの重量オーバーのブザーが鳴る。

 気絶から復活した狩野が乗り込もうとしたからだ。

 すでにエレベーター内にはトウジを除く全員が乗り込んでいたのだ。

 言い忘れていたがトウジはアスカの蹴りによって医務室に運ばれている。



 ビィーーーーーッ



 やはり鳴り続けるブザー。

 試しにエレベーターから降りてみる狩野。

 鳴り止むブザー。

 今度はケンスケを降ろしてみてから乗り込む狩野。



 ビィーーーーーッ



 やっぱり鳴るブザー。

 反射的にエレベーターから降りる狩野。

 やはり反射的に乗り込むケンスケ。



 プシューーー



 ガシン



 時間が来たのか、それとも誰かが閉ボタンを押したのか、狩野を置き去りにして無情にもドアは閉じてしまった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・ああーーー!! チクショー!!!」

 悪態を吐きつつ階段を駆け下りる狩野。

 薄幸だ。










 狩野とトウジがいなくても充分にすし詰め状態のエレベーター内。

 「ぬわんでアンタがココにいるのよっ!!」

 ミサトが加持に向かって怒鳴る。

 「彼女の随伴でね、ドイツから出張さ」

 加持が飄々と答える。

 「うかつだわ。充分考えられる事態だったのに」

 口惜しそうにするミサト。















 なんやかんやで士官食堂に落ち着く事が出来た7人(狩野はなんとか食堂に先回り出来た)。



 ングングング、プハー



 早速中ジョッキを空にするミサト。

 一応、今は勤務時間中である。

 でも狩野もシンジも加持も注意をしない。

 「ちょっとミサト! コレも勤務の内なんでしょ? ビールなんか飲んでて良いの?」

 アスカが釘を刺す。

 「へ? なんで?」

 きょとんとして聞き返すミサト。

 「な、なんでって・・・・・・」

 唖然として言葉を失うアスカ。

 「だって、ホラ」

 そう言って身分証明書を取り出すミサト。

 そこには『この者、ビール・発泡酒に限り、勤務時間中に飲用する事を認可す  ネルフ総司令 碇ゲンドウ』と書かれた飲酒許可証があった。

 「実験の結果、コイツはビール飲んでた方が作業能率が上がる事が分かったんだ」

 狩野が溜息を吐きつつ補足した。

 

 シンジとアスカは偶然にも同じ事を考えひっそりと溜息を吐いた。

 「ところで葛城、今つきあってる奴いるのか?」

 唐突に加持が話を振る。

 「それがあなたに関係あるわけ?」

 ムッとして答えるミサト。

 「アレ? つれないな。じゃあ、狩野先輩、コイツ今つきあってる奴いるか知ってます?」

 ちなみに狩野はミサト・リツコ・加持の大学の5年先輩にあたる。

 「お前に教えると色々と酷い目に遭いそうな気がするから黙秘します」

 賢い選択をする狩野。

 「じゃあ・・・、碇シンジ君、キミは葛城と同居してるんだって?」

 「え、ええ」

 体をビクッとさせながら答えるシンジ。

 (ど、どどどどどどどどどどどどどーしよー。ナニかミサトさんに都合の悪い事答えたら、血の万聖節が・・・・・)

 「彼女の寝相の悪さ直ってる?」

 (寝相? なぁんだ、そう言うお笑いエピソードか。良かったー)

 と、シンジは安心しているが―――、

 アスカ、ケンスケはなんか前衛的なポーズで固まっていた。

 もしこの場にシュールレアリズムを旨とする芸術家がいればデッサンを始めたかも知れない。

 (ね、寝相!? って事は加持さん、ミサトと同居・・・いえ、この場合は同棲ね、同棲してたのねぇーーー!!! つまりあ〜んな事やこぉ〜〜〜んな事してたってワケね!! キャーーーーー!!!)

 色々と妄想して顔を赤らめさせるアスカ。

 「ああ、寝相ですね。この間寝ぼけて台所でペンペンに卍固めかけてましたよ

 「・・・・・・・・・前にウチで“チキチキ・ゲンドウ杯争奪麻雀大会”やった時は寝ぼけて冬月副司令にナックルアローしていたわ」

 次々と暴かれていくミサトの夜の生活。

 「し、知らなかった・・・・・・・・・」

 スンゲェ落ち込むミサト。

 「ところで、何でボクの名前知ってるんですか?」

 加持に尋ね返すシンジ。

 「そりゃあ、知ってるさ。この世界じゃ有名だからね。訓練もなしに搭乗して使徒を殲滅したサード・チルドレン碇シンジの名前はね」

 そう言って片目を瞑る加持。

 対照的に目に剣呑な光を灯らせるアスカ。

 「は、はあ・・・・・・・」

 「もうちょっと自信を持って良いんだぜ、それじゃあ、また後で」

 そう言って加持はアスカを連れて食堂から出て行った。















 「どうだ? 碇シンジ君は?」

 艦外のデッキでアスカに尋ねる加持。

 「そうね、パッと見はつまんない子だけど・・・・・、良い目してたわ。たぶん・・・・・アタシと同じね」

 そう言って口元をにんまりとさせるアスカ。

 「どっちがエースとして相応しいか争うには持ってこいの相手ね」

 「じゃあ、綾波レイちゃんだっけ? あの子は?」

 「ん〜〜〜、そうね。マイペースでボォーっとしてて、小父さまとそっくりだわ」

 「アスカだってあの人の義娘だろう?」

 「一応そうだけど・・・・・。似てるとこある?」

 「たっぷりあるさ、気付いてないのかい?」

 そう言って肩をすくめる加持。















 「どうだレイ、アスカと初めて会って見て」

 エスカレーターに乗りながら狩野がレイに尋ねた。

 「・・・・・・・・・・そうね、まだよく分からないけど、お父さんとよく似ているわ」

 「そうか・・・・・」

 「で、結局あの子も狩野さんの義娘なんですよね?」

 「ああ、アスカはドイツに住んでいたから1ヶ月のうちに10日ぐらいしか会えなかったけれどな」

 (いいなぁ・・・・・)

 幼い頃ゲンドウから引き離され、年に数回も会う機会のなかったシンジにはそれでも充分羨ましかった。

 「まあ、オレはその頃無職だったからな。生活費なんか全部六分儀先輩に面倒見てもらってるようなモンだったし、それでその後さすがに何時までも頼りっぱなしじゃ悪いからネルフの営業部に入ってリーマンやってたんだ」

 「え? でも作戦副部長になったのは・・・・」

 「ミサトが招聘されてから、だから・・・・・・まだ半年くらいだな」

 などと5人が昔話をしていると、

 「サードチルドレン! そしてレイ! ちょっと付き合って!」

 エスカレーターの頂上にアスカが立っていた。















 「コッチよ」

 そう言って白い大きな幕の一端を持ち上げるアスカ。

 ココはオーヴァー・ザ・レインボウと併走するタンカー船である。

 しかし運んでいるのは原油ではなくLCL。

 そしてそこに浮かべられているEVA弐号機である。

 「ふふん、初号機と零号機は開発過程のテストタイプとプロトタイプ、でもアタシの弐号機は違うわ。プロダクションタイプなのよ!!」

 と、弐号機を指差して宣言した。

 「弐号機って赤いんだ・・・・・」

 「・・・・・・・・・目が4つあるわ」

 あんまり興味のなさそうな2人。

 と、その時、



 ズオォォォォォォン



 タンカーが大きく揺れる。

 「水中衝撃波!?」

 そう言ってダッと駆け出すアスカ。

 連られて駆け出すシンジ。

 連られないし駆け出しもしないレイ。

 「アンタも一緒に来るのよ!! 団体行動を乱すな!!!」

 レイを叱咤して手を牽くアスカ。










 タンカーの甲板である。

 爆炎を上げながら沈没する護衛用の駆逐艦が見える。

 「使徒かなぁ?」

 シンジが呟く。



 ピクリ



 アスカの耳が動く。

 「チャ〜〜〜ンス」

 そしてニンマリと笑った。





 どーも、作者のミヤソーです。

 ちょっと間を空けてしまいましたね。スイマセン。

 さて、今回からいよいよアスカの登場です。

 一応LAS目指しているのですがどーなんでしょ?

 実はまだアスカのキャラ固まってなかったりします。

 さらにガギエルの倒し方も決めてないし。

 あーーーーー、どうしよう。



 そうそう、ナレーター5号の正体、まだ募集中ですので。

 早めにメール下さいね。

 それでは!





 今回のメッセージは伊吹マヤ女史からです。

 「ひょっとして次回3人で弐号機に乗るんですか!? 不潔!!」

 正確に言うとナレーター含めて4人です。



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