第3新東京市コンフォート17マンション

 葛城家の朝は早い。

 いや、正確に言うとシンジの朝は早い。

 毎朝6時には起床して、昨日の夕飯の後片付け、自分と自分の保護者たる家主の朝食の用意、昼食用の弁当の用意、さらにはもし体操服が綻んでいたらチョイチョイと針仕事もしなければならない。

 真に持って健気だ。

 それと言うのも―――





 「うがー!うが!うががががが!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ポッポー!!!





 この珍妙な寝息を立てる保護者のお陰である。


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!

ACT.07=A 人の造りしもの
あるいは
赤木博士がヤケに生き生きしてた日


writen by:MIYASOH



 「ふわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・ぁったくコンチクショー!」

 清々しい朝だと言うのに大欠伸をしている。

 あえて名前は伏せるがK・M作戦部長(29)独身である。



 ガヒュッ



 ワタクシ(ナレーター)の鼻先を拳が通り過ぎて行く。

 「チッ!・・・・・・・・・腕を上げたわね1号」

 ミサトが口惜しそうに舌打ちをする。

 「ミサトさーん、トースト冷めちゃいますよー」

 ダイニングの方からシンジの声が聞こえる。

 「あー、今行くわよー」

 シンジに向かってそう言うと、振り返ってワタクシを見やり、

 「・・・・・・寿命が延びたわね」

 避けなきゃ良かった。










 モソモソとミサトがトーストを食う。

 スクランブルエッグも食う。

 サラダも食う。

 そしてビール。

 更にビール。

 もう一丁ビール。

 ワンス・モア・ビール。

 ワンス・アゲイン・ビール。

 「っくあーー!!!やっぱ1日の始まりはこれよねー!!」

 オッサンみたいな事・・・・・いや、同類に扱われたらオッサンに悪く思われるような事を言うミサト。

 ちなみにシンジは何も言わない。

 慣れてしまったのだ。

 まだ若いのに。

 「そう言えばミサトさん、本当に今日学校に来るんですか?」

 洗い物をしながらシンジが尋ねる。

 実は今日進路相談があるのだ。

 「あったり前でしょ。進路相談なんだから・・・・・・ゲフ」

 ゲップをしながら答えるミサト。

 「でも仕事で忙しいのに・・・」

 「良いの良いの、どーせ困るのは日向くんだけなんだから」

 「え? ああ、狩野さんも来るんですね」

 「そー言う事!」

 結局、この日2人分の仕事を押し付けられた日向は家に帰れなかった。



 ピンポーン



 ドアベルの鳴る音がする。

 「センセー、ガッコ行くでぇー」

 「ちょっと待っててー」

 そう言ってカバンを背負い登校の支度をするシンジ。

 「あ、ミサトさん。そんな格好で出ないで下さいよ、恥ずかしいから」

 シンジの皮肉に少し口元を綻ばせるミサト。

 「やっぱりねー、健全な男子中学生にはこの私の悪魔のようなバディは目の毒よねー。本当に神さまはなんで私をこんなに美しく作ったのかしら。ああ、思い出すわ、大学時代の学祭のミスコン・・・・・・・・何千人もの飢えた男のギラヌラとした視線が突き刺さって・・・・・・・・ってアラ?」

 1人で身を捩じらせていたミサトが我に返った。





 そう、

 1人だ。





 シンジはとうに出発していたのだ。

 「・・・・・・・・・・・・・・あ! ペンぺーン! それでね、もうモチそのミスコンで優勝しちゃってね。凄かったのよリツコの口惜しがりかたったら・・・・・・・」

 ペンペンは迂闊に玄関まで出て来た自分の愚かしさを呪った。

 「クワックワッ。クワー! クワッ」

 (日本語訳:あの時くらい自分がペンギンである事を悔いた事はねぇな。なにせ飛んで逃げられねぇんだからな。・・・・・・・もし来世ってモンがあるならハエでも良いから飛べる体になりてぇよ。羽根さえありゃぁ、あのアル中デカ乳女に捕まる事もねぇだろうしな)

 後に彼は親しい友人にこう語ったそうだ。















 放課後―――、

 問答無用で放課後である。

 情け容赦なく放課後である。

 嫌と言われても困るのだ。もう既に時は過ぎ去ったのだ。

 過去は永劫の闇の中に飲み込まれたのだ。そう、この瞬間にも。

 だからこそ生命は走るのだ。

 そして走るのを止めた時から朽ち始めるのだ。

 戻してくれと言われても神ならぬ人の身ではどうにもならない。

 どうにもならない。

 それが人の世の運命なのだ。

 そんなわけで放課後である。



 ブオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!



 遠くから大排気量の車特有の爆音が聞こえる。





 我々はこの音を知っている!





 やがて校庭のフェンスに青く疾走する影が現われる。





 やはり我々はこの影を知っている!





 時同じくして。



 フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン 



 青い影の反対側から小型車特有の甲高いモーター音が聞こえる。





 シンジはこの音を知っている!





 そしてシンジの体もこの音を聞いた直後の、あの理不尽な爆発を覚えている!





 やがてやはり校庭の反対側のフェンスから赤く走る車の姿が見える。





 青いルノーと赤いミニクーパーがほぼ同時に校門をくぐる。

 スピードを出していなかっただけミニクーパーのほうが回転半径が小さかったので同時に到着する事が出来たのだ。

 やはり同時に校庭の隅の父兄用駐車スペースに辿り付く。



 バタン



 同時に車のドアを開け、同時に閉める。

 青いルノーから出てきたのは黄色いジャケットを羽織って青いタイトスカート姿のミサト、

 赤いミニクーパーから出ていたのは普段通り白のワイシャツに黒いスラックス、そして猫の柄のネクタイを締めた狩野である。



 オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!



 各教室からの大歓声が2人を歓迎する。

 その様子を満足そうに見てVサインを送るミサト。

 大きく右手を振り上げて歓声に応える狩野。



 オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!



 その様子にまた歓声を上げる生徒達。

 「やっぱ、ミサトさんええわー」

 トウジが感嘆の声を上げる。

 「あれでネルフの作戦部長っていうのがスゴイよなー」

 ケンスケも賛同する。

 (恥ずかしいなぁ)

 こっそりとシンジが溜息をついた。

 「・・・・・・・・・まだよ」

 突然レイが立ち上がって宣言する。

 「まだあの2人の真の決着はついてないわ」

 「は?」

 シンジが呆然と聞き返す。

 「・・・・・・・・たぶん、2人の性格からしてどちらが先に教室に到着するか勝負するはずよ」

 「え? でも・・・・・・」

 シンジが何か言いかけた瞬間―――、

 「てめぇミサト! なんでハイヒールで全力疾走出来るんだよぉ!」

 「ヘッへーん。鍛え方が違うのよ、き・た・え・か・た・が!」

 どこかで聞いた声が廊下を走ってくる。

 最初は高く聞こえていたのだが段々と近付くにつれ低く、つまり本来の音程に近くなるのでより明瞭に聞こえてくる。

 コレがドップラー効果である。

 2つの言い争う声が普段と同じ音程で聞こえた瞬間。



 ガラッ!



 弾ける様に開け放たれる教室のドア!

 そして―――、



 ギュム



 詰まった。

 狩野とミサトが同時に無理矢理入ろうとしてドアに詰まったのである。



 ジタバタジタバタ



 2人してもがいている。

 しかしキッチリと填っているためなかなか脱出出来ない。

 「ミサト! お前最近太っただろ!」

 「失礼ね! 私はシッカリ自己管理してるわよ! そっちこそ中年太りが始まったんじゃないの!?」



 ジタバタジタバタ



 やっぱり脱出出来ない。

 「「どっちが先!?」」

 脱出する事は一先ず諦めて声をハモらせてレイに尋ねる2人。

 「・・・・・・・・・・・同着に見えるわ。相田くん、写真判定の用意を」

 振り返ってケンスケに話を振るレイ。

 「・・・・・・・撮ってないよ」

 「使えないわね」

 酷い事を言うレイ。

 「・・・・・・・・・陸上競技の場合、先に胸が着いた方が1位になるらしいわ。お父さんも葛城一尉も思いっきり胸を張って」

 レイにそう言われてグイと胸を張る2人。

 レイは黙って2人を計測し始める。

 様々な角度から眺めたり、定規を当ててみたり、ちょっと離れて見てみたりしている。

 そして熟考。





 沈黙。

 教室中がシンと静まりかえる。





 やがて、意を決したかのように大きく右手を上げる。

 「・・・・・・・・・・・判定の結果、乳差で葛城一尉!」



 オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!



 再々度沸き上がる2−Aの生徒。

 「くそ!こんな事ならシリコン入れとけば良かった!!」

 それは思い止まれ。

 「あの・・・・・余計な事かもしれないんだけど・・・」

 シンジが言いにくそうに2人(ちなみにまだ詰まってる)に話し掛ける。

 「あの・・・進路相談ってさ、進路相談室でやるものなんです・・・。それで隣の教室が父兄用の待合室になってて・・・・」

 確かに教室に他の父兄の姿はない。

 「ならば!」

 「待合室に先に到着した方が真の勝者ってわけね!」

 顔を付け合せて火花を散らす2人。



 ジタバタジタバタ



 やっぱり抜けない。
















 結局、シンジとレイの進路相談は30分ほど遅れた。





 ってなわけでドーモ、ミヤソーです。

 今回は短くするつもりだったんですけどチョイ長くなりそうですね。

 次回でいよいよ時田シロウ&JAが登場します。

 リツコとのマッド対決楽しみにしてて下さいね。



 えーと、遂に「ナレーター4号の正体希望者」来ませんでした。

 ちょっぴし枕が濡れましたけど負けません。

 あ!ナレーター5号(弐号機エントリープラグ内実況担当)はまだ締め切っていませんので!

 それでは!



 今回のメッセージはキール議長からです。

 「執筆が遅れているようだな(ギヌロ)」

 申し訳ありません!



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