「ふぁわああああああああああ」

 朝っぱらからシンジが大きく欠伸をする。

 授業前の平和な一時だ。

 「どうしたシンジ、寝不足か?」ケンスケが問う。

 「いやさー、昨日また酷い目に会っちゃって・・・・・・」

 シンジがケンスケに昨夜の惨事を説明しようとしたが、

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 クラス中の生徒、いや学校中の生徒による歓声によって遮られた。















 シャアアアァァァァァァァァァァ



 レイは焦っていた。

 彼女の前には揺れる長い黒髪。

 この2年間、この黒髪を見ずに校門をくぐれた事は1度もなかった。

 零号機起動実験の傷も癒え、3週間ぶりにペダルを漕ぐがやはり自分の前には黒髪があった。

 (・・・・・・・・・まだ、勝てないのね)

 フッと息をつく。

 (・・・・・・・・・でも、諦めないわ)

 レイは再びペダルに力を込めた。















 「くうううううううう!!惜しい!!」ケンスケが叫ぶ。

 レイの自転車の前輪は、ほぼ長い黒髪の女生徒の自転車の後輪にピタリとくっついていた。

 体一つ分のリードしかされなかったわけだ。

「「セイカ!」」「「綾波!」」「「セイカ!」」「「綾波!」」「「セイカ!」」「「綾波!」」「「セイカ!」」「「綾波!」」

 学校中の生徒から送られるエール。

 レイとセイカと呼ばれた黒髪の女生徒はガッチリと握手をし、駐輪場からげた箱へと歩いていった。

 「な、なんなの?」シンジは動揺していた。

 「ああ、シンジは転校してきたばかりだから知らないか。ほら、綾波が住んでいる方にさスゲェ急な上り坂があるだろ?で、綾波は毎日その道を通学路にしているから『もしあの坂を使った自転車レースを行なえばワタシが二中最速の女生徒よ』って1年の時に言ったんだよ。そしたら当時女子で最速と呼ばれたある2年生が挑戦状を叩きつけて来たんだ。それ以来毎朝その女生徒は綾波の家の近くまで行って最速の称号を賭けてレースをしているんだ」ケンスケが説明をしてくれた。

 「へぇー、そんなに早いの?」

 「早いってモンじゃないぞ。同じルートの高校生男子の平均タイムが10分36秒で、あの2人の平均タイムは9分17秒だからな。で、傑作なのがあの長い髪の方ってのが・・・・・・」

 「ワッシの姉ちゃんじゃ」何時の間にかケンスケの後ろに立っていたトウジが後を続けた。


私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!

ACT.05=B
Rei T
or
I'm suprised at mysterious girl's strangely life.


writen by:MIYASOH



 綾波レイ、14歳。

 マルドゥック機関によって選ばれた最初の適格者、ファーストチルドレン。

 4歳以前の経歴は抹消済み。

 以降の保護監督者は狩野テンシュウ。

 そんな事をシンジは考えていた。

 授業なんて聞いてる余裕はなかった。

 (・・・・・・・で、自転車のヒルクライムなら近所の高校生にも負けなくって、唯一勝てないのがトウジの姉さん?わけがわかんないよ)

 授業が始まる前にセキュリティカードを渡そうと思っていたのだが、レイは新聞部に囲まれていてそれどころじゃなかった。

 きっと明日の学校新聞には『綾波レイ完全復活!』の字が紙面に躍るだろう。

 (放課後にでも渡せばいいかな?)

 そう思ってチラリとレイを見るシンジ。

 レイは――――、

 プラモデルを作っていた。

 正確に言うとジオラマを作っていた。

 『ジャ○ローに散る!』の1シーンの再現だ。

 シンジは見なかった事にした。















 3、4時間目は体育である。

 男子は1500m走、女子は水泳である。

 こんな授業プログラムを許可した校長の私生活がスゴク知りたい。

 ともあれ、男子は1500m走である。

 シンジは1回目の計測を終え、木陰に座っていた。

 ボーっとレイを見ていた。

 レイはプールサイドで考え事をしているようだ。

 蒼銀色の髪から水滴が滴り、レイのスレンダーな肢体を伝う。

 一瞬で消える陽炎のような儚げな美しさだ。

 「どうしたんや、センセ。さっきから綾波ばっか見おって」

 「そうかー、シンジもついに『すくぅるみずぎ』の素晴らしさに気付いたんだな」

 「ち、違うよ!ボクはただ・・・・・」

 「綾波の乳、綾波の尻、綾波の太もも、そして、ふ、ふくらはぎ」

 トウジはふくらはぎフェチだった。

 「チッチッチ、分かってないな、トウジ。シンジはパーツよりもシチュエーションに燃えるタイプなんだよ。ブルマー姿の綾波、バニーガール姿の綾波、看護婦姿の綾波、ちょっとマニアックに女自衛官の綾波」

 「いや!ココは是非裸エプロンも付け加えるべきだ!」1人の男子生徒が加わってきた。

 「ぼ、ぼくは巫女さんがいいんだな」

 「白衣の下が全裸というのもなかなか」

 「裸にポロシャツでサンドウェッジでシバいて欲しい」

「「それには同意できん」」

 「婦警さんに手錠をかけられたい」

 「喪服姿に欲情するなぁ」

 「『人妻真昼の情事、クリーニング屋さんダメよ!』っていうのも」

 「やはり王道は『奥さん!米屋です!!』だろ」

 「郵便配達夫は2度ベルを鳴らす」

「「それは違う」」










 結局議論は昼休みまで続いた。

 「えー、それでは投票結果の発表を行ないます」ケンスケが校庭の演台の上で司会をしてる。

 「我々2−A男子が一番『萌える』シチュエーションは・・・・・・」



 ゴクリ



 唾を呑む音。

 「『裸に彼氏のワイシャツだけ着て「やっぱり大きいね」って言う瞬間』に決まりました!!」

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」

 校庭中に轟く割れんばかりの歓声。

 足を踏み鳴らしお互いに抱きついたりして歓喜の表現をしている。

 この瞬間、少年たちの心は一つになった。















 放課後、結局カードを渡すタイミングを掴めなかったシンジは1人でレイの家へ向かっていた。

 トウジもケンスケも誘ったのだが用事があるとかで同行出来ないのだ。

 (1人で女の子の家に行くなんて緊張しちゃうな・・・・・・・・・。何話せば良いんだろう。・・・・・・・・・ひょ、ひょっとしたら「今日お父さんいないから1人なの・・・・・」とか「・・・・・・・シャワー浴びてくるわね」って展開になっちゃったりして!)

 またシンジの悪い病気が始まった。

 (・・・・・・・・でもなあ、あの綾波じゃなあ・・・・・・そんな展開になるわけないか)

 やや前かがみだった体勢が直ったかと思ったら今度は猫背になって溜息をつく。

 忙しいやつだ。





 ピンポーン



 ドアベルを鳴らす。

 応対はない。

 (郵便受けにカードだけ入れて先にネルフ行こうかな・・・・・)

 シンジがそう思った瞬間―――、



 ガチャリ



 「・・・・・・・・だれ?」制服のまま豪快に寝癖をつけたレイが立っていた。

 「寝てたの?」

 コクリとうなずくレイ。

 「新しいカード渡しに来たんだけど・・・・・」

 「それはそれはどうもごていねいに」

 寝起きのせいか漢字で喋れないレイ。

 「どうぞおくでおちゃでも」










 しゅんしゅんしゅんしゅん



 台所の方でやかんの噴く音が聞こえる。

 レイがお茶の準備をしてくれているのだ。

 寝ぼけている彼女に火を扱わせるのは怖かったが、どうしてもと言うので黙って席についている。

 「・・・・・・・・こうひいでよかったかしら」まだ足元が危ないレイ。

 お盆に3人分のコーヒー(もちろんワタクシの分を含めてである)を乗せて台所からやってくる。

 「あ、ありがとう」

 「ありがとう。かんしゃのことばね。かんしゃのことばをいわれたらどういたしましてというのね。どういたしまして」




 ズズッ



 間がもたないのでコーヒーを飲むシンジ。



 ブホッ



 突然むせるシンジ。

 「な、なんなのこれ!?」

 「だからこうひいよ」

 「でもコーヒーの味じゃないよ!」

 「はつおんがちがうわね」

 フリップを出してなにやら書くレイ。

 「ちなみにかんじでかくとこうなるわ」

 レイの持つフリップには『紅ヒー』と書いてあった。

 「こおひいのなかにてぃいばっぐをいれてつくるの」

 (グッバイ、ボクの幻想)















 「ねえ、綾波はEVAに乗るの怖くないの?」

 ネルフ本部のロングエスカレーターでシンジが尋ねた。

 幸いレイの寝ボケも本部に来るまでに収まっていた。

 レイの意識がハッキリとして行くのに従って自然に寝癖も収まっていくのは見物であった。

 ただ、途中のリニアの中ではまだ寝ぼけていたのでかなりの珍道中だった。

 閑話休題。

 「・・・・・・・・・怖いわ」

 「じゃあどうして・・・・・」

 「・・・・・・・・・守りたいから」振り返りもせずそう告げる。

 「・・・・・・・・・・・・」シンジの表情も見えない。















 無言でプラグスーツに着替えるレイ。



 プシッ



 手首にあるスイッチを操作して体にフィットさせる。

 (・・・・・・・・・大丈夫。みんながついてるから)

 かすかに微笑むと更衣室から出てケージに向かうべく歩み始める。










 ケージに続く通路に狩野が立っていた。

 真っ直ぐレイが歩いてくる。

 交差する2人。

 「がんばれよ」

 そう言って手を打ち交わす。

 「・・・・・・・・・大丈夫よ」

 またレイは歩き始める。










 第2実験場。

 シンジを含めたほぼ全員がレイを見守っていた。

 「零号機再起動実験、始めます。よろしいですね、司令」

 リツコがゲンドウに告げる。

 「構わ――――」

 ゲンドウが、構わんと言おうとした瞬間、



 フィーッフィーッフィーッ



 「碇!未確認飛行物体―――おそらく第5の使徒が接近中だ」

 冬月が受話器を叩きつけて言う。

 「――――、テスト中断!総員第一種警戒体制につけ」

 「零号機は使わないのか?」

 「まだ戦闘には耐えられんだろう。赤木博士!」

 「380秒で準備出来ます」

 「よし、出撃だ」

 ゆっくりとシンジの方を向くゲンドウ。

 「・・・・・・・・・・・・頼むぞ」

 「はい・・・・・」シンジは堅い顔で了承した。










 (・・・・・・・・・綾波はみんなを守る為にEVAに乗ると言っていた・・・・・。ボクは、・・・・・・・・ボクはなんの為に乗ってるんだろう・・・・・・・・・・・?)

 「目標は芦ノ湖上空に侵入、EVA初号機発信準備完了!」

 エントリープラグ内にオペレーターの声が響く。

 「EVA初号機発進!!」ミサトの声が一際大きく響く。





 地上へと続く通路を高速で上昇する初号機。





 「目標内部に高エネルギー反応!」モニターを凝視していた青葉が叫ぶ。

 「なにぃ!」狩野が青葉の方を向く。

 「周円部を加速!収束していきます!!」

 「―――まさか!加粒子砲!?」

 ミサトの声が発令所に響き―――、





 グオン!



 初号機が地上に辿り着く。





 「シンジ君!よけて!!」

 ミサトの声が響く。

 シンジが使徒を見る。





 光。





 融け崩れる兵装ビル。





 痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。痛み。熱。





 痛み。





 「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 「戻して!早く!!」ミサトの怒号が響く。

 「射線上にある兵装ビルを上げろ!!盾にするんだ!!」狩野も怒鳴る。





 ガゴン





 ズズズズズズズズズズズ



 初号機と入れ違いになる兵装ビル。

 コンマ数秒だが加粒子砲が遮られ、また初号機を襲う。





 「目標沈黙!」

 「シンジ君は!?」

 「脳波異常!心音微弱!!」

 「初号機は第7ケージへ回収!!」

 「救護班!続け!!」





 どーも、作者のミヤソーです。

 あまり登場する機会は少ないと思いますが、トウジの姉『鈴原セイカ』登場です。
 原作にはいないキャラですね。
 さらに弟も登場するかも知れません。
 あ!妹の名前『ミナミ』にしました。
 まあ、出番があるかどうかは分かりませんがね。

 引き続きナレーター4号の正体希望のメール待ってます。
 〆切りはチョット伸びて2001・9月初旬です。
 待ってますよぉー――!

 それではまた次回お会いしましょう。

 今回のメッセージは相田ケンスケ君からです。
 「JA見に行きてぇーーーー!!」

 無理。



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