第3新東京市営ニコニコ団地403号室
狩野家の朝は早い。
いや、正確に言うと狩野の朝は早い。
仕事のある日は6時半頃に目を覚ます。
そして朝食の用意と自分と愛娘の弁当の用意をするのだ。
それからゴミ出しのついでに近所の公園に行き野良猫たちに餌を出す。
7時半になるとレイを起こし、8時にはネルフへと出社する。
そのようにして狩野の一日は始まるのだ。
「レイ、そろそろ起きなさい。遅刻するぞ」
ドアを開けずに呼びかける。
返事はない。
正確に言うと返事がある事すら期待していない。
ガチャリ
ドアを開けて部屋に入る。
幸せそうな無表情で眠るレイ。
矛盾している表現だが事実なのだからしょうがない。
ピタピタと頬を叩いてレイを起こそうとする狩野。
相変わらず眠り続けるレイ。
「レイ起きなさい!」
無反応。
「レイ!!」
無反応。
「いい加減に起きないとお弁当オレが2つとも食っちまうぞ!!」
ガバリ
「・・・・・・・・・それは困るわ」
「ならさっさとシャワーを浴びて歯を磨いてこい」
「・・・・・・・・・それはそれとして、おやすみなさい」
パタリ
再び甘美な夢の世界に突入を試みるレイ。
「レイ!!いいからさっさと起きやがれ!!」
そう言ってタオルケットを剥ぎ取る狩野。
しぶしぶ起き出して浴室に向かうレイ。
ふらふらと危なっかしい足取りだ。
カツン
「おふうっ!!」
ゴツリ
「はうっ!!」
・・・・・・・・・・・最初にドアの角に足の小指をぶつけ、痛みでよろけた拍子に壁と頭が熱い抱擁を交わしたようだ。
「・・・・・・・・・罠ね」
じっと狩野を睨むレイ。
(育て方間違えたかも知れん)遠い目をする狩野。
気がつくのが遅い。
私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!
ACT.05=A
レイ、心の向こうに
あるいは
戦慄!不思議少女の奇妙な実態
writen by:MIYASOH
ネルフ本部・第2実験場
22日前
「・・・・・・・・・起動開始」
ゲンドウが静かに、しかしはっきりと宣言をする。
特徴的なあの赤いサングラスではなく普通のメガネをかけている。
そのお陰かまだ文化的に見える。少なくとも山賊の親分には見えない・・・・・・・・と言えと命令されている。
雇われの身は辛い。
零号機は肩に厳重な拘束具を付けられて佇んでいた。
プロトタイプを表すオレンジ色に身を染めた一つ目の巨人だ。
フオン
零号機のセンサーアイに光が灯る。
「電源接続完了。起動システム作動開始」
「起動電圧、臨界点まで0.5,0.2―――」
ガグン
「―――突破」
「起動システム第2段階に移行」
「パイロット接合に入ります」
「シナプス挿入、結合開始」
「パルス送信」
「全回路正常」
「初期コンタクト異常なし」
(大丈夫だ、上手く行く)
その場にいる全員がそう思った。
狩野がフッと息を吐く。
「パルス逆流!」
「第3ステージに異常発生!!」
モニターにレッドアラートが点滅する。
――――――――――――――――――!!
声にならない雄叫びを上げてもがく零号機。
「コンタクト停止。6番までの回線を開いて」リツコが冷静に、しかし的確な指示を飛ばす。
「信号が届きません!!」マヤが叫ぶ。
バキン、ガキン
零号機が自力で拘束具を引きちぎる。
――――――――――――――――――!!
またも声のない叫びをあげる零号機。
頭部を抱え、苦悶するオレンジ色の巨人。
「零号機、制御不能!」
「実験中止、零号機の電源を落とせ」
ゲンドウが指示を出す。
バシュッ
パージされるアンビリカルケーブル。
「完全停止まで後35秒」
ガギン
ガギン
ガギン
零号機がコントロールルームの窓を殴りつける。
動こうとしないゲンドウの前に狩野が立つ。
「あの子を殺人犯にしたくない。先輩は下がってください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言のままやはり動こうとしないゲンドウ。
バリン
割れたガラスが狩野の額を掠める。
ツーと一筋、血が流れる。
バゴン
零号機の背面パーツが弾け跳ぶ。
「オートエジェクション、作動します!」マヤが叫ぶ。
ガシュッ
「何やってんだバカ!!」
「そ、そんな・・・・」狩野に怒鳴られたマヤが泣きそうになる。
ガゴッ!ガギガギガギガギガギガギガギガギガギガギガギガギ
天井に激突し火花を上げながら進むエントリープラグ。
ゴガッ!
床に墜落するエントリープラグ。
「「レイッ!!」」
狩野とゲンドウの声がかぶる。
「ワイヤーケージ!特殊ベークライト急いで!!」
リツコが叫ぶ。
ヴシュッーーーー
壁からベークライトが噴射される。
硬化し零号機動きを止める。
狩野は走った。
レイを、娘を助ける為に走った。
ゲンドウは走った。
表情は見えない。だが、走った。
エントリープラグの開閉ハッチを開ける為、ハンドルを握る狩野。
ジュウウウウウウウ
皮の手袋が焦げる。
「熱!くそおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
皮が、肉が焦げる嫌な臭いが充満する。
「救命班、こっちだ!!急げ!!」
ゲンドウが救命班を連れて走ってくる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ムリヤリハンドルを回す狩野。
バコン
開閉ハッチが開く。
荒い息を吐きながらエントリープラグを覗き込む狩野。
「レイ・・・・・・・・大丈夫か」
「・・・・・・・・・お父さん・・・・・・」
「そうか・・・・・・・・ゴメンな」
意識を失ったレイを支えるように抱いて呟く狩野。
数日後、第2実験場では特殊ベークライトによって凍結中の零号機の発掘作業が薄闇の中行われていた。
「どういうこと?」ミサトがリツコに尋ねる。
「今のところ不確定だけど・・・・・・・操縦者の精神的不安定が原因と考えられるわ」
「あの子が?精神的不安定!?」
「アナタはまだ会ってから短いから分からないと思うけど、あの子は無表情なだけで感情がないわけではないわ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人間なんだから」
暗い照明でリツコの顔は見えない。
「なにかあったのかしら?」
「分からないわ・・・・・・でも、もしかしたら・・・・・」リツコは思考の世界に入っていった。
「心当たりあるの?」
「いえ、・・・・・考えすぎね」
頭を振って自分の考えを振り払おうとするリツコ。
「綾波レイ14歳、マルドゥックの報告書によって選ばれた最初の被験者、ファーストチルドレン。エヴァンゲリオン試作零号機、専属操縦者。過去の経歴は・・・・・5歳以前に関しては全て抹消済み。以後の保護監督者は狩野テンシュウ」
話は現在に戻る。
シンジが掃除中に現実逃避をした日の翌日だ。
学校から帰ってきてミサトと共に先日倒した使徒の見学に来たのだ。
安全の為ヘルメットを被らされている2人。
余談だが、現場監督はヘルメットの事を『ヘルメットン』と発音した。
どのような行程があって彼がヘルメットンと発音するようになったかは不明だ。
それはさておき、使徒は相変わらず死んでいた。
これ以上ないくらい死んでいた。
嫌って程死んでいた。
死にも死んだり、死なせも死なせたり、そんな言葉がよく似合う死にっぷりだ。
「病院の時と同じネタだね」
うるさい。
「・・・・・それにしても、これがボク達の敵なのか・・・・・・」
使徒の死体を見上げて呟くシンジ。
「なるほどね。コア以外は殆ど原型を保っているわ。ホント理想的なサンプル。ありがたいわ」
リツコがシンジ達の頭上のキャットウォークから礼を言う。
「でぇ、なにかわかったわけ?」
ミサトが面倒臭げに声をかける。
無理もない。
彼女は非戦闘時の頭脳労働は苦手なのだ。
決して頭が悪いわけではない。
滅多な事を言わないでくれ、また顎を砕かれる。
601
作業場の解析用モニターにこの数字が映し出された。
決して来週のメインレースの予想とかではないのでメモを取らなくても結構。
「何、コレ?」ミサトが怪訝そうに尋ねる。
「解析不能を示すコードナンバー。使徒は粒子と波、両方の性質を備える光のようなモノで構成されているのよ」
「はあ」眼が点になっているミサト。
勘違いされては困る。彼女は決して頭が悪いわけではない。専門分野が違うだけだ。
だから『彼女の専門は脳味噌を筋肉にしないと修められない』とか『乳で考えた方が成績良いんじゃない』とか言わないでくれ。
ワタクシだって命は惜しいのだ。
「動力源らしきモノはあるんだけど作動原理が不明なのよね」
そう言ってモニターを見せるリツコ。
「コレってひょっとして・・・・・」驚愕の表情のミサト。
「そう。構成素材の違いはあるけど人間の遺伝子と99.89%酷似してるわ」
「それって・・・・・・」
シンジは退屈していた。
ミサトとリツコはなにやらムツカシイ話で盛り上がってるが一介の中学生であるシンジには1ミリも理解出来ないからだ。
しょうがなく辺りをボーっと眺めるシンジ。
「ダメよ!!そんなのロックじゃないわ!!」
リツコがなにやら叫んでいる。
カッカッカッカ
別に某ちりめん問屋のご隠居が笑ってるわけではない。
ゲンドウが冬月と狩野を連れて視察に来たのだ。
慌てて身を隠すシンジ。
(・・・・・・・・・なんでボクは隠れているんだ?)
自らに問うシンジ。
(それにしても・・・・・・・・・覗き見してるみたいで妙に興奮するナァ)
チョット人の道を踏み外し始めたシンジ。
呼吸が荒くなっている。
「―――――これがコアかね?」冬月が付き添いの技術部の職員に尋ねる。
「ええ、コア部分は劣化が激しいので上質のサンプルとは言えないのですが・・・・・」
「ふーむ」
そう言ってコアを撫ぜるゲンドウ。
まるで愛撫するかのように優しく撫でる。
ますます呼吸を荒くするシンジ。
「んー、やっぱりコアが一番美味いんすかね、使徒って」
狩野が真面目な顔をして呟く。
「倒した直後なら刺身に出来たかもな」
ゲンドウも呟く。
「昔から『使徒は骨まで食える』と言うからな。鍋物でも良いだろう」
そんな諺はない。
刺身にした場合、コアにつけるのはワサビかニンニク醤油かと言うどうでもいい話で激論を交わすネルフ参中年。(1人老人だが)
どんどん呼吸が荒くなるシンジ。顔が上気し始めている。
「「良い物は良い!!」」
「「悪い物は悪い!!」」
よく分からない結論に至ったミサトとリツコ。
次の日、退職願が大量に提出されて冬月が頭を抱えたのは言うまでもない。
その夜、リツコはミサトとシンジから夕食の招待を受けた。
「悪いわねぇ」
「良いんですよ。カレーはやっぱり大人数で食べた方が美味しいんですから」
そう言って花道からシンジ、鍋を持って登場。
「シンちゃん!ワタシのはコレに入れてねー!!」
インスタントラーメンを差し出すミサト。
「はいはい」そう言って自分とリツコの分はライスの上に、ミサトの分はラーメンの上にカレーをかけようとお玉を持ち上げようとするシンジ。
まるで保父のような姿だ。
ピタリ
シンジの手が止まる。
なぜなら、シンジが鍋の中から持ち上げたお玉の―――
先が融けていたからだ。
「これ作ったのミサトね」そう言って携帯電話を取り出すリツコ。
「もしもしマヤ?鑑識・・・・・いえ、回収班を呼んで!ミサトのマンションよ!!フル装備よ!今度は本当に死人が出るかも知れないわ!!」
携帯電話を切るリツコ。
「えーーー!もったいなーい!!せっかく美味しく作れたのにー」
「「黙れ」」
2時間後、『葛城邸浄化作戦』は無事終了した。
出前のラーメン(リツコはチャーハンだが)をすする3人。
回収班からシャワーを浴びて体に付いた粒子を完全に落とすようキツク注意されたので3人ともサッパリしている。
「そうそう。忘れていたけどコレ明日レイに渡しておいてくれる?」
そう言ってネルフのセキュリティカードをシンジに渡すリツコ。
「狩野さんは?一緒に住んでいるんじゃないんですか?」
「狩野くんは今日夜番なの。丁度レイと入れ違いだからシンジ君が渡しておいて」
「レイと喋る口実が出来て良かったわねシンちゃん」ミサトがからかう。
「そんな事ないですよ!・・・・・・・・ただ、同じEVAのパイロットなのに綾波のこと、よく分からなくて」
「いい子よ。アナタのお父さんに似て不器用だけど」
「不器用って何がですか?」
「生きる事が」
「ミサトさんの方が不器用だと思うんですけど」
「ある意味、ミサトは器用とも言えるわ」
「超器用不器用ってわけですね」
「天然でやられるんだから始末に悪いわ。技術部と保安部から刺客が送られてこないのが不思議よ。せめてこの乳の半分でも役に立ってくれれば良いんだけど」
当の本人であるミサトは不機嫌そうにチャーシューメンをすすっていた。
結局、その栄養も乳に行くのだろうが。
えーと、思ったよりAパートってレイの出番少ないんですね、作者のミヤソーです。
ナレーター4号の正体希望のメールも来ないし、零号機の本格的な出番もまだなんで〆切り延長します。
ACT.06=B掲載前日を〆切りにします。
まあ、2001・8月末日と思ってもらえればOKですんで。
次回はたぶんレイが大活躍しますよ!・・・・・・・予定では。
それでは皆さンまた次回お会いしましょう!!
今回のメッセージは洞木ヒカリ嬢からです。
「次回はワタシも出演するわ。お楽しみにね!」
忘れてた。