ええ、あの一週間はまさに地獄でした。
何とか使徒を殲滅出来たばかりだと言うのにムリヤリ日向二尉と共に狩り出されましたからね。
最初は狩野副部長可哀想だなって思ってましたよ。すぐ松代に出張でしたからね。
でも次の日には羨ましく思いましたよ。
あの地獄を体験せずにすんだんですから。
確かにあのカブトガニモドキ達は気持ち悪かったし、不気味な植物にも参りました。
何よりも辛かったのは毎日のように赤木博士が「こんな事もあろうかと思って〜」と言って持ってくる新兵器ですね。
実際の効果よりも誤作動による爆発の方が強力でしたから。
サードチルドレン?
確かよく爆発に巻き込まれてましたよ。
オレや日向二尉と一緒に。
ネルフ社内報
青葉シゲル二尉インタビュー「如何にして生還できたか」より抜粋
私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!
ACT.03=A
鳴らない電話
あるいは
初めてケンカをした
writen by:MIYASOH
3DCGの第3新東京市内でパレットガンを構えるEVA初号機。
「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・・・・か」エントリープラグの中でシンジがボンヤリと呟く。
目の前には使徒を模した3DCG。
「通常、EVAは有線からの電力供給で稼動しています。非常時などで体内電源に切り替えると蓄積容量の関係でフルで1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼動できないわ。コレがワタシ達の科学の限界ってワケ。お分かりね」リツコがエントリープラグ内のシンジに向かって語りかけている。
「はあ・・・・・・・」シンジは目をこすりながら答えた。
シンジの体調は芳しくなかった。
この一週間ろくに眠れず、さらにリツコの新兵器が原因の爆発にも何度か巻き込まれた。
幸い、爆発の方はごく小規模な物でかすり傷や火傷程度で済んだのだが、結局それはミサトの部屋の掃除に進展を与えていない事を意味していた。
保安部いわく「一番役に立った装備は鋸と鉈だった」
あまりネルフの科学をアテにしてはいけない。
これがシンジの学んだ教訓だった。
ババババババババババババババババ
初号機のパレットガンが火を噴く。
仮想空間の中でだ。
現実には初号機はケイジ内でパレットガンの模造銃を構えているだけに過ぎない。
銃口が光っているのは作動確認の為だ。
「目標をセンターに入れてスイッチ」シンジは眠気を我慢しながら訓練を受けていた。
ミサトは居眠りをしていたが。
コンフォート17マンションの朝。
「いってきまーす」シンジが未だ惰眠を貪っているミサトに声をかける。
ミサトはくぐもった声で「うぅー」とか「ふぁいよー」とか言っていた。
ミサトの部屋は約一週間でなんとか人類の生活圏に戻った。
シンジはこの一週間満足に学校に行けなかった。登校出来ても授業中はほとんど眠っていた。
彼を責めてはいけない。
この一週間安全に睡眠を取れる場所は教室だけだったのだから。
そんな訳でシンジはまだ級友の顔も名前もよく分かっていなかった。
レイはまだ入院していた。
お見舞いには行けなかった。
なにしろ何時こっちがされる方にまわるのかも知れないのだから。
そんなシンジに喋りかけてくる同級生は少なかった。
メガネの少年と三つ編みの少女が時々話し掛けてきてくれたと思う。
夢かもしれないが。
とりあえずシンジは登校した。
第3新東京市立第2中学校。
シンジの通う中学だ。
評判は良くもなければ悪くもない。
第1中学校は進学校で第3中学校は不良が多い。第4中学校は自由な校風で制服がブレザー。
2中はハッキリ言って無個性である。
私立校は少ない。ただ少ないだけに異様に個性が強い。
「飛び級して大学にいった奴がいる」「百人相手にケンカをして勝った奴がいる」「机でお手玉が出来る奴がいる」「小鳥と話せる奴がいる」「中学じゃなくて高校だった」そんな噂がまことしやかに流れるくらい個性的だ。
比較的無個性なシンジはやはり無個性な第2中学校に通う事になった。
シンジの安全を危惧したネルフの判断だ。
数ヵ月後、数人の転校生によってこの判断は間違いだったと判明するがとにかく今は無個性な学校だ。
「オース、碇」メガネをかけた少年がシンジに向かって挨拶をした。
「あ、おはよう。えーと・・・・・」シンジはチョット安心した。
話し掛けてきてくれた人がいたという記憶が夢じゃなかったから。
「ケンスケ、相田ケンスケだ。やっぱりな、この一週間ずっと寝てたからまだ名前憶えてないと思ったんだよ」メガネの少年―――ケンスケは笑って言った。
「ボクは碇シンジ。改めてよろしく」シンジも微笑んだ。
休み時間、シンジとケンスケは話をしていた。
お互いの趣味の事、先生の噂、生徒の噂、他の学校の噂、色々話した。
友達っていいな。
シンジはおそらく初めてこの街に来て良かったと思った。
『碇くんがあのロボットのパイロットだって噂本当? Y/N』
そんなメールがシンジのノートパソコンに届いた。
この時代、学校の机にはノートパソコンが標準装備されているのだ。
生意気である。
だから漢字が読めるけど書けない人間が増えるのである。
ワタクシの時代など必ず漢字の書き取りの宿題があったものだ。
話がそれた。
『碇くんの後ろにいる黒衣の衣装着た人って何者?』
ワタクシの事か?
シンジは最初のメールには『YES』、2番目のメールには『気にしなくて良いらしいよ』と送信した。
「「ええ!?」」
クラスの半数以上の生徒が授業中にも関わらず立ち上がった。
「スゲ―!必殺技ある?」「なんで気にしちゃいけないの?」「どれくらい訓練したの?」「なんでマイク持ってるの?」「怖くない?」「カメラどこ?」「なんでずっと喋ってるの?」途端に質問攻めに遭うシンジ。
ああ、喧しい。
「必殺技はないって」「なんかよく知らないけど“大人の約束”らしいよ」「全然訓練なんてしてないよ」「ナレーターだからね」「怖いよ」「カメラさんはいないらしいよ」「仕事だからじゃない?」シンジは質問に一つ一つ丁寧に答えていた。
御苦労!!
「ちょっとみんな!授業中よ!!」三つ編みの少女が注意を促す。
先生もシンジに質問しているので意味がないけど。
ガラリ
教室のドアが開き黒いジャージを着た少年が入ってきた。見た顔ではない。
「話は聞いたで、転校生!」
「鈴原!この一週間無断で休んでどこ行ってたのよ!」三つ編みの少女が叫ぶ。
「すまんな、イインチョ。説明はあとでするわ。それより転校生!来い!!」シンジに向かって手招きする。
今が授業時間中なんて誰も憶えてねぇ。
屋上。何処から見ても屋上である。もしココを屋上ではないと言う人がいたら連れてらっしゃい。ワタクシがとんと意見を差し上げやしょう。
このセリフ前にも言った気がする。
デジャブだろうか?
「なんなんだよトウジ。こんな所に碇を連れてきて」ケンスケが黒ジャージの少年―――鈴原トウジに尋ねた。
わざわざシンジについて来てくれたのである。義理堅い少年だ。
「ケンスケ、悪いけど口出さんでくれるかのー」そう言ってシンジの方を向く。
「転校生、貴様(きさん、と発音)があのロボットのパイロットっちゅー話は嘘やないやろな」
「う・・・・・うん」シンジはすっかりビビッてる。
(ああ〜、絶対ボクお金盗られるよ〜。お札全部渡しても許してくれなくて「ジャンプしてみろよ〜」とか言われて「おやぁ?チャリンチャリンいうじゃねーか」ってなってそれでそれで・・・・・・・・)妄想が広がってどんどん青くなるシンジ。
「ワッシはキサンを殴らにゃあかんのじゃ」
「な、ななななななななな何でボクが殴られなきゃいけないのかな・・・・・・・って思ったりしてハハ」動揺するシンジ。
「フン、キサンの戦い方がなっちょらんおかげでな、ワッシの妹が怪我をしたんじゃ!」吐き捨てるかのように言うトウジ。
ドクン
シンジの心臓が大きく脈打つ。
「け、怪我・・・・・?ボクのせいで・・・・・・・」真っ青になるシンジの顔。
唇が乾く。
ドクン
ドクン
ドクン
「そうや!キサンのせいで妹は・・・・・一週間も足に湿布貼って過ごさにゃならんかったんじゃ!!」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
デジャブにも似た沈黙。
「デジャブじゃないよ・・・・・・」
「・・・・・・・捻挫?」ケンスケが尋ねる。
「・・・・・・・一週間休んでいたのは看病じゃなかったの?」
「あれはただのサボりや!」胸をはるトウジ。
沈黙。
「捻挫くらいで殴ろうとするなぁぁぁぁぁ!!!」
「キサン!捻挫をコケにするつもりかい!気圧の低い日はシクシク痛むんじゃぞ!!」
「隣のフランクリン爺さんから伝授してもろた爆裂パンチを食らえェェェェ!!」
「ボクの中に眠る野獣よ、力を貸してくれ!!!」
当然のように2人はケンカを始めた。
物騒なセリフを言っているがごく普通のケンカだ。
別にパンチが爆発する事もなかったし、野獣も力を貸してくれなかった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
お昼休みである。
「じゃあ、オレ購買行ってくるんで」ケンスケは購買部に向かって階段を降りていった。
ワタクシは弁当である。
マイダーリン特製の弁当である。
ネルフの規則によって性別を明かせないのでワイフかハズバンドかは秘密だ。
ワタクシが教室に弁当を取りに戻り、ケンスケが購買部から屋上に戻ってきてもまだケンカは続いていた。
空は今日も青い。
「なかなかやりおるのぉ、転校生」トウジが肩で息をしながら言った。
ちなみにあと10分で5時間目が始まる。
「そ、そっちこそ」シンジも息が上がっている。
「ワッシは鈴原トウジや、よろしくな」
「ボクは碇シンジ」
そう言ってガッチリと握手を交わす2人。
しかし拳と言う物は言葉より深く語れる物である。
たかだか30分のケンカでシンジの性格が変わっているのだから。
シンジに友人が出来て二週間後、
使徒再来。
まいどドーモ、ミヤソーです。
今回は全体的にコメディですね。まあ、前回(ACT02=B)もそうでしたけど。
トウジの妹の怪我は色々考えたんですけど、やはり軽く行こうと思ったんで捻挫にしました。
本当は捻挫と言ってもピンからキリまであるんですが症状の軽いやつを意識しました。
ちなみに妹の名前は決めてません。
「ナツミ」とか「ナツコ」とか候補はあるんですけど結構使ってる作家さんが多いんでどうしようかなと思いまして。
ついでに言っておきますが自分は大阪弁をよく知りません。
そんなわけで知ってる方言らしき言葉全てをトウジのセリフに叩き込みました。
許してください。
それにしても今回明らかになった事実がありますね。
ナレーター1号が既婚者だったとは!
裏設定では2号には子供が1人、3号は独身です。4号以降は決めてません。
ナレーター4号以降の正体になりたい人メール下さいね。
顔も本名も出ませんが。
予定では最終話のあとがきで発表します。(早くなる事もあります)
ちなみに4号は零号機エントリープラグ、5号が弐号機エントリープラグ内を担当します。
それではまた次回お会いしましょう!
今回のメッセージは赤木リツコ女史からです。
「・・・・・・・不様ね」
やっぱりそうきたか!