今回も話は少し遡る。
シンジがリツコに廊下で眠らされた頃だ。
「不様ね・・・・・」2人に背後からかかる冷たい声。
「「リツコ!!」」振り返った2人が見たものは、セミロングの金髪で白衣に吹き矢と言う姿の赤木リツコであった。
「司令からの伝言よ。“まだ伝えるな”ですって」リツコは吹き矢を白衣のポケットに仕舞いながら言った。
「・・・・・・・・・そうか、分かった」狩野が頷いた。
「どー言う事?」ミサトはイマイチ飲み込みが悪い。やはり脳にいくはずの栄養が全て胸に行ってしまったからであろうか。
「んー、あのプチハゲ(ゲンドウ)も人の親って事かな?まあ、詳しい事は後で話すわ」そう言って狩野はシンジを背負って歩き出した。
話は唐突に現在に戻る。
ブラックアウトするメインモニター。一瞬の間があって映像が回復する。
炎の中を悠然と立つEVA初号機。
焼け爛れた素体から覗く眼は狂気の色に染まっている。
「初号機、パイロットともに生存を確認!」メガネのオペレーター―日向マコトが叫ぶ。
「回収班出動!!救急隊に伝達―――急げ!!」技術局の連中が慌ただしく動き出した。
「急いで口で吸え!!」また勘違いしている奴がいる。
・・・・・・・・・・さっきの奴だ。
そいつはまた保安部に連れて行かれた。
「・・・・・・・・・・・・諸君」ゲンドウがおもむろに口を開いた。
一瞬動きの止まる職員。
「・・・・・・・・・・・・今回は、EVAの暴走によって辛くも勝利する事が出来た。だが、次もこう上手くいくとは限らん。気を引き締めて行け」次の瞬間、また慌ただしく動き出す職員。
「・・・・・・・・まだ、伝えんのかね?」冬月が小声で問うた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ゲンドウは無言。表情は見えない。
私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!
ACT.02=B
The Beast
or
I won,but I don't know anything
writen by:MIYASOH
(見知らぬ天井だ・・・・・・・・・)シンジは病室のベッドでボンヤリとそんな事を考えていた。
(何がどうなったんだ・・・・・・・・・?)ベッドから上半身だけ起き出し、フと息を吐いた。
「分かるわけないか・・・・・・・・」
窓の外からはセミの求愛の声―――エラクはた迷惑な求愛である―――が聞こえていた。
ドサッ
またベッドに体を預ける。
何の気なしに横を向き、涙を流した。
シンジの視線の先にはゲンドウの字で“食え”とだけ書かれたメモの貼られたバナナが一房置いてあった。
ネルフ総司令室―――そう書かれた部屋にゲンドウはいた。
1人ではない。彼を囲むように5人の老人達が座っていた。全員白人種と思われる。
先に言って置くがハンカチ落しではない。勿論フルーツバスケットでもなければ自己啓発セミナーごっこでもない。
謎の会議である。
「使徒再来か。あまりに唐突だな」謎の会議の謎のメンバーの1人が言った。(顔が四角い)
「15年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるのだ」謎のメンバーその2が言った。(クチヒゲがある)
「幸いとも言えるな。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな」その3が続ける。(鼻が高い)
「そいつはまだ分からんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」その4が付け加えた。(額が広い)
どうやら株主総会らしい。
「『人類補完計画』これこそが、君の急務だぞ」クチヒゲが言った。
「さよう。その計画こそがこの絶望的状況における唯一の希望なのだ。我々のな」外人は倒置法の使い場所がオカシイ。
「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう」その5、バイザー姿と言う若作りのメンバーが偉そうに言った。やはり株主は偉い。
「では、後は委員会の仕事だ」
委員会?株主総会じゃなかったのか?
「碇君、ご苦労だったな」顔が四角い男がそう言うとバイザー以外のメンバーが掻き消えた。
そうか!忍者か!!忍者委員会か!!
「―――人類補完委員会だ」バイザーが憎々しげに教えてくれた。
ありがとう。感謝の言葉。
「碇、後戻りは出来んぞ」バイザーが疲れた顔で言った。
「分かってる。人間には時間がないのだ」ゲンドウは下を向いて答えた。
テレビでは緊急報道番組が放映されている。
どうやら自然災害のせいにしたらしい。
「発表はB−22か。またも真実は闇の中ってわけね」ミサトがオレンジ色の防護服姿のまま言った。
ちなみにここは使徒の爆発跡の中心にあるテントの中だ。
「広報部は喜んでいたわよ。やっと仕事が出来るって」同じ姿のリツコが言った。
「営業の連中はぼやいてたけどな。客が離れるって」狩野が言った。ちなみに狩野の防護服は色が違う。
どうやらサイズが無かったらしい。
ちなみにネルフ営業部はカラオケボックス・マンガ喫茶・100円ショップ経営などを担当している。
現在のネルフの生命線の1つである。
シンジは泣きながらバナナを食っていた。
幼い頃熱を出した時いつもゲンドウはシンジにバナナを食べさせていたのだ。
食った。
食った。
さらに食った。
食いも食ったり、食われも食われたり。そんな言葉が脳裏に浮かぶような食いっぷりだ。
バナナを食いすぎて気分の悪くなったシンジはナースコールを押した。
ネルフに帰る途中のトラックの中―――
「でさ、そろそろ説明してよ。あの子の事」ミサトが後部座席の狩野に問うた。
狩野は後部座席で煙草を吸っていた。
煙を吐き出して灰皿に煙草をねじり込む。
「んー、まあオレもそんなに詳しく知ってるわけじゃないけどな・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・あるところに『巨凶』と呼ばれる男がいました。
彼は『戦闘氏族』と呼ばれる一族の娘と結婚しました。
ところが、2人の間に出来た子供は自分の力を制御する事が出来ませんでした。
・・・・・・・・・・・それだけだ」
「だからその『巨凶』とか『戦闘氏族』って言うのが分かんないのよ!!」
「オレだって知るかァァァァァァァァ!!!あのハゲが勝手に自分と嫁さんの事をそう言ってるだけだ!!!」
大きく揺れるトラック。
ハンドルを握っているリツコが溜息をついた。
(そう言えば・・・・・・・・・溜息をつくと幸せが逃げていくって言うわね・・・・・・・・)
自覚はあるらしい。
コンコン
病室のドアがノックされた。
「入るぞー。シンジー」狩野の声が聞こえる。
「どうぞ」シンジはベッドに腰掛けたまま答えた。
ガチャリ
狩野とミサトが入ってきた。
「あいよ、お見舞いのドラ焼き」そう言って包みを渡す。
「元気そうね。良かった」ミサトが微笑む。
「で、早速だけどチョット渡さなきゃならん書類があってな。
先ず契約書だろ。あと国民年金のやつと厚生年金と給与の振込み指定のやつと・・・・・・・」
何枚もの書類を鞄から出す狩野。
「・・・・・・でもって給与のことだけど、一応訓練が月に50時間予定されててその間が時給制。実戦時が成功報酬だ。ちなみに被害が大きければある程度マイナスされっから」計算機を取り出してなにやら計算してる狩野。
「で、今回の出動分の給与がコレだ。初陣だからチョットおまけしておいたぞ」懐から厚めの封筒を出してシンジに渡す。
シンジは状況に流されていた。ろくに内容を読みもせずに次々と記入し捺印する。それの繰り返しだ。
この2人が詐欺師じゃなくてよかったな。
ちなみにミサトはドラ焼きを頬張っていた。
「じゃあ、コレがオレの携帯の番号だ。なんかあったら何時でも連絡しろよ」名刺を渡してクシャリとシンジの頭を撫でる狩野。
「それじゃミサト、オレはレイに顔見せたらすぐ松代の方に行かなきゃならんから後頼むな」バタバタと慌ただしく病室を出て行く狩野。
狩野が出て行って広く感じる病室。
比喩でもなければ心理描写でもないので注意が必要だ。
「あの・・・・・」
「んぐんぐんぐ。・・・・・なに?」ドラ焼きを飲み込みながら答えるミサト。
「レイってさっきの青い髪の子の事ですか・・・・・・・・・?」
「あらー?気になるぅ?やっぱ男の子ねー」
「ち、違いますよ!ボクはそんな・・・・・。怪我していたみたいだから具合どうなのかなって」真っ赤になりながら否定するシンジ。実際は脳裏に『レイに付きっきりの看病をする間に芽生えるラヴ』というシチュエーションの妄想が浮かんでいたのだ。
残念ながらこの時シンジの思い描いていた妄想は数分後見事にブチ砕かれる。
「ふふ。お見舞いに行きましょうか?」
病室には綾波レイと書かれていた。
(確か狩野さんの娘って言ってたよなぁ。なんで名字が違うんだろう・・・・・・・。聞いちゃダメなんだろうなぁ)
「先に言っておくけどレイはテンシュウさんの実の娘じゃないわ。法的にもね」ミサトが表札を見て首をひねっているシンジ助け舟を出した。
「養女でもないんですか?」
「成人したら選ばせるって言っていたわ。それまでは・・・・・・・・確か『名前には意味があるから』とか言ってたわね」
「はあ」
コンコン
病室のドアがノックされた。
「レイ、今平気?」ミサトが尋ねる。
「・・・・・・・・・どうぞ」レイの声が聞こえた。
ガチャリ
レイには先日と同じように包帯が巻かれていた。
「あ、あの調子はどうかな、なんて思ってその・・・・・」しどろもどろになりながら話し掛けるシンジ。
「・・・・・・・・・アナタは?」
「え?えーと、碇シンジ。うん。あのえっと、昨日あのロボットに乗ったんだ」
「・・・・・・・・・そう。アナタが碇シンジ・・・・・・」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
嫌ってくらいの沈黙。
シンジは消えてしまいたいと思っていた。
ミサトは(気を利かせて黙っているんだからなんか気の利いたこと言いなさいよ)と思っていた。
レイは―――――
「・・・・・・・・・・餃子」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
世界が終わる瞬間と言う物に出会えるとしたらこんな感じなんだろうなってくらいの沈黙。
「・・・・・・・・・・お父さんがアナタにあったら元気が出るような事を言っといてくれって」
「・・・・・・・・・・確かに元気は出るけどね」ミサトは呆れていた。
シンジは固まっていた。
「じゃ、じゃあワタシ達これから・・・・えーと、そうそう!司令に会わなきゃならないから」
逃げ出したくなったミサト。
「・・・・・・・・・・・そう。さよなら」
シンジを連れて(引っ張って)病室から出るミサト。
沈黙。
「・・・・・・・・・・・オッパイの方が良かったかしら」
私も逃げ出したい。
ジオフロント天蓋から生えるビルの最上層。床はガラス張りになっていてネルフ本部が一望出来る。
ハッキリ言って高所恐怖症の人は目も開けられないだろう。
そんな部屋にミサトとシンジは連れてこられた。
「いいのですか?同居じゃなくて」ミサトがゲンドウに尋ねる。手にはシンジの新住所――本部の寮である、が記載された住民票があった。
「碇たちにとってお互いにいない事が当たり前の生活なのだよ」冬月が答える。
「それでいいの?シンジ君」
「はい。慣れてますから」あっけらかんと答えるシンジ。
ミサトの顔は強張っていた。
ピポパポピペ
廊下で携帯電話をかけるミサト。
「もしもし?リツコ?シンジ君はワタシが引き取るわ。
大丈夫だって。中学生に手ぇ出すほど飢えてないわよ。
じゃあ、上にはよろしく言っておいてね」
電話からはリツコの金切り声が漏れていたが情け容赦なくきるミサト。
「と、言うわけでシンジ君!!いえ!シンちゃん!!!アナタには家族が必要よ!!そしてワタシがそのひねた根性叩きなおしてあげるわ!!!」テンションの高いミサト。
「そんな!ミサトさんには関係ないじゃないですか!!」
「うるさい!!上司命令よ!!!」
軽快に走るミサトの愛車、青いルノー。
後部座席にはシンジの歓迎用のレトルト食品があふれていた。
(買った食材が全部レトルトか・・・・・・・・ボクが料理しなきゃなんないのかな・・・・)シンジはちょっと暗くなっていた。
「悪いけど寄り道するわね」そう言ってハンドルを切るミサト。
ルノーは丘の上にある公園で止まった。
一望出来る第3新東京市。
そして巨大な夕日。
ビルも山も人も全部が赤く染まる。
「どう?これがあなたの守った世界よ」ミサトがシンジの方に振り返って言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」シンジは無言で夕日に見入っていた。
ポツリと涙がこぼれた。
ミサトの部屋があるマンション、コンフォート17。
「いい?今日からココがアナタの家なんだから『ただいま』って言うのよ。あとチョット掃除してなくて汚いけど我慢してね」ドアの前でミサトが言った。
微笑んでうなずくシンジ。
次の瞬間。
弾け跳ぶドア。
植物のものらしい蠢く触手。
空中に飛び去る奇怪な昆虫。
血まみれになりながら這い出てくる黒服の男たち。
「すいません葛城一尉!!帰宅までに抑えきれませんでした!!!」黒服の1人がミサトに向かって叫ぶ。
「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」
「もうオレはダメだ・・・・・・女房にコレを・・・・・・・・」そう言いながら同僚に形見を渡そうとしている奴もいる。
ネルフ保安部の連中だ。
羽の生えたカブトガニらしき昆虫(?)がシンジの顔にへばりつく。
「・・・・・・・・シンジ君、コレもアナタが守った世界よ」ミサトが呆然と呟く。
「・・・・・・・滅んでしまえば良いのに」
同感だ。
なんか前回と印象が違う内容ですが「J.G.S.U.P 02=B」です。
演出もテレビ版と逆になりましたねー。この試みが成功なら良いんですけど。
次回のサブタイトルはまだ思いついてません。
ちなみに、前回まで狩野がミサトのことを「葛城」と呼んでいたんですけど改訂して「ミサト」と呼ばすようにしました。
やっぱり「葛城」って呼んでイイのは加持だけかなって思ったんで。
それではまた次回お会いしましょう。
今回のメッセージはロン毛オペレーターです。
「なんでオレだけまだ名前出てないんスカ!?フォントもちっちゃいし!!」
華が無いからねえ。