「これからボク、父のところへ行くんですか」シンジが無表情のまま尋ねる。
「んー、一先ずそうだな」狩野はダッシュボードを探りながら答える。
「あ、悪いけどコレ読んどいてくれな」そう言って狩野は『ようこそネルフゑ』と書かれた小冊子をダッシュボードから見つけてシンジに手渡した。
「まあそんなに大した事書いてあるわけじゃないんだけど一応非公開組織だからほんの些細な事―健康診断は年2回ですってな事まで機密扱いだから、読み終わったら返してくれな」ニヤリと笑って言う狩野。
「ネルフ・・・・・・父さんの仕事。何かするんですか、ボク」まだ無表情のままシンジが尋ねる。
「そうですよね・・・・・・父さんが、父さんが用もないのにボクに手紙をくれるなんて、そんな事あるはずがないですよね・・・・・」無表情。狩野は言葉を探していた。この世の中全てに対して諦観しきっている様な少年になにか懸けるべき言葉があると信じて。
その頃シンジは小冊子の中に『完璧』『殲滅』『狂気』という文字があまりにも多く載っているのを見て再度後悔していた。
「いや、でも、ほら、あれだぞ。先輩だってあー見えて実は・・・・・・・・・・」
ガゴン
狩野の言葉を遮る様にカートレインが止まる。
「スゴイ!本物のジオフロントだ!」シンジが目の前に開けた光景に対して感嘆の声を上げる。
シンジ達の目の前には、室内ながらも雄大な巨大な自然の森、湖、天蓋から逆さに伸びるビル群、そして湖の傍にたたずむピラミッド状の建造物が存在していた。
(オレに気を使ってくれたのか・・・・・?)狩野は一瞬そういぶかしんだがその考えを表には出さなかった。
「ああ、あれがオレ達の秘密基地ネルフ本部・・・・・・人類の砦だ」
私家版・新世紀エヴァンゲリオン
Japanese Gentleman Stand Up Please!
ACT.01=B
ANGEL ATTACK
or
The large one,
who isn't father's proxy“Big breasts”,
comes for me.
writen by:MIYASOH
「遅いっ!!」
本部に辿りつくと同時に愛車は沈黙、顔は煤まみれ、火傷擦り傷は数知れない、そんな2人に向かって懸けられたのはねぎらいの言葉でも同情の言葉でもなく叱咤であった。
叱咤の言葉を発したのは、年のころなら20代後半のダイナマイツバディの美女、ネルフが誇る作戦部長、葛城ミサト一尉(29)であった。
ドゴフッ
ミサトの拳がナレーター1号の顎を砕く。
ちなみに本部内に関してはナレーター2号が担当しますのでご心配なく。
「キミが碇シンジクンね。ワタシは葛城ミサト、このデカイのと同じでアナタのお父さんの部下よ。よろしくねん」そう言って右手を差し出すミサト。先程ナレーター1号を殲滅した時の悪鬼の・・・・・ゴフンゴフン!えー、戦いの女神の様な形相から一転して人懐こい笑みを浮かべる。
どうも、とか言いながら顔を赤くしてその手を握るシンジ。だまされちゃいけないぞ。
「遅いっつったってなー。だいたいオレの車はお前のみたいに下品な改造してないんだし、N2地雷の余波に巻き込まれて死ぬところだったんだぞこっちは!!」狩野が噛み付く。
「うっさい!下品な改造とはなによ、下品な改造とは!!」
「あんなエンジンの音出すような改造を下品と言わず何を下品と言えば良いんだ!!」
「だいたいねー、アンタみたいなウスノロドライバーにエンジン音のこと語って欲しくないわよ!」
「オレは安全運転なだけだ!」
「・・・・・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・!!」口喧嘩しながらずんずん本部に進む狩野とミサト。
「あの2人っていつもこうなんですか?」
だいたいこんな感じです。
3人が歩く。
歩く。
歩く。
延々と歩く。
「あの・・・・・・」シンジが声をかけるとビクッとする狩野とミサト。
「もう30分も歩いているんですけど・・・・・・・・・」
「これは・・・・・アレだよ。なあ、ミサト」
「そ、そそそうよ。ねえ、アレよアレ。・・・・・・・・・・・・・・そう!テロ対策よ!」
「そうそう!テロ対策テロ対策!ほら、放送局なんかといっしょで万が一テロリストに侵入されたとき簡単に占拠されない様にわざと複雑な構造になってるんだよ」イヤな汗を背中にじっとりとかきながら説明する2人。
「・・・・・・・・・迷ったんですか?」
沈黙。
「迷ったんですね?」
そっとアイコンタクトしながらも沈黙する2人。
父からの唐突過ぎる手紙、謎の巨大生物、爆発、デカイ乳じゃなくただデカイだけのオッサンが迎えにきた、大爆発、やっと自分が好きになれそうだったのに勘違いだった、そして長い間歩かされた。
これらの事象は少年の脆い心にひびを入れさせるのに充分だった。
「迷いやがったな!てめえらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ぶちぎれるシンジ。金剛並である。
「ななななななななななななななななななななななななななんとかしろ、ミサト!!!!」廊下を全力疾走しながら叫ぶ狩野。
「なんとかってなによぉぉぉぉ!」やはり全力疾走しながら答えるミサト。
2人の背後からは内に眠る野獣の力を解放させたシンジが迫っていた。
危険である。
ディンジャーである。
それはその人生の約3分の1を軍人として過ごしてきたミサトにとっても、その人生の約4割をサラリーマンとして過ごしてきた狩野にも未知の恐怖であった。
「「そうだ(よ)!!リツコよ(だ)!!」」同時に思いつく2人。しかしそれはこの状況を打破する為というより被害者を増やせばそれだけ自分の助かる確率が高くなるという心理から来るものだった。
「ま待てシンジ!!今、今ココに詳しい奴呼ぶから!な、な!」震える足を抑えながら必死に時間稼ぎをする狩野。
「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・」すでに野獣に支配されつつあるシンジ。
「もしもし!リツコ!?今J=58区域にいるわ!今すぐ来て!!」携帯電話に怒鳴っているミサト。ドンとミサトの背中に何かが当たる。狩野だ。
狩野がじりじりと後退していたのだ。
ゆっくりと振り返ったミサトの眼にギラヌラと目を輝かせたシンジが映る。
ヒタリ
一歩踏み出すシンジ。
同じく一歩後退する2人。
ヒタリヒタリ
二歩進むシンジ。
三歩後退する2人。
ゴクリ
誰かがツバを呑む音が響く。
ゆっくりと身を沈ませるシンジ。それは猛獣が獲物に飛び掛る直前にする動作に似ていた。
涙目になりつつ覚悟を決める狩野。
懐の銃に手をかけて良いのかどうか迷うミサト。
残像を残して弾けるシンジ。
(上か!)急いで銃を抜くとシンジの予想進路に銃口を向けるミサト。
(いない!?)しかしそこにシンジはいなかった。
ミサトの予想した進路よりも低く跳躍したシンジ。
猫科の猛獣のように指を軽く曲げ、口を大きく開けている。
もうダメだ。
狩野は死の覚悟をした。
何か有効な手段は!?
ミサトは瞬間的に様々な戦術を頭に展開する。
だが、致命的な隙を作ってしまったミサトが取れる有効な戦術はなかった。
シンジはそのままの格好で狩野に当たる。
それだけだった。
「寝てる・・・・・・・・・?」狩野の腕の中で昏倒するシンジ。額から針のような物が生えている。
「不様ね・・・・・」2人に背後からかかる冷たい声。
「「リツコ!!」」振り返った2人が見たものは、セミロングの金髪で白衣に吹き矢と言う姿の赤木リツコであった。
(ひろい・・・・・・・暖かい・・・・・・・・・父さんの背中ってこういう感じなのかな・・・・・・・・・)
狩野に背負われて眠っていたシンジが目覚めようとしていた。
「やっぱり男の子は重いな」狩野の声はどこか楽しげであった。
「おんぶなんて何年ぶり?お父さん」ミサトがからかうような調子で尋ねた。
「ん〜、たしか先週に1回してやったな」
「先週!?14歳でしょ?」
「いや、ほら仕事が長引いただろ?それで一緒に帰って駐車場についたのが2時頃だったんだよ。それで起すのもアレだなって思って」
(羨ましいな・・・・・・・・・おんぶなんて何年ぶりだろう・・・・・・・・・おんぶ?・・・・・・・・・誰にされてるんだ?)
「あ!すいません狩野さん!なんかよく分らないんですけど、急に意識がなくなっちゃって」
「いや、良いって良いって」眼が覚めて慌てて降りようとするシンジに向かって狩野がやさしげに言った。
結局シンジは狩野に何度も謝りつつ背中から降りた。
「あなたがマルドゥックの報告書にあったサードチルドレン、碇シンジクンね」リツコが確認するかのように尋ねる。
「・・・・・・・・・は?えっと、確かにボクは碇シンジですけど・・・・・・」
(マル・・・・・なんだって?それにサード?三塁?)シンジの頭の上に?マークが大量に飛んだ。
「ワタシはネルフ技術局第一課E計画担当者、赤木リツコよ。リツコでいいわ」
「は・・・・・はあ」
「そうそう!ワタシもミサトで良いからねん」
「んー、オレはまあ、適当に呼べや」
「あ、あのよろしくお願いします。リツコさん、ミサトさん、狩野さん」一先ずシンジは頭を下げた。
「そろそろ予備が届く頃だな・・・・・」ゲンドウがポツリと言った。
「では、冬月。後を頼む」そう初老の男―冬月に言うとゲンドウは手摺だけと言う簡略化されたデザインのエレベーターに乗って降りていった。
「3年ぶりの対面か・・・・・」冬月の呟きは闇に吸い込まれた。
4人がたどり着いた先には悪魔がいた。
正確には紫色をした一本角の悪魔のようなデザインの巨大な顔面である。肩から下はオレンジ色の液体が満たされたプールで隠されている。
「どうだ、カッコイイだろ?」狩野が笑って言った。
「顔・・・・・・・・・巨大ロボット?」シンジが狩野に尋ねる。が、答えたのはリツコであった。
「人の造り出した究極の汎用決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」淡々と説明するリツコ。
「これも父の仕事ですか」シンジはそう尋ねるも視線は初号機から離れなかった。
「そうだ」上から声が響いた。
その声に反射的に顔を上げるシンジ。
視線の先には自分を捨て、さらにまた呼び出した実父、碇ゲンドウがいた。
「・・・・・・・・・久しぶりだな」ゲンドウはなんとか笑おうとした。3年ぶりに息子に会うのだから笑顔で迎えるべきだと冬月に重々に言われたのだ。
無理だった。
悪人フェイスと言う事では狩野とともに1、2を争うゲンドウである。しかも笑い慣れていない。
結果としてそれは獲物を値踏みするヤ○ザのような表情にしかならなかった。
狩野とリツコがほぼ同時に溜息をつく。
「父さん・・・・・・・・・」視線をそらすシンジ。
無理もない。
「・・・・・・・・・・・・出撃」間がもたなくなってとんでもない事を言い出すゲンドウ。本当ならこのセリフに行き着くまでに親子の対話、和解、現状の説明、説得などの膨大な量のシナリオがあったのだが、忘れてしまったらしい。
「出撃!?零号機は凍結中だろ?」狩野がリツコに問う。
「まさか、初号機!?」ミサトが驚く。
「他に道はないわ」リツコが冷たく言い放った。
「チョット待て。レイは―あの娘はまだ入院中だろう。パイロットはどうするんだ」狩野が表情を変えずに言った。
「さっき届いたわ」と、リツコ。
「なるほどな」冷静に言う狩野。
「マジ?」ハッとして尋ねるミサト。
「碇シンジ君」シンジの方を見てリツコ。
「アナタが乗るのよ」
「へ?」呆然とするシンジ。
「そうだ。これにはお前が乗るのだ。そして使徒と戦うのだ」ゲンドウが言う。表情は見えない。
「無理です!レイでさえシンクロするのに7ヶ月かかったんですよ!今日来たばかりのこの子には無理です!!」反論するミサト。
「そうとばかりは言えないぞ」釘を刺す狩野。
「ちょっと!?テンシュウさん!!何納得してるのよ!!」激昂するミサト。
「冷静になれ、ミサト。レイは入院中。しかも内臓破裂だ。そんな状態で乗せてもまともに動けるはずない。痛み止めを注射する方法もあるが今度は痛み止めで動けなくなる。それに・・・・・・・」
「今は使徒迎撃が最優先事項です。その為には誰であれ、EVAとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしかないわ分ってるはずよ、葛城一尉」リツコが後を続けた。
沈黙するミサト。その頭の中に様々な可能性が去来する。
「・・・・・・・・・そうね」結局納得するミサト。
「無理だよ!!こんな、こんな見たことも聞いたこともないのに・・・・・出来るわけないよ!!」納得しないシンジ。
「説明を受けろ」と、冷たくゲンドウ。
「そんな・・・・・・できっこないよ!こんなのに乗れるわけないよ!!」
「乗るなら早くしろ。でなければ帰れ」相変わらずゲンドウの表情は見えない。
ズン
ゆれるケイジ。
「奴め、ここに気付きおったな」天井を見上げて憎々しげに言うゲンドウ。
「シンジクン、時間がないわ」と、リツコ。
「乗りなさい」ミサトも言い放つ。
「司令はああ言ったが拒否権はないぞ。アレに乗るか、人類が滅ぶか。2者択一だ」冷たく言う狩野。
まさに四面楚歌。
「ボクに死ねって言うのかよ!」
「シンジクン、逃げちゃダメよ。お父さんから・・・何よりも自分から」説得工作を試みるミサト。
「分ってるよ!!でも、できるわけないよ!!」
手元にある端末を操作して冬月を呼び出すゲンドウ。
「予備が使えなくなった。レイを起こしてくれ」
しばらくするとケイジにベッドが運ばれてくる。乗せられているのは顔、腕、胴に包帯を巻かれた蒼銀色の髪をした少女。
「レイッ!!!」狩野が駆け寄る。
「レイ、予備が使えなくなった。頼む」ゲンドウは冷たく言う。
無言で身を起こそうとするレイ。苦痛に顔が歪む。眼帯をされていない左目で狩野の眼を見る。心配させまいと眼を細めるレイ。
「司令!さっきも言ったでしょう!今のレイを乗せられるわけがない!!」ゲンドウに向かって振り返り怒鳴る狩野。
ゴガッ
再度大きくゆれるケイジ。しかし今度の方がゆれが激しい。
柱が崩れる。
真下にいるのはレイ。
走る狩野。
思わずシンジも走る。
レイの元にたどり着く狩野。レイを突き飛ばす。
突き飛ばされたレイにたどり着くシンジ。そろって狩野がいた方向を見やる。
狩野の頭上に迫る瓦礫。愕然とした表情のシンジ。反対にホッとした表情の狩野。
「お父さんっ!」レイが叫ぶ。
助けなければ。先週自分の子を背負ったと言っていた。自分をおんぶしてくれた。自らを犠牲にしてこの少女を助けようとして、そして少女の無事を確認してあんな表情をする。あのひとを。
あの人を助けなければ。
助けなければ。
シンジはそう思った。強く思った。
奇跡が起きた。
パイロットの乗っていない初号機の手が、まるでシンジに思いに呼応するかのように、落ちてくる瓦礫から守る為に狩野を庇ったのだ。
「また・・・・・・・・生き残ったか」頭上にある初号機の手を見上げながら呟く狩野。
「そんな・・・・・・」呆然とするリツコ。
「いける」確信するミサト。
初号機を見るシンジ。しかしその巨大な顔面は何も語らない。
ゆっくりと立ち上がってレイに近づく狩野。
「ありがとうな、シンジ」途中でシンジの方を向き、にっと微笑む狩野。
「レイ、大丈夫だったか?」レイの隣に腰をおろし彼女の蒼銀色の髪を撫でながら尋ねる狩野。
「お父さん!お父さん!」狩野に抱きつきその胸で泣きじゃくるレイ。
「やれやれ、今日はよく泣かれる日だな」レイの背中をポンポンと叩きながら呟く狩野。
「大丈夫だから、オレは大丈夫だから」レイをあやす狩野。
「EVAが・・・・・・シンジが助けてくれたから・・・・・・・・」
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
守らなければ。あの親子を守らなければ。
シンジは一旦ギュッと眼をつぶると大きく息を吸い込み―――、
「―――やります。ボクが乗ります!」
宣言した。
やっと、オリジナルの展開になりつつあるJ.G.S.U.P−01Bです。
構想ではなかなか乗ろうとしないシンジに向かって「まだるっこしい!俺が乗る!!」と狩野が叫ぶ予定だったのですが何時の間にやらこんな風になりました。奥が深いですね。
ちなみにこの作品、逆行モノっぽく始まりましたが狩野に前回の記憶はありません。
本編再構築モノとなっております。
えー、「綾波育成計画」とも何の関連もございません。ご心配なく。
それでは次回、初の戦闘シーン「見知らぬ天井 あるいは なんだかよくわからないけどともかく勝った」でお会いしましょう。
最後に今回は碇ゲンドウ氏からメッセージを預かっています。
「私だ。碇ゲンドウだ。次回のJ.G.S.U.Pは『ゲンドウ、シンジと朝食を摂る』『ゲンドウ、シンジと昼食を摂る』『ゲンドウ、シンジと夕食を摂る』の3本だ。ンガング!」
信用しないで下さい。