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まずは沖縄県外を全力を挙げて探るはずではなかったのか。
米海兵隊普天間飛行場の新たな移設先として、鳩山政権は名護市の米軍キャンプ・シュワブ陸上案を軸に検討している。平野博文官房長官と北沢俊美防衛相がルース駐日米国大使と会い、政府内の検討状況を伝えた。
自民党政権時代に日米両政府が合意したのは、シュワブ沿岸を一部埋め立てて滑走路を造る案だ。
陸上案も名護市への移設に変わりはない。それでも、サンゴ礁の美しい海を埋め立てずに済む。既存の基地内での建設なので、何とか地元の理解を得られるのではないか。政府はそう踏んでいるのかもしれない。
しかし、そもそもなぜ、日米合意以外の案を検討することになったのか、その原点を政権は忘れてはいまい。
沖縄に在日米軍基地の75%が集中する異常さを少しでも是正したい。負担軽減を求める県民の切実な訴えに応えたい。そんな決意ではなかったのか。
1月の名護市長選で移設反対派が当選。沖縄県議会は先月、県内移設に反対する意見書を全会一致で可決した。
一方で、北朝鮮の脅威や軍事大国化する中国の存在を考えれば、今ただちに海兵隊すべてをグアムに移すわけにもいくまい。
となれば政府が目指すべきことは、県外の候補地をぎりぎりまで追求することである。それなのに検討の軸に据えられた案がいきなり県内移設では、あまりに誠実さを欠く。現行案以外ならどこでもいいという話は通らない。
もちろん、騒音や事件・事故の危険性を考えれば、米軍基地を受け入れる自治体が簡単に見つかるはずがない。現にこれまで名前のあがった施設の地元では、首長や議会による反対表明が相次いでいる。しかし、そうした自治体の説得に、政府が粘り強く動いた様子はうかがえない。
さらに、今もなお「現行案が最善」との立場をとる米国政府を、シュワブ陸上案なら動かすことができるのか。
名護市長は現行案だけでなく、陸上案にも反対を明言している。連立与党の社民党も反対だ。鳩山政権が本腰を入れて国内を説得し、実現を目指す案でなければ、米国政府としても対応に困るのではないか。
鳩山由紀夫首相は5月末までに移設先の結論を出すことを内外に公約している。残された時間は長くはない。
本土への分散に努めるにしても、最終的に、沖縄県になお負担をかけ続けるような決着もありうるだろう。なのに、平野官房長官が名護市長選の結果を「斟酌(しんしゃく)」しないとの考えを示すなど、政府はこの間、沖縄の民意を逆なでするような言動を繰り返してきた。
まして最初から「県内」では、県民ばかりか国民の理解も得られない。
21年連続で2けた増が続き、国際社会に「脅威論」を広げる原因になった中国の国防費が、今年の予算案では前年実績の7.5%増にとどまった。
軍備増強にひた走ってきた隣国が、本当に国防費の伸びを抑えたのなら結構なことではある。だが、国防費の内容は相も変わらず不透明なままだ。
国防費の使い道は、将兵の人件費に3分の1、制服や設備、砲弾などに3分の1、新しい武器の研究・購入に3分の1。こんな説明が、国政への助言機関、全国政治協商会議の記者会見であったが、あまりにも具体性に欠けている。国防費とは別に予算計上されているという弾道ミサイルなどの予算規模も依然として明らかでない。
中国では、総額1兆8千億円が見込まれている航空母艦の建造が始まったほか、軌道上の衛星を攻撃するミサイル技術だけでなく、地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムの技術実験にも1月に成功した。
こうした海軍の遠洋作戦能力や宇宙空間での軍事能力を向上させる動きから、「中国はいよいよ軍事的にも覇権国家を目指しているのでは」という懸念も強まっている。中国当局の説明はそれを解消させるにはほど遠い。
新しい兵器や技術の開発、導入以外にも、中国はインドを囲むようにスリランカ、ミャンマー(ビルマ)、パキスタンなどでの港湾建設に協力している。エネルギーの確保のため、中東やアフリカまで広がったシーレーンの安定も視野に入れてのことだろう。インドなど周辺国が警戒感を高めれば、軍拡競争も引き起こす。
米国も世界中に軍事展開をしている。しかし、その米国でさえ様々な新しい脅威には一国で対処できない。先に発表された米オバマ政権による国防政策の見直し報告は「地球規模の公共財(グローバルコモンズ)」を確保するために、国際機関や各国との協調を重視する考えを打ち出した。
宇宙や海洋はいかなる国にも開かれるべきものである。グローバル時代の安全保障の基本だ。中国が自国の利益という視点だけで、やみくもに軍事力の展開を急ぐようでは、時代に逆行して「覇権国家を目指している」と見られてもやむを得ない。
中国は広大で、国境線は海岸線が1.8万キロ、陸地が2万キロに達し、近隣国は29。だが、冷戦も中ソ対立も中越対立も過去のものとなり米中協調が求められる時代だ。中国を侵略しようという国はないだろう。
平和な国際環境が続いたからこそ、中国は高成長を維持できた。国防費の伸びをさらに抑制し、透明性を高めることは、平和な環境を安定させる。中国にとって都合は悪くないはずだ。「覇権を求めない」というのなら、当然のことだ。