『グローカル』698号(2006/05/01)より

松下電器は米軍の戦争を支える
「パソコン兵器」の回収を行え!

大井択


地球にも米軍にも優しい企業! 

 四月二二、二三日と東京・代々木公園などを会場に「アースデイ東京二〇〇六」が開催され多くの人で賑わった。多数の企業が協賛した中に「松下電器産業」の名前があった。業界で流行りの「企業の社会的責任(CSR)」の一環であり、企業のイメージアップにも資するとの判断があるのだろう。また、松下電器がノンフロン冷蔵庫を開発したという経緯があってのことかもしれない。松下電器は国内の難民支援活動への協賛などもしているようだ。
 しかし、「社会貢献」と胸を張るその顔の裏に、血塗られたもう一つの顔が隠れていることはあまり知られていない。それは、米軍の最新の戦争システムの不可欠の一部を構成するノートパソコン『パナソニック タフブック』にまつわるものだ。

戦うコンピュータ

 それはまさしく「戦うコンピュータ」ないしは「パソコン兵器」とも言うべき事実上の「小型武器」だ。書籍『戦うコンピュータ〜軍事分野で進行中のIT革命とRMA』(井上孝司/毎日コミュニケーションズ)にはこうある。「米軍ではパナソニックのToughBookというノートPCが広く使われているが、これは構造を頑丈にして、振動や粉塵、湿気に耐えられるようにした特別製のノートPCだ」「実際、アメリカの作家が書いたテクノ・スリラー小説を読むと、しばしば『パナソニックの軍用ラップトップ』というフレーズが出てくる」。
 また、日米「軍産政複合体」の関係者が集結して二〇〇五年十一月に永田町の憲政記念館で開かれた「第六回日米安保戦略会議」の際、館内の「憲法五十年記念ホール」で同時開催された兵器見本市に置かれていた米巨大軍需企業「ノースロップ・グラマン」のパンフレットにも、戦闘地域の地図を画面に映し出した「タフブック」の写真がしっかり載っていた。
 江畑謙介の新著『情報と戦争』(NTT出版)は、統合された情報ネットワークが米軍の最新戦闘システムの要であることを、これでもかとばかりに描き出している。

臆面なき営業秘話 

 松下電器の「ISM ものづくりスピリッツ発見マガジン」と題されたサイトには、「タフブック」のこんな開発秘話=自慢話が掲載されている。(→http://panasonic.co.jp/ism/tough/02.html)。アメリカのパトカーのハイテク化に食い込んで営業を成功させた逸話。
 「タフブックに、銃撃戦の跳弾(他の場所に当たって跳ね返った弾丸)がヒットしたが、それでもちゃんと動作した!…嘘かホントか、こんな評判が広まりましてね」「その評判のおかげで、警察だけに留まらず、FBIなど、国家機密レベルの情報を扱う政府機関にも続々とタフブックの採用が決まっていきました」。
 輝かしい営業の成功。その延長が米軍への納入であり、アフガニスタンやイラクの戦場で米兵必携の「パソコン兵器」としての《活躍》をもたらしたのだろう。

戦争犯罪支援から手を引け! 

 米軍により殺されるイラクの、アフガンの民衆にとって「タフブック」とは何か。「ideas for life」とは松下電機Panasonicのキャッチコピーだが、これではまるで「ideas for killing」「ideas for death」の世界だ。イラク戦争は私たちの身近に顔をのぞかせている。
 米軍による侵略と占領という巨大な戦争犯罪への不可欠のサポートを提供することで、松下電器はまぎれもなく「企業の戦争責任」の領域に踏み込んだ。
 松下電器は、死亡事故を引き起こす石油暖房機の回収作業に勝るとも劣らぬエネルギーをかけて、戦場で使用され現在もなお虐殺に加担している自社製パソコン兵器「タフブック」を回収すべきだ。
 松下電器に対して、まずは米軍への納入台数データの情報公開を迫ることが必要だ。そのうえで、「戦争加担のタフブックを戦場から回収せよ」の声を突き付けるべきだろう。それは私たちが引き受けるべき責任だ。
 あのマイケル・ムーアなら、今頃ビデオカメラを担いで松下電器本社に押しかけ、例の突撃取材を敢行しているかもしれない。


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